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from Overseas

2018年09月22日

from Overseas

Brugada症候群の最前線(1)

心房細動シリーズの次は2回にわたってBrugada症候群を取り上げたいと思います。その名前のインパクトと生じうるイベントの重篤さから、最近では一般の方々にも認知され始めている疾患です。健診で心電図異常を指摘された方が、ネットで調べてみると危険な病気だと書いていたと心配されて循環器外来に相談に来られるケースもしばしば見受けられます。疾患が疾患だけに安易なことは言えませんので知識を常に整理しておくことはとても大切だと思います。折しも今年の3月に日本循環器学会の「遺伝性不整脈診療に関するガイドライン」が改定されました[1]。その中にはBrugada症候群に関する最新の情報が非常に詳細かつ分かりやすく紹介されています。そこで今回は最新のガイドラインの重要ポイントと、改訂に大きな影響を及ぼした日本からの論文をご紹介いたします。

1. Brugada症候群の診断

非常に有名な疾患ですがBrugarda症候群の診断基準について詳しい方は少ないと思います。今回の改訂では、有症候性、無症候性の定義を含めた診断基準がクリアに提示されております。

表1

表1: Brugada症候群の診断基準(ガイドラインより抜粋)。

まず、最重要ポイントは、Type1心電図が必須ということです。これは自然発症のみならず、上位肋間心電図やNa遮断薬投与時の心電図も全て含みます。逆に、Type1心電図がなければBrugada症候群とは診断されません。ここで重要なことは、Brugada症候群患者の心電図は経時的に変化しうるということです(発熱や食事の有無、時間帯などによって)。つまり、1回の心電図で診断することができません。そのため、非Type1といえども時間経過とともにType1に変化する場合があるため経過観察は必要と明記されています。また、非Type1心電図のみの場合も主要所見を認めた場合はその原因の精査、加療が必要とあります。今回のガイドラインに沿いますと、Brugada症候群疑いで相談を受けた場合、Type2もしくは3の場合でも少なくとも2回以上の心電図フォローは必要ということになります。そして、疑わしい症状もしくは背景因子がないかをしっかりと確認することが重要のようです。

2. イベント発症率およびリスク評価

表2

表2: Brugada症候群のイベント発症率(ガイドラインより抜粋)。

図1

図1: 症候性/無症候性患者の不整脈イベント発症率。本邦と諸外国の比較(文献2より)。

上の表および図をご覧いただきますと、無症候性Brugada症候群患者のイベント発症率は決して高くないということがご理解いただけると思います。本邦のデータでは特に低率であり、無症候群のイベント発症率は年0.5%程度です。そのため、上記の診断基準でも症状の有無がとても重要視されています。しかしながら、いつも疑問に思うのですが、不幸にしてイベントを発症された方々も、初回のイベント前は無症候性だったはずです。もちろんよくよく調べてみると何らかの兆候があったのかもしれませんが、無症候群の中に存在する真に危険な症例のみを特定する方法は現在のところ確立されておりません。その理由はBrugada症候群のイベント発症には様々なファクターが関与しているからです。今回のガイドラインに下記のような記載があります。

「Brugada症候群は、イオンチャネル遺伝子の単一遺伝子疾患としてだけではなく、複数の修飾遺伝子を含む未知の遺伝的背景や、炎症・線維化などの後天的要因・環境要因を含めた大きな枠組みでとらえる必要がある」

とても重要な考え方だと思います。現在判明しているリスク評価項目を加算的に評価し、患者ひとりひとりに対してリスク評価をしていくべきということだと思います。これは正に臨床医が日常診療で行っていることそのものだと感じました。

図2

図2: リスクの層別化には包括的な評価が必要(ガイドラインより抜粋)。

3. ICDの適応に関して

Brugada症候群の突然死を予防するための最も確立した治療手段は植込み型除細動器(ICD)です。その適応が改訂されました。ClassⅠ適応は従来通りですが、ClassⅡが刷新されています。2012年版のガイドラインでは「Type1心電図に、(1)心原性と思われる失神の既往、(2)突然死の家族歴、(3)EPS陽性の3項目のうち、2/3以上でClassⅡa適応、1/3ならClassⅡb適応」となっておりました。今回の改訂では、ClassⅡa適応基準がより詳細に明記されており、特に失神の重要性が高まっています。逆に、EPSの役割が限定され、かつ誘発方法も明記されました(あまりにも厳しい誘発をすると偽陽性が増えるためです)。EPSは侵襲的でリスクも伴いますし、その有効性は議論のあるところですので[3]、適応が限定されたのだと思います。そして、注目すべきはSCN5A遺伝子変異に関する記載が加わったことです。

