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川上大志(Melbourne, Australia)

川上大志(Melbourne, Australia)

Baker Heart and Diabetes Institute

2019年02月10日

【テーマ】2018-2019

集約

皆さんこんにちは。

本田圭佑選手(メルボルン・ヴィクトリー)のデビュー戦、応援に行ってきました。やっぱり結果を出す人ですね。同じ日本人としてとても誇らしかったです。

さて、いつも楽しく書かせていただいているレポートですが、今回はとてもしんどかったです。なぜなら、今回のテーマ(日本の医療はどこへ向かっていくべきか)が壮大にも関わらず、論じる私の存在があまりにもちっぽけだからです・・・。私の筆力ではとてもまとめきれませんので、論点を明確にすべく次のような設問を作ってみました。

問題:「これからの日本の医療に必要だと思うものを1つだけ挙げなさい」

あえて1つだけです。自分で作っておきながら苦悩する羽目になってしまいましたが(間抜けです・・・笑)、悩んだ末に導き出した私の答えはこれです。

回答:「集約」

その「こころ」をご説明させていただきます。

【臨床面における集約】

本テーマは先輩レポーターの皆様が既に多方面から素晴しい考察をされておられます。私も全く同意見です。要約しますと、「匠の技に裏打ちされた日本式医療の良い所を残しつつ、欧米の効率的な医療システムを融合させていくべき」ということでしょうか。

日本の医療の平均的な質の高さ、アクセスのし易さは間違いなく世界一です。質の高い医療を、国民の誰もが、どこでも、同じ価格で、早期に受けられる日本は素晴しい国です。ある意味1つの理想が実現した姿だと思います。海外に住んでみて改めて実感しました。一方で、この素晴しき日本式医療が過渡期にさしかかっていることも事実です。社会の変化、働き方問題、増大する社会保障費といった重大な問題を抱えており、このままでは近い将来破綻することは目に見えています。破綻を回避するにはEfficiencyやCost-effectivenessを重視する欧米の医療システムをある程度導入せざるを得ないでしょう。多方面に大きな影響が及ぶ事案ですが、変わらなければ日本の医療そのものが崩壊しますので待ったなしです。では、その変化の最初の一歩は何が良いのでしょうか? 負の影響を最小限に、かつ、より効果的で現実的な手段は何か? 私の答えは「集約」でした。専門治療を提供する病院数を制限し医療従事者を集約します。マンパワーが増えれば全ての職種でチーム制を採用でき、当直等の個人負担を軽減できます。医療資源を集中させることで無駄を省き医療費の削減にも繋がるはずです。また、後述しますが臨床面の集約は研究面にも大きなメリットを生み出します。もちろん専門病院が減ることで患者や地域の医師からの反対が予想されますが、ドクターヘリまで含めたアクセス面の再整備を徹底する、集約で潤った病院は急患や紹介患者には必ず対応する、専門治療後のフォローは必ず地域で完結する等の約束事を決めることで少しずつ理解は得られると思います。また、専門施設が限定されると専門医の数に制限ができ、競争によって自由に専門科を選べなくなるかもしれません。しかしながら、公平な競争は医療者の意識を高め、知識や技術の維持に繋がります。海外に出て感じたことは、日本には適切で公平な競争の機会が少なすぎるということです。ある程度の競争は物事のレベルを維持する上で必要なものだと学びました。

【研究面における集約】

日本の研究者が勤勉であり、研究の質もしっかりしていることはオーストラリアでも認知されています。渡豪前に行っていた研究(AFアブレーション後の遠隔期再発の検討)を当地のチームミーティングで提示する機会がありました。フォローアップの回数や時期の統一性、項目の多様さに皆が驚き、「しっかりしたフォローアップ! さすが日本だ!!」と言ってもらえました。職人的で細部まで意識が行き届いた日本式医療をベースにした私達の臨床研究は十分通用することを確信しました。では、世界と戦う上で何が一番足りていないのか?私は症例数だと感じています。どんなに質の高いデータベースがあっても、十分な症例数が確保できなければ適切な解析ができません。また、数がないと戦える戦場(論文の投稿先)が自ずと限定されてしまいます。やっぱり数は重要なのです。そこで「集約」の出番です。上記の通り、専門病院を集約すれば症例数は飛躍的に増加します。また、共同研究という「集約」の方法もあります。当地では共同研究が当たり前です。先日とても印象深い経験をしました。前述の日本で行っていた研究をボスに提示すると大変興味をもってくれました。「とてもおもしろい内容だ。しかし、遠隔期再発をした症例が少ないから増やす必要がある。すぐに○○と□□に協力してもらえるか相談してみよう!」。急な展開に驚きましたし、相談相手のお二人が不整脈界のビッグネームであったことにさらに驚かされました。本当にその日の夕方にはメールのやり取りが始まりました。優れた臨床研究家は専門の垣根を越えた横の繋がりが非常に密なのだと思い知らされました。施設に症例を集め、かつ、多施設で研究を進める。これが今後の臨床研究のあり方なのだと痛感させられました。

【おわりに】

「集約」

文字にすればたった2文字ですが、その実現の如何に難しいことか・・・。個人の努力ではどうしようも無いことも多々あります。しかしながら、見聞を広め、専門の垣根を越えた人脈を形成することは個人の努力で出来ることです。いつか多施設研究のまとめ役を担える人材になれるよう、Professor Marwickという最高のお手本の下でしっかり研鑽を積む、これこそが今の自分がすべきことだと確信しています。

 

番外編: 夫もしくは父のわがままに振り回された家族の留学奮闘記

第6話「息子の背中に学ぶ」

渡豪1ヶ月後に長男が現地の幼稚園に入園しました。彼なりに心の準備はしていたと思います(第5話参照)。しかしながら、いきなり日本語が全く通じない集団の中に放り込まれた彼は完全にパニック状態です。毎日大泣きしていました。それでも彼は休まず通園しました。しばらくすると、少しずつ家で英語を話すようになりました。「ターン・ミー(替わって!)」、「モア、モア、プリーズ(もっと頂戴)」。決して正確な英語ではないかもしれませんが、全て自力で習得し、少しずつ友人や先生とコミュニケーションがとれるようになっていきました。彼は自分で困難を乗り越えたのです。彼の頑張りを見ていると、自分の意思で苦労しに来た私が辛いなんて言ってられません。本当に勇気をもらっています。

写真

写真: 地元の雑誌に掲載された幼稚園の記事。今では楽しそうにしています。

(http://leader.smedia.com.au/stonnington/PrintPages.aspx?doc=LSTL/2018/08/07&from=5&to=5より引用)

つづく