SUNRISE研究会

SUpporting youNg caRdiologISts projEct

from Overseas

川上大志(Melbourne, Australia)

川上大志(Melbourne, Australia)

Baker Heart and Diabetes Institute

2019年01月14日

【テーマ】2018-2019

多才なボスが率いる混成部隊

皆さんこんにちは。今回は冬のメルボルンからチームの活動をご紹介します。私が所属するImaging Researchチームには多種多様なバックグラウンドを持った研究者が集まっています(循環器内科医、看護師、統計家、エコー技師等々)。PhDコースの学生もとても多いです。彼らは不定期にBakerに来るため全部で何人いるのかとても把握しきれません。この集団を率いているのがProfessor Marwickです。Baker InstituteのDirector業務をこなしながら様々なプロジェクトを直々に指揮しています。とても博識であらゆる分野に精通しており、そのプロジェクトは多方面におよびます。

Association of the Active and Passive Components of Left Atrial Deformation with Left Ventricular Function
Satish Ramkumar, Thomas H. Marwick, et al.
J Am Soc Echocardiogr. 2017; 30: 659-66.

まずは心エコーの大家ならではのマニアックな研究です。そもそもこの雑誌をご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか? 心エコー関連の雑誌で最も格式高い雑誌であり、2016年のImpact Factorは驚きの6.852というびっくり雑誌です! この研究は左房ストレインと左室メカニクスの関連を検討したものです。ストレインエコーは心臓機能を鋭敏に評価できるツールとして近年注目されている技術です。ご存じの様に、左房は左室の影響を大きく受けており心周期によって異なる働きをしています。

The left atrium acts as a reservoir during systole, as a conduit during early diastole and diastasis, and as an active pump during late diastole (Heart 2012; 98: 813-820より抜粋).

Reservoirとは貯水池、Conduitは導管、Pumpはその名の通りポンプを意味します。つまり左室が収縮する時は血液の貯水池の役割を果たし、拡張期に入ると導管として受動的に左室へ血液を送り、拡張期後半になってポンプとして能動的に血液を送り込みます(いわゆるAtrial kick)。このように異なる役割を演じている左房に対し、スペックルトラッキング法を用いてストレインを求めると下図のような3つのコンポーネントに分かれます。
図1
図1: 左房ストレインの説明 (J Am Soc Echocardiogr. 2017; 30: 659-66.より)

それぞれReservoir strain、Conduit strain、そしてPump strainと呼ばれています。左房は左室の影響を強く受けるのですから当然3つとも左室メカニクスと強い関連性を持っていると考えるのが普通ですが、従来からBooster pump functionは左室の影響が少ないと考えられていました。本論文は、ストレインエコーを用いてPump strainが左室メカニクスに依存しない独立した因子であることを証明しています。例えば下図のように同じ左心機能(左室ストレイン値は同等)の患者であっても、左の方はReservoir strain 40.5%、Pump strain 24.2%とどちらも正常範囲内ですが、右の方はReservoir strain 37.8%、 Pump strain 14.6%とPump strainだけが低下しています。ちなみに、この左房ストレインの正常値を検討したメタアナリシスにもMarwick先生が関わっています(J Am Soc Echocardiogr. 2017; 30: 59-70)。
図2
図2: 症例提示 (J Am Soc Echocardiogr 2017; 30: 659-66.より)

左房と左室の関連性は、私の専門である心房細動の発症メカニズムやアブレーション後の再発リスクに大きく関係してきます。ストレインは病態評価や予後予測を行う上で、従来の指標(例えば左室駆出率や左房容積)よりも鋭敏かつ有用な指標として注目されています。さまざまな疾患に応用が利く分野であり、現在の私のメインテーマです。

Understanding decision-making in cardiac imaging: determinants of appropriate use
Ricardo Fonseca, Kim Jose, and Thomas H. Marwick
European Heart Journal – Cardiovascular Imaging 2018; 19: 262–268

さて、お次は心エコー関連の研究にも関わらず、全く画像が出てこないというユニークな研究です。この研究は、臨床医がどのように心エコーオーダーを行っているかを検討したものです。残念ながら世の中には適切とは言えない心エコーオーダーがあふれています。循環器医やエコー技師を疲弊させる、いわゆる「念のため心エコー」です。米国のガイドラインにはAppropriate Use Criteria (AUC) for Echocardiographyの記載があり、適切な心エコー実施が呼びかけられています。しかしながら、その効果は十分に検証されていませんでした。本研究は臨床医がAUCを意識しているか、また、心エコーオーダーを行う上でどのような因子が意思決定に影響を及ぼしているかを検討しています。結果、AUCは意思決定に重要な役割を果たしていないことが明らかになりました。試験デザインはとてもシンプルであり、インタビューの対象医師はたったの17人ですが、しっかりした考察が成り立つように周到に事前にプランが組まれており、インタビューで使用されるクリニカルシナリオもとても実践的です。「興味深いClinical question」と「しっかりしたStudy design」があれば、誰でもどこでも臨床研究が可能であることを教えてくれる論文です。
図3
図3: 研究のフローチャート。登場する図やテーブルはこれを含めてたった3つ。他は全て文章という希有な心エコー論文です (European Heart Journal – Cardiovascular Imaging 2018; 19: 262–268.より引用)。

現在、私は心エコー解析の研究と並行して心室不整脈に関するメタアナリシスに取り組んでいます。ボスの指導の下、論文検索から統計まで全て自分で行います。メタアナリシスは初めての経験であり、毎日四苦八苦しておりますが、この歳になって新しいことに挑戦できる喜びも感じています。私の目標は、この偉大なボスからあらゆる事を貪欲に学び日本に持ち帰ることです。道は果てしないですが楽しみながら頑張りたいと思います。

 

番外編: 夫もしくは父のわがままに振り回された家族の留学奮闘記
第3話「テレビ」

日本のテレビを視聴できるようにSlingboxを準備しました。子供達は日本のテレビを見られた方が安心するだろうと思ったからです。確かに渡豪直後は日本のアニメをよく見ていました。しかし、しばらくすると当地の子供向け番組(もちろん英語)を真剣に見るようになり、2ヶ月後には日本のテレビは全く見なくなりました。本当に子供の適応能力はすごいです!
図4
写真: 現地のアニメを食い入るように見る子供達 (お行儀悪し!)。子供向け番組は英語のリスニングのトレーニングに最適です。私も一緒に真剣に見ています(笑)。

つづく