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from Overseas

猪原拓(North Carolina, USA)

猪原拓(North Carolina, USA)

Duke Clinical Research Institute, North Carolina, USA

2017年02月18日

【テーマ】2016-2017

ポジティブに捉えれば…

  1. 金銭面

留学先であるDuke Clinical Research Institute(DCRI)における自分の身分はResearch Fellowですが、その募集要項にDuke大学以外の施設からの応募の場合には給料面でのサポートは一切なく、元の所属施設から援助を受ける、あるいは奨学金などを獲得することが応募の必須条件と明記されています。そのため、現在の立場での給料交渉の余地は全くありません。

SUNRISEに参加されている方は臨床医が多く、臨床研究あるいは臨床による留学を目指している方が多いと思います。いわゆる基礎研究であれば、日本の大学で学位を取得し、ある程度の技能を身につけたうえで「ポスドク」という立場で給料を留学先から得ることも十分に可能です。一方で、臨床研究あるいは臨床による留学である場合には、留学先から給料を得ることはかなりハードルが高いように思います。また近年は状況が少しずつ変化していますが、一般的に臨床研究での留学の場合には、いわゆる留学グラントの獲得も基礎研究と比較すると困難なことが多いように思います。

そのため将来、留学を少しでも考えている方には、①少しでも貯金をする、②留学グラントの選考で有利になるように(学会発表でなく)論文を書く、③大学に所属している場合には学位を取る(留学グラントの応募要件に学位を課すものも多い)、ということをお勧めします。

DCRIのあるノースカロライナ州ダーラムは、田舎ですので物価も安く、金銭面での負担も軽く済んでいるように思います。それでも留学グラントだけではもちろん賄いきれないため、必然的に貯金を切り崩すことになります。どの程度貯金が必要になるかは留学先の場所や家族構成によって大きく異なると思いますが、ちょっと考えただけでも…航空券(2歳以上はしっかりと料金発生)、海外引越代、医療保険料(米国はこれが高い、家族3人で100万円近く…)、車保険料、車購入(車がないとスーパーにも行けないため2台購入)、家賃(大都市と比べると安いといっても月々10万円以上)、電話代、ケーブルテレビ+インターネット(これも高い、月々1万円ほど)、光熱費、食費、プレスクール代(これも高い)などなど。本当に計画的な貯蓄をお勧めしますし、SUNRISEからのサポートが文字通り支えになっています。最後に、社会人になり家庭を築いてから貯金を削ってまで留学をするという行為は、世間的に見ると普通ではないと思います。そのことをしっかりと認識して、留学中にできるだけのことをやりたいと思います。

 

  1. 生活面

生活でのダークサイドは色々とあると思います。大きなものであれば治安や医療へのアクセス、人種差別や文化の違いから生じる深刻な問題、小さなものであれば、ちょっとしたサービスの質、脆弱なインフラ(停電や断水)、食事とお風呂(毎日のことなのでボディーブローのように効いてきます)。これらに関しては、注意できるところは注意して、受け入れるものは受け入れて、ちょっとした違いは楽しむ柔軟さが必要なのだろうと思っています。

あと、賛否はあると思いますし、家族から協力が得られるかなど各々の家庭で状況は異なると思いますが、家族がいらっしゃる方は是非、家族での移住をお勧めします。色々と生活のうえでの困難はありましたが、家族の存在のおかげで乗り切ることができましたし、家族のおかげで交友関係は非常に広がりました。また留学後は家族との時間も多くとれるようになり、結束も強まったように思います。何よりも、渡米当初は全く英語を喋ることができなかった妻が他国のお友達を作り、3歳の息子がプレスクールでガールフレンドと楽しそうに遊んでいる姿を見ると、本当に勇気付けられます。

 

  1. 仕事面

臨床から離れているという不安が一番です。臨床のカンファレンスにも出席させてもらっていますが、やはりこの不安は拭いきれません。ただ、これに関しては分かっていたことなので、後悔はありません。

研究面でも色々とあります。一つ目は何と言っても言葉の壁です。カンファレンスやミーティングで、自分の言いたいことが言えず、もどかしい思いや悔しい思いをすることは日常茶飯事です。言葉の壁さえなければ…っと思うことが本当に多く、こればかりは努力して克服するしかないと思っています。

二つ目は、全てお金で動いているという事実です。DCRIでの研究は良くも悪くも専門分化しています。これは臨床研究の質を高めるためには非常に良いことと思っていますが、Research Fellowにとっては負の側面もあります。例えば、絶対に生データに触れることができません。扱うデータがメガトライアルのものであったり、全米レジストリだったりする関係で、我々が直接解析をするということができません。そのため、まずは解析する予算を獲得し、そのうえで統計家と解析計画を煮詰めて解析を行うことになります。そのため予算がなかなか獲得できない我々のようなFellowは、好きな研究というよりも、予算を提供してくれる上司の意向に沿った研究を行うことになります。もちろん、自分の視点とは全く違った考え方を学ぶことができるため非常に勉強になりますが、もっとこうしたことがやりたいのに…と煮え切らない思いを抱えることもしばしばです。

 

  1. 国際情勢

今、アメリカは揺れています。そんな真っ只中にアメリカにいるため、政治を肌で感じます。こうした変化がいつ自分の身に降りかかってくるか分かりません。現大統領は、留学生の多くが依存しているJ-1 VISAを廃止する考えも持っているようです。7月にVISA更新を控えている身としては、本当に切実な問題で、自分の現在の立場がいかに不安定であるかを感じます。

これまで日本で生活していて、これほど政治が生活に影響を与えるという経験をしたことがありませんでした。そして、アメリカと日本の関係、世界と日本との関係について深く考えることはありませんでした。他のFellowから真面目な顔で「日本は本気で核武装するつもりか?」とか「安倍首相の本音はなんだ?」とか「第二次世界大戦中における日系人捕虜の話」とか話題を振られると、自分がいかに日本という国やその歴史、他国との関わりについて無頓着だったのかということを痛感します。今回の大統領選は、自分にとって、多くのことを考えるきっかけになっています。

 

留学のダークサイドは挙げればキリがありませんし、「生活する」あるいは「仕事をする」ことだけ考えれば日本にいる方が遥かに楽だと思います。ただ、ダークサイドもポジティブに捉えると、色々と学ぶことができるきっかけになっているように思います。