SUNRISE研究会

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from Overseas

外海洋平(Netherland)

外海洋平(Netherland)

1. ThoraxCenter, Erasmus Medical Center
2. Academic Medical Center, University of Amsterdam
Research Fellow

2016年01月18日

【テーマ】第7回:世界に出てから見つめ直す日本の医療、どこへ向かっていくべきか

TAKUMI

たくみ【匠・工・巧み】

〔動詞「たくむ」の連用形から〕( 名 )

①手先の技術や道具を用いて,工作物や建物を作り出すことを業とする人。工匠。大工(だいく)や細工師をいう。 《匠・工》 「飛驒の-」

②工作物・建物などに施す技巧。意匠。趣向。 《巧》 「名匠が-をこらした建造物」 「人間の-を加へざる処なれば/即興詩人 鷗外」

③美しいものを作り出すわざ。 「自然の-」 「造化の-」

④考えをめぐらして見つけた方法。工夫。 「ただ-によりて,よき能にはなるもの也/風姿花伝」

⑤はかりごと。たくらみ。計略。 「腹の中はそれほど-のある奴では無いと/真景累ヶ淵 円朝」

大辞林 第三版

 

【匠】 “TAKUMI”

このような言葉に代表される日本の文化が、日本の医療の誇るべき点だと思います。

しかし、それは同時にグローバリゼーションにおいての日本の問題点だと近頃思うようになりました。

 

EBMという言葉が広く認知されると,日本からの治療や予防法の根拠となるデータがあまり存在しないことが残念ながら明らかになってきました。Evidenceの創出 = Global output = High journal へのPublicationという前提でお話します。一般的に知られるように、日本では新しいデバイスや薬剤の認可が下りるのが遅く欧米諸国に比べてハンデがあります。また、エビデンスを生み出すのは臨床研究と疫学研究などですが、そのために必要な資金の投入不足、そして研究を支援する人材・システムといったインフラの整備が十分になされなかったことが、日本からのエビデンスが乏しい原因と考えられます。

それでは、どうして、そういった環境整備が進まなかったのでしょうか?

日本の臨床医の現状において、大学卒業後、まず技術を身につけたいと考えるのが普通です。それぞれのフィールドに、その分野のエキスパート、いわゆる 匠 がいて、一つの目指すべき目標になります。PCIの技術を磨きたい (絶妙なワイヤリング操作、イメージングを用いたクオリティの高い治療、CTOのretrograde approach etc.)、アブレーションの技術を磨きたい (繊細なカテ操作の習得、電位を読むセンスを磨く etc.)、心不全治療のエキスパートになるんだ (エコーやスワンガンツ、身体所見などを駆使した詳細な病態把握、絶妙な薬剤調整のスキル etc.)、などなど、私が初期の循環器研修で目標にしてきたのはこういったものが多かった気がします。

これは日本の多くの臨床医が持つひとつの美学であり、一個人がスキルを上げていく上での大切なモチベーションとなり、また日本ではこれが非常に重要視されていると思われます。しかしながら、この匠という美学こそが日本からエビデンスの出ない根本的な原因になっているように感じます。

大半の医師が6年間の医学教育を終え、初期研修に入り、私もそうでしたが、まずは技術の習得を目指します。まずは一般的なことから、次に専門的なことまで。もちろん一朝一夕にできるものではなく、何年も何年もかけて習熟していくのが普通だと思います。経験からのみ得られる繊細なセンス、重要視されるポイントがこういった技術の習得、つまり“匠的思考”に偏りがちです。技術も知識もそれなりについてきた頃に、ちょっとStudyでもかじってみるか、と始めてみたものの統計ですぐに挫折…。よくあるパターンでしょうか。というか自分がそうでした。

こういった文化、教育システムでは、臨床研究の重要性やおもしろさに触れる機会も多くなく、最初に申し上げた、臨床研究に必要な資金の投入、研究を支援する人材・システムといったインフラ整備という方向には残念ながら積極的には進まないでしょう。オランダでは、Interventional cardiologistを目指すにしても、まずは臨床研究を行い、その後に初めてGeneral medicineの研修が始まり、Interventional cardiologistになるのはまだ数年先になります。こういった環境では、日常臨床をしながら常にアカデミックなことを考えるのがごく自然になると思います。

根底にある日本の文化、美学、教育システム、そして、そこから生まれた現在の医療体制、個々のクオリティの高さ、これらは世界に誇るべきものですが、グローバルなエビデンスを日本から発信していく上では若干の障壁となりそうです。日本の素晴らしい医療体制を維持しながら、かつ世界に情報を発信していくためのシステム構築、そういったことを専門的な知識を持って考えられる人材、“臨床研究の匠”がいても面白いかもしれませんよね。そんなことをこちらで学んでいけたらと思っています。

 

テーマが壮大すぎて自分みたいな若造が何か語るのか、考えるだけでちゃんちゃらおかしいのですが、まだまだ視野の狭い自分なりに今思うことをまとめてみました。