表3

表3:  ICDの適応(ガイドラインより)。

4. SCN5A遺伝子異常

私が国家試験を受けた当時、「国試に絶対でる!」と噂されていたのがBrugada症候群におけるSCN5A遺伝子異常でした(実際に出たかどうかは覚えていませんが・・・)。医学生の噂になるくらい有名ですが、実はその検出率は決して高くありません(約15~30%)。そのため、現時点では保険適応外の検査になっています。このSCN5A遺伝子変異の有無が疾患予後に関連するかどうかは長年議論されてきましたが、2017年にこの遺伝子異常に関する重要な知見が日本から発信されました。今回のガイドライン改定にも大きなインパクトを与えた論文を今回のピックアップとさせていただきます。

Genotype-Phenotype Correlation of SCN5A Mutation for the Clinical and Electrocardiographic Characteristics of Probands With Brugada Syndrome

A Japanese Multicenter Registry

Circulation. 2017; 135: 2255–2270. [4]

【背景】

Brugada症候群において、SCN5A遺伝子変異が心疾患イベント発症の予測因子となりうるかどうかは明らかではない。本研究は、発端者に限定した長期観察可能なレジストリーを構築し、セレクションバイアスを排除してBrugada症候群患者におけるSCN5A変異の役割を評価した。

【方法】

多施設共同研究。Brugada症候群患者415名(男性403名、平均年齢46±14歳)。全例でSCN5A遺伝子の解析が行われた。

【結果】

平均観察期間72ヶ月の間に、心イベント(ICD適切ショック/心停止/突然死)発症率は2.5%/年であった。

SCN5A遺伝子変位(+)群では、SCN5A遺伝子変異(-)群に比べて、初回心イベント発症年齢が有意に若く、加算平均心電図検査でLate potential陽性が有意に多かった。また、SCN5A遺伝子変位(+)群では、SCN5A遺伝子変異(-)群に比べて、心電図のP波幅、PQ間隔、QRS幅が有意に広かった。

表4

表4: 患者背景(文献4より)。

表5

表5: 心電図比較(文献4より)。SCN5A異常を認める患者群の方がより伝導遅延が強いことを示している。

SCN5A遺伝子変位(+)群では、SCN5A遺伝子変異(-)群に比べて、心イベントが有意に多かった。多変量解析の結果、心停止の既往とSCN5A遺伝子変異(+)が独立した心イベント予測因子であった(心停止の既往: ハザード比6.5, P<0.001; SCN5A(+): ハザード比2.0, P=0.045)。

図3

図3: カプラン・マイヤー曲線(文献4より)。

【結論】

SCN5A遺伝子変異を持つBrugada症候群患者は、より伝導障害を認め易く心イベント発症リスクが高かった。

【私見】

本論文では遺伝子変異の形態による詳細な検討も行われています。変異の領域や変位の仕方が疾患の表現系や予後に影響を与えうることは拡張型心筋症などでも報告されています[5][6]。既に米国の一部の先進施設では一般の採血検査と同じレベルで遺伝子検査をオーダーできる遺伝性疾患専門の外来が始まっています。残念ながら今のところ本邦ではSCN5A検査は保険適応外ですが、EPSとは異なり侵襲を伴わず少しの採血だけで判定可能な検査ですし、なにより起こりうるイベントの重大性を考えますと調べる利点は大きいと思います。もちろん秘密保持の問題や告知の方法など、一般化する上で検討すべき点は多いと思いますが、近い将来には様々な疾患で遺伝子情報がリスク層別化や治療方針決定に重要な役割を果たすようになると思います。このような早期のリスク層別化の試みが不幸な突然死の減少に繋がることを願ってやみません。

【参考文献】

1. 日本循環器学会. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)

2. Aizawa Y. Brugada Syndrome:Risk Stratification And Management. J Atr Fibrillation 2016 Oct 31;9(3):1507.

3. Sroubek J, et al. Programmed Ventricular Stimulation for Risk Stratification in the Brugada Syndrome. A Pooled Analysis. Circulation 2016; 133: 622-630.

4. Yamagata K, et al. Mutation for the Clinical and Electrocardiographic Characteristics of Probands With Brugada Syndrome. A Japanese Multicenter Registry. Circulation 2017; 135: 2255–2270.

5. Pasotti M, Klersy C, et al. Long-term outcome and risk stratification in dilated cardiolaminopathies. J Am Coll Cardiol 2008; 52: 1250-1260.

6. van Rijsingen IA, et al. Risk factors for malignant ventricular arrhythmias in lamin a/c mutation carriers a European cohort study. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 493-500.