SUNRISE研究会

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from Overseas

塩野泰紹(UK)

塩野泰紹(UK)

Imperial College London (London, UK)
Clinical fellow

2015年07月28日

【テーマ】第1回:留学の動機および留学までの道のり

留学に期待するもの

1) なぜ留学しようと思ったのか
SUNRISEでのレポーター業務をさせていただきます、和歌山県立医科大学の塩野泰紹と申します。留学予定の先生や将来留学を視野に入れておられる先生に少しでも役立つ情報提供を心がけたいと思いますので飾ることなく可能な限り実際のところを報告させていただきたいと思います。また私は9月に留学をスタートさせるべく準備段階にいるためより実況中継的なレポートになると思います。
まずは「なぜ留学しようと思ったのか?」という点ですが、何かあるきっかけで留学を決意したというのではなく、気がつけば留学に踏み切ろうとしている自分がいるというのが正直なところです。留学をするにあたっては所属する和歌山医大循環器内科の環境に大きく影響を受けたことは間違いありません。和歌山医大の循環器内科にはボスを筆頭に留学経験者が多数在籍しています。現在も私以外に2名が海外留学中です。私もボスから進路の選択肢の1つとして海外留学が提案され自然な流れとして留学を選択しました。
留学決定前は留学を漠然とした憧れのようなものと考えていましたが、実際に留学が決定した後になって「なぜ留学?」を意識するようになりました。以前の私の留学に対するイメージは、日本には無い知識、技術、道具を海外で学びそれを日本に持ち帰るというものでした。しかし現在の医療分野においてはそのような目的の留学はピンと来ません。インターネットを利用すれば日本にいながら海外の情報には瞬時にアクセスできますし、デバイスラグは存在するにしても海外で使用されている多くの医療機器が日本で使用可能です。技術面においても少なくとも私が関係する冠動脈インターベンションの分野では海外の状況を知る先生は口を揃えて「日本の方が技術は高い」と言います。
では何をしに行くのかということになりますが、私の医師としての目標の一つに臨床的価値のある論文を一つでも多く発信したいと言うのがあります。そのために必要な科学的思考、論理的文章の書き方、そして国際交友関係を得るということが「なぜ留学?」の答えになるのであろうと現状では考えています。
自分が日本で受けてきた教育課程を振り返ると科学的思考の組み立て方、論理的文章の書き方について系統立てられた教育を受けた記憶がありません。一方欧米では義務教育の段階からこれらが一般教養として教えられるそうです。いまから欧米の大学に入学し直して勉強するという訳にはいきませんが、彼らがどのようなプロセスで研究を実施し論文を作成するのかを目の当たりにすることは今後も臨床研究を続けようとする自分にとってプラスになると考えています。
また国際雑誌に論文を投稿する際、レフェリーの多くは日本人以外になるはずです。論文がアクセプトされるためには質の高い論文を作成することは必要条件ですがきっと十分条件ではありません。オリンピック招致においてもロビー活動の重要性が言われていたように思います。サッカーワールドカップ誘致事件のような不正は許されませんが、論文のやりとりも結局は人間同士のやりとりですから留学を介して幅広い国際交友関係が構築できればこれもきっとプラスになると考えています。

2) なぜ現在の留学先を選んだのか
私は英国のImperial College London、Justin Davies先生のところに留学します。留学先に選んだ理由はいくつかありますが、1つ目は冠循環生理学の臨床研究ができることです。Justin Davies先生はinstantaneous wave-free ratio (iFR)という新しい心筋虚血診断法の提唱者です。最近虚血性心疾患の領域で注目されている心筋血流予備量比 fractional flow reserve (FFR)と同じく冠内圧測定に基づく冠動脈狭窄の虚血診断法です。その良し悪しは議論のあるところですので今回は論じませんが、少なくとも冠循環生理学の領域で旋風を巻き起こしているのは事実です。このチームに加わることでiFRそのものを学ぶことはもちろんですが、新しい概念の誕生がどのような土壌や環境でなされたのかという点を学びたいと思っています。2つ目にこのチームの構成メンバーの多くが同世代の若手です。留学先のボスになるJustin Davies先生が私のわずか4歳上です。その若いチームが数多くのアウトプットをしています。レベルの高い同世代の研究者たちから多くの刺激を受けることで自分もステップアップしたいと思っています。最後に英語圏であるということも大きいです。英語の上達は留学目的の1つですので英語の母国というのは私の目的に合致していました。

3) 留学するにあたって困難であった点、どのように解決したか
一般的に留学先の決定が留学において最も困難な点と思いますが、この点に関して私は本当に恵まれていました。言い切ってしまうと現在のボスがこのチャンスを与えてくれました。冠循環生理学に関する領域で留学したい意向を現在のボスに伝えると、ボスが留学先に話を持ちかけてくれて、その後に私自身が留学先のボスと面談して留学が決定しました。しかし全てが希望通りに進んだ訳ではなく、最初に打診した他の研究室からは4年待ちと返答され断念せざるを得ませんでした。留学先の決定には自らの意思や力だけではどうにもならない要素が大きく影響します。私の場合は直属のボスがそうであるように、上位のポジションの人からサポートを得ることは目標を達成するために時として重要なことだと思います。受けたサポートに報いる努力をするのは言うまでもありませんが。
次は留学資金の準備です。留学した諸先輩方に相談しましたがほとんどの先生が自費留学されていました。運良く(もちろん実力もあって)留学先から給料が支払われる場合もあるようですが、決して海外生活を送るのに十分な給料ではないようです。ということで自前で留学資金の準備が必要で、私の場合は3、4年ほど前から留学を視野にいれて少しずつ貯蓄しました。またSUNRISEのように留学をサポートしていただけるシステムにも積極的にアプライしました。留学先へアプライする時もそうですが、留学にあたって様々な場面でCurriculum Vitae (CV)の提出が求められます。常にCVをアップデートしておいて求められればいつでも提出できる状態にしておくことは重要だと思います。
次は英語力の向上です。こちらも留学を見据えて3、4年前から学習を始めました。金銭的、時間的制限で英会話学校など通えるはずありませんので、私は無料もしくは安価で利用可能なアプリを利用しています。なかでもTED talksやTEDICTが私にはあっていました。英語の勉強のみでなく、一流のプレゼンテーション法、幅広い分野の知識、3つが学べます。さらに自分の英語力を把握するために英語検定の1つであるIELTSを受験しました。結果は6.0点(9.0点満点)でした。ちなみに英国で外国人用の医師国家資格を取るためには7.5点は必要のようです。まだまだレベルアップが必要ですが何かしらの形でフィードバックをかけることは学習意欲向上に役立ちます。