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本田泰之(Yasuyuki HONDA, Baltimore, US)

本田泰之(Yasuyuki HONDA, Baltimore, US)

Johns Hopkins University
Postdoctoral fellow

2019年08月17日

【テーマ】2019-2020

チームの業績

1. 上司の業績

慢性腎臓病患者予後予測のためのステージ分類再検討

Estimated glomerular filtration rate (eGFR) の正常値は2000年発表のKDOQIガイドライン (1)において、90 ml/min/1.73m2以上が正常、60 mL/min/1.73m2未満を異常と定義することが提唱されました (2,3) (表1,2) 。

表1. Stages of Chronic Kidney Diseases  (文献2より引用)

Table1

表2. 慢性腎臓病のステージと診療計画 (文献3より引用)

Table2

しかしながら、その後、慢性腎臓病と定義としたeGFR< 60 mL/min/1.73m2は閾値として正しいか、eGFRの意義は年齢により異なるか、Stage3以降はアルブミン尿によるリスクの違いが考慮されていない、などの疑問点が上がり、eGFRやアルブミン尿がどのように予後に影響するか再検討するため、2009年にChronic Kidney Disease Prognosis Consortium という国際共同研究グループが結成され、世界各地のコホートを用いたメタ解析に基づく議論を行いました。現在私のチームの上司である松下邦洋先生はこのグループの一員として、eGFR 60 mL/min/1.73m2が年齢にかかわらず閾値として正しいこと、蛋白尿がStage3、4の慢性腎臓病患者の予後予測にも有用であることを報告し(4)、eGFR、アルブミン尿、原因疾患を組み合わせて評価するCGA分類の原案を提唱され、その後2012年にThe Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO)および日本のガイドラインに反映されました(5,6)。

表3. Prognosis of CKD by GFR  and Albuminuria Categories: KDIGO 2012 (参考文献5より引用)

Table3

表4. 慢性腎臓病の重症度分類 (参考文献6より引用)

Table4

 

 2. The Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) study

ARIC study は米国メリーランド州を含む4つの地域、45~64歳の15,792人を対象とした地域住民コホート研究です。アテローム性動脈硬化の原因を検討することを目的とし、1987年 (Visit 1)に調査が始まって以降、2018年 (Visit 7)までに継続的なフォローアップが行われています。各Visitで問診や血液検査データ、エコー検査データ、さらに最近のVisitでは、頭部MRIや冠動脈CTが追加されており、長期フォローアップ、詳細な問診、一部遺伝子検査など最新の検査を含む様々な検査、そして充実したスタッフによる正確な予後調査が特徴で、これまでに2,000編以上の論文が発表されています。

 

3. チームメートの業績

喫煙、禁煙と主要動脈硬化三疾患の長期予後調査

Ding Ning. Matsushita Kunihiro et al. Cigarette Smoking, Smoking Cessation, and Long-Term Risk of 3 Major Atherosclerotic Diseases. J Am Coll Cardiol. 2019 Jul 30;74(4):498-507 (7). これまで喫煙と心血管疾患の影響については多くの研究がなされてきました。喫煙が末梢動脈疾患の非常に強力な危険因子であると認識されているにもかかわらず、喫煙と心血管疾患についての研究は、ほとんどが心疾患および脳卒中が対象であり、喫煙、禁煙と末梢動脈疾患、心疾患、そして脳卒中を含む心血管疾患との長期関連を調査した研究はありませんでした。そこで、私のチームメートである Ding Ningらは、喫煙とこれら三つの動脈硬化疾患発生の長期的関連について定量的な調査を行いました。 前述のARIC study visit1の参加者から、心血管疾患の既往がある参加者などを除き、13,355人を研究対象としました。対象者は喫煙開始や禁煙開始からの年数、現在、過去の喫煙量などを問診で調査され、喫煙量は10 pack years, 10-24 pack years, 25-39 pack years, それ以上に分類され、喫煙歴については、喫煙者は35年未満かそれ以上に、禁煙者(過去の喫煙者)は25年未満かそれ以上に分類されました。さらに、喫煙を開始した年齢、および禁煙を開始した年齢を詳細に分類し、様々な心血管危険因子で調整し解析を行いました。

図1. Central  Illustration (参考文献7より引用)

Figure1

喫煙量および喫煙期間との関連はいずれも末梢動脈疾患で非常に著しく、心臓疾患、脳卒中と比較しても、より高い心血管疾患発症リスク比が用量相関的に示されました(図1)。また、禁煙からの年数はすべての心血管疾患の発症リスク軽減と関連しており、こちらも用量相関的に発症リスクの軽減が示されました。短期間の禁煙は5年間の禁煙から、それぞれの心血管疾患発症リスクの軽減が示され、長期間の禁煙は末梢動脈疾患において最も(~80%)発症リスクの軽減が得られるという結果でした(図2,3)。

図2. 末梢動脈疾患、心疾患、脳卒中の調整ハザード比(Pack-Years, 喫煙期間、Intensity) (参考文献7より引用)

Figure2

図 3. 禁煙期間による末梢動脈疾患、心疾患、脳卒中の調整ハザード比(Pack-Years, 喫煙期間、Intensity) (参考文献7より引用)

Figure3

本研究結果は、最短5年の禁煙が心血管疾患発症のリスク軽減につながり、禁煙の期間が長くなるほどリスク軽減効果が強まるという点で非常に臨床意義が高いと考えられます。さらに、禁煙から20-30年経過しても、末梢動脈疾患発症リスクが非喫煙者と比較し高いことから、若年者における喫煙の予防の重要性を再認識させられました。本研究は、喫煙本数、喫煙期間、喫煙および禁煙開始年齢など非常に詳細な問診、併存する動脈硬化リスク因子の詳細なデータ、そして中央値26年にわたる非常に長期間の追跡調査があり可能となった、臨床意義の高い研究だと思われます。

参考文献

1. Hsu CY, et al. Chronic renal confusion: insufficiency, failure, dysfunction, or disease. Am J of Kidney Dis, 2000; 36:415-418.

2. National Kidney Foundation. K/DOQI clinical practice guidelines for chronic kidney disease: evaluation, classification, and stratification. Am J Kidney Dis. 2002 Feb;39(2 Suppl 1): S1-266.

3. 日本腎臓病学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009. 東京医学社. 東京. 2009.

4. Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium, Matsushita Kunihiro, et al. Association of estimated glomerular filtration rate and albuminuria with all-cause and cardiovascular mortality in general population cohorts: a collaborative meta-analysis. Lancet. 2010 Jun 12;375(9731):2073-81.

5. KDIGO CKD Work Group. KDIGO 2012 clinical practice guideline for the evaluation and management of chronic kidney disease. Kidney Int Suppl 2013; 3: 1–150.

6. 日本腎臓病学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013. 東京医学社. 東京. 2013.

7. Ding N. Matsushita K et al. Cigarette Smoking, Smoking Cessation, and Long-Term Risk of 3 Major Atherosclerotic Diseases. J Am Coll Cardiol. 2019 Jul 30;74(4):498-507.