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from Overseas

伊地知健(Los Angels, USA)

伊地知健(Los Angels, USA)

Cedars-Sinai Heart Institute, Los Angels, USA

2017年01月20日

【テーマ】2016-2017

いかに日本の医療を維持するか

今回のテーマは私のような若造には非常に難しい壮大なテーマですが、あくまで参考程度に読んでいただけると幸いです。 “日本の医療はいいの?悪いの?” アメリカの留学者が懸念することの一つが医療問題です。日本で加入できる保険は高いことに加えて、出産関連はカバーされない(日本では出産一時金や補助の仕組みがある)等、日本の医療の常識が通じません。日本ではタクシー代わりに救急車を要請することが問題になりますが、アメリカでは問題になりません。なぜなら救急車がタクシー代よりも明らかに高額だから(加入している保険や処置の内容にもよりますが)。以上のことから、アメリカでは医療アクセスが日本と比べて悪いという印象があります。また、日本の病院の多くは検査から治療まで一つの施設で完遂できるオールインワン型であるのに対し、アメリカでは検査施設が病院施設と別個に存在するところも良く見受けられます。しかも、緊急でない限り検査はあくまで予約制。私の知り合いの留学生の奥様で足の小指を骨折したにも関わらず受診せずに自力で治したという猛者もいました。経済面以外の部分でも患者負担が多いことは明らかで、患者側に立てば日本の医療アクセス、サービス水準は誇れるものであることがわかります。さて、日本の医療を客観的に見る上で参考になるデータとしてOECD加盟国で比較を行ったものがあります。http://www.oecd-ilibrary.org/social-issues-migration-health/health-at-a-glance_19991312

7-1

このデータを参照すると、まず日本の医師数はOECD諸外国の中でも少ないことが見て取れます。意外とアメリカの医師の数も日本と変わらないなぁと一瞬思いますが、次の2つのデータで日本とアメリカの医療の違いがわかります。

7-2

これは患者一人当たりの年間平均受診日数になります。日本は12.9日/年と、アメリカの4.0日/年と比較して3倍以上の格差があります。日本が誇る優れた皆保険の結果と言えるでしょうし、次のデータでは問題点も浮かんできます。

7-3

これは医師一人当たりの年間の延べ患者診察数になります。勤務医、開業医などでも違いはあると思いますが、このデータを見るだけで日本とアメリカの医師の仕事量の違いが見てとれます。この仕事量の多さは医療アクセスの利便性と連動していると推測されます。言い換えれば、今の日本の医療を支えるものは優れた皆保険制度のみならず、日本人医師の労働力があればこそとも言えるでしょう。おそらく循環器内科医の多くの先生が時間を気にすることなく日々診療に携わっておられるかと思います。もちろん私もその中の一人で、臨床の傍らで研究も並行するとなると様々な工夫とプライベートの取捨選択が必要になります。 “報酬” アメリカの医師の年収がどれぐらいかというと、2016年のMedscapeのデータが参考になります。 http://www.medscape.com/features/slideshow/compensation/2016/public/overview#page=1

7-4 American doctor payroll

循環器分野が堂々第2位。これは心臓血管外科との合算なので循環器内科医は平均3,610万円とのことです。http://forbesjapan.com/articles/detail/7201 日本の循環器内科医の年収は勤務医、開業医、役職の違いはあると思いますが、約1,270万円だそうです…みなさんはどうですか?(笑)。http://epilogi.dr-10.com/articles/420/ 日本の診療科ごとの年収の比較で特徴的なのは診療科の格差が200万円程度であることです。ご存知かと思いますが、アメリカにはドクターフィーがある為ここまで年収に差があるのでしょうが、このドクターフィーは加入保険に左右されるのでその保険に応じて受診する施設を選択しなければなりません。これは高い保険に加入できる人々にとっては人気のドクターを受診しやすくなる一方で、そうではない人々にはデメリットになるのではないでしょうか。このことからも患者さんに病院、医師の選択権があり、一定以上の医療を受けられる点では日本の医療サービス水準は誇れるものと思います。日本の一部の施設では独自にドクターフィー(インセンティブ手当)を導入しているところもあるようですが、いずれも施設からの手当なので患者さんへの直接の負担はないようです。たしかに給料はもらえることに越したことはないのでしょうが、Medscapeにこんなデータが示されています。

7-5 Happiest

いわゆる医師の幸福度調査ですね。平均年収では2位の循環器分野がかなり下の方にランクされています。また、こんなデータもあります。

7-6 burned out

これは燃え尽き症候群に関するデータですが、循環器分野の医師の半分が燃え尽きちゃっていますね…。2015年では循環器は46%だったので昨年よりも増加傾向にあります[1]。原因についても調査されています↓。

7-7 cause of burned out

これを見ると報酬に関することよりも上位に入ってくる原因は“雑用”と“時間”のようです。いや、彼らの報酬は日本と比べて十分いいとは思うのですけどね…。これまでのデータ全てが日本の医師にあてはまるとは限りませんが、参考となる部分もかなりあるかと思います。この結果からも改めて、仕事内容の是正と医師としてもワーク・ライフバランスを考えていかなければならないのかもしれませんね。 “時間” ワーク・ライフバランスを改善する方策はやはりスタッフの医師を増やすことなのでしょう。私も含めて皆様も若手循環器内科医師の獲得には日々注力されているかと思います。循環器内科を専攻する若手の多くがハードワークする気概のある方々だと予想されますが、今後は若手、特に女性医師の活躍にもさらに目を向けるべきでしょう。

7-8 share of female physician

これは2013年のOECDのデータですが、厚生労働省によると2012年の時点で医学部入学者に占める女性の割合は32.9%を占めているとのこと。これから益々比率が増えていくことが必然と言えます。 医学部女性医師が循環器内科を選べない理由として時間的、社会的、体力的な制約が考えられます[2]。

7-9 general obstacle against female career

↑循環器内科女性医師のキャリアに対する障害(男性医師との比較)

7-10 solutions for retention of female cardiologist

↑障害に対する解決策

これからもっともっと若手女性医師に循環器内科の一員になってもらう為には、まず上記に示す図を参考に対応していくことが必要なのかもしれません。実は、これらに対応をしていくことが結果的に今の我々にとってのワーク・ライフバランスの改善につながると考えます。 まだまだ医師の仕事の範囲は大きいのが現状ですが、今後は特定看護師(ナース・プラクティショナー)の増加や診療へのAIの導入により、医師の仕事量が少しずつ減少していく可能性もあります。こんな時代だからこそ、優れた日本の医療を支える医師のライフスタイルをもう一度見つめ直すタイミングなのかもしれません。

1. Michel, J.B., D.M. Sangha, and J.P. Erwin, 3rd, Burnout Among Cardiologists. Am J Cardiol, 2016.

2. Tsukada, Y.T., et al., Solutions for retention of female cardiologists: from the survey of gender differences in the work and life of cardiologists. Circ J, 2009. 73(11): p. 2076-83.