SUNRISE研究会

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from Overseas

中島孝(Takashi NAKASHIMA, Bordeaux, France)

中島孝(Takashi NAKASHIMA, Bordeaux, France)

Bordeaux University
Clinical fellow

2019年07月21日

【テーマ】2019-2020

生き残るのは最も強い種でも、最も賢い種でもない。最も早く環境に適応する種である。 チャールズ・ダーウィン

渡仏3か月が経過し、ようやく生活と仕事がルーチン化してきたので、精神的にも肉体的にも少し余裕ができ、楽になりました。一日も早く環境に慣れるため、「習うより慣れろ」式でやってきたました。そして、これからもやっていくつもりです。

私が所属するCardiac electrophysiologyは、毎日3つのカテ室でアブレーションを行います。1-3例/部屋、6-8例/日、900-1,000例/年です。稼働しているカテ室が一つのこともあれば、症例がない日もあります。時間に迫られて手技を行っている印象はなく、むしろマイペース?といった感じです。時間ができたので翌日の症例を前倒しすることもあれば、その逆で翌日に持ち越すこともあります。午前中に終わることもあれば、20時くらいまでかかることもあります。2019年6月現在フェローは4人であり、一つのカテ室に1-2人の配置となります。症例に偏りがないように、毎週担当するカテ室が変わります。今でもすべての症例を把握したい衝動に駆られますが、3つのカテ室で平行して行っている以上は、それは不可能です。わかってはいるのですが、せっかくの症例を見逃したような気持ちになり、勿体ない気もします。贅沢な悩みだと思いますが。

アブレーションは、カテーテルを操作する術者と電気生理学的検査を行うラボ(心臓内に留置されたカテーテルから電気的刺激を加え、心筋の伝導速度などをみる電気生理学的検査)との二人三脚で初めて手技が成立します。私たちフェローは、ラボの操作を行います。症例によっては、所見をパワーポイントにして、術者に提出をします。日本では、学会発表のときしかスライド作成は行っていませんでした。忙しさに託けて、電位をレビューすることは、ほとんどやってきませんでした。しかしながら、普段から人に見せるためのスライド作成を行うと、電位をレビューする機会が増えるため、術中には気づかなかった所見を発見したり、術中の解釈が間違っていることに気づいたりと、とても勉強になります。後輩の指導や症例の共有にも有用と思われるので、帰国後も継続したいと思います。日本でも施設や術者が異なれば、行う電気生理学的検査(誘発方法や測定事項)が異なりますが、これはフランスでも然りです。今までやったこともない電気生理学的検査も散見され、勉強になります。
カテーテルを操作する術者と電気生理学的検査を行うラボでは、当然見える景色が異なります。実は私は、今まで術者の立場しか経験していません。私が今までいた施設は、すべて臨床工学士がラボの操作を行っていました。フランスに来て初めてラボを操作する立場になり、今まで見えなかった光景が見えるようになり、今までなかった視点を得ることができました。錯覚かもしれませんが、アブレーションを俯瞰できるようになった気がします。日本では術者として、「早くやれ!」、「なんで記録とってないんだ!」、「なんで私の言っていることがわからないんだ!」など、ラボに向かって暴言ばかりでした。しかしながら、今はラボを行う立場となり、ラボをされていた臨床工学士の方々に申し訳ない気持ちでいっぱいです。臨床工学士の方々、すみませんでした。術者としの今までの姿勢を猛省しています。成長したということでしょうか。成長したということにしてください。
ラボの操作は全くできない状態から開始し、ようやくできるようになって、術者の好みも把握できるようになってきました。またラボの操作が全くできない私に対して、こちらのドクターはとても寛大でした。一つ一つ丁寧に嫌な顔一つせずに教えてくれます。人種や出自が異なる人々が共に生きるという共和の精神、それを当たり前の使命と自覚しているフランス人が織りなす共和国フランスが、こんな細部にまで浸透している、と感動しました。もちろん、私の粗相に我慢してくれているのかもしれません。
「アブレーションにおいては、術者が最も盲目である」とは、ある電気生理学者の箴言ですが、私はこの言葉が真であると確信しています。微細な電位評価はラボが行い、繊細なカテーテル操作は術者が行います。術者が認知していない所見を術者に伝え、必要な電気生理学的検査はラボが指揮を執る、というのが私の持論です。私は、まだそのレベルには程遠いですが、英語(もしくはフランス語?)でそれができるようになればという思いで、日々精進しています。
周囲に電気生理を専門とする先生方が何人もいるという環境も、初体験です。誰に何を相談すればいいのかもまだ手探りで、船頭多くふね山に向かう、という状況も早速経験しています。しかし、これもトライアンドエラーで早く慣れることを最優先課題としています。次のステップは、研究課題に取り掛かり、それを形にすることです。つい最近、幾つかの研究テーマを複数の先生からいただきました。日本での経験がまったく役に立たないことが強く予想され、完遂できるのか不安もありますが、成長の機会となることに期待もしています。
また私の施設には、動物実験施設も併設されていることに驚きました。アブレーションのハイボリュームセンターが、動物実験のためのカテ室、3Dマッピングシステムも含めたラボ、MRI室、そのためのスタッフを完備していることに度肝を抜かれました。日本ではとうてい考えられません。基礎研究や動物実験は、一生無縁だと思っていたので、今回の留学中に携わることができるみたいで、とても楽しみです。動物実験と基礎研究は、私にとっては”食わず嫌い”です。する機会がなかったから、せずに来てしまったというのが本音です。生来の引きこもり、対人恐怖症、無口、どもりの性癖があるので、ひょっとして臨床よりも、私に性に合っているのではないかとも期待しています。
日本でも施設を変われば同じような経験をできるかもしれません。しかし、海外でのこのような経験は、知覚の深度と質も、日本での経験の比ではないと思います。うまく表現できませんが、今まで使用されていなかった身体の感覚器を駆使して、事に臨むような感じでしょうか。自覚が及ばないところで、脳内でシナプスとニューロンの誕生と接合が加速しているという感じでしょうか。留学という環境の変化が与える葛藤や悩み、苦難が大きければ、強いられる変化が大きいほど、成長も大きいと期待してもよいのではないでしょうか。甘い考えでしょうか
渡仏まだ3か月足らずなので、そうやく生活基盤が整ってきたので、休日に何をするか、余暇に何をするか、について思いを巡らすことができるようになったのは、ほんのつい最近です。渡仏から3か月ほったらかしの庭が、草ボーボーとなってきたので、草刈をしなければなりませんが、そのような気分になりません。平日は、論文を読んだり、研究テーマに関して思いを巡らせるまとまった時間もないので、これらのことは休日に行うことが多いです。今はまだ単身なので、前述のとおり引きこもり性もあり、観光や遠出は全く行っていません。観光したいところリストが少しずつ増えてきたので、家族が来たら一つ一つリストをこなしていきたいです。7-8月はバカンスシーズンで、気候も良く仕事も軽減するため、家族で旅行できればと考えています。懸念事項としては、子供が遊べる公園やレジャー施設が少ない印象を受けることです。遺跡や景観には申し分ないフランスですが、4歳の娘が果たして遺跡に、あるいは美しい景観に興味を示すのでしょうか?それとも、この留学中に芸術的感性が醸成されるのでしょうか。とにかく娘にも(妻にも)、ボルドーの生活に慣れてもらうしかありません。