SUNRISE研究会

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from Overseas

塩野泰紹(UK)

塩野泰紹(UK)

Imperial College London (London, UK)
Clinical fellow

2016年02月19日

【テーマ】第8回:留学のダークサイド

各論で紹介: 留学ダークサイド

これまでと全く異なる環境で生活・仕事をするわけなので、留学生活はバラ色なんて言うことは決してない。どちらかというとダークサイドに日々直面し格闘する毎日である。きっとダークサイドがあるからこそブライトサイドが際立つし、留学を終えた時にはいい思い出話になるのであろうが、実際にダークサイドの体験中は試練である。そこで今後留学を検討されている方や現在留学中でダークサイドと格闘中の方に、なるべく参考もしくは共感していただけるように各論で私の留学ダークサイドを紹介させていただく。

①日常生活面
海外生活経験の無い私たち家族が突然異国で生活を開始するにあたり多々ダークサイドに遭遇した。家族連れで留学する場合には自身のみでなく家族にもダークサイドを受け入れてもらわなければならず重要な点だと思うのでまずは生活面からご紹介する。
気候: 冬期は日出が8時頃で、日入が16時頃。日照時間は8時間未満になる。日照時間が短すぎるので子供にはビタミンDのサプリメント摂取が推奨されているほどである。天候も晴天の日は極めて少ない。私は10月から留学生活を開始したため、日に日に日照時間が短くなり留学当初の不安定な時期にこの気候には追い打ちをかけられ相当滅入った。
食事: 幼い子供を連れているということと、経済的な理由から外食することはほとんど無い。子供連れで気軽に入れる食堂のようなところでも、家族4人で食事をすれば1万円くらいはかかる。そこで主に食事は自宅でとることになる。一般的な食材は魚介類を除いて容易に手に入るし、和食の食材も大きなスーパーマーケットや日本食料品店で手に入る。しかし通常食費は日本の平均1.5〜2倍、日本食の場合は3〜10倍かかる。
・通信・ネット環境:携帯電話の使用料は日本よりも安い。また街のいたるところでFree WiFiが利用できるので通信費の負担は日本よりも少なくて済む。しかし接続速度や安定性は良くない。携帯は4G回線が利用できるがエリア範囲内でもすぐに3G回線に切り替わるし、接続できたとしても日本で使用するような安定感は全くない。
・郵便・宅配:日本と比較して一般的にサービスの質、信頼性は低い。最悪の場合破損したり紛失したりする。紛失した場合まず出てこないので、大切な郵便では多少費用がかかっても保証付きでトラッキングができる書留で郵送する。受け取る際もなかなか手ごわい。日本から国際スピード郵便(EMS)で荷物を送ってもらった際も、数週間経過しても届かないので問い合わせてみると、関税の支払待ちとなり連絡もなく配送業者に保管されていた。
・学校:義務教育は4歳から始まる。公立学校は基本的に無料なので大変ありがたい。しかしたいていの場合学校は満員で途中入学は空き待ちになる。義務教育の期間であっても入学するまでに数カ月間かかる。
医療:高額医療費を支払える(それをカバーする医療保険に加入できる)ならばプライベート医療が受けられるが、そうでなければ国費でカバーされるNHS(National Health Service)を利用して医療を受けることになる。我々も年間数万円の負担でNHSに加入でき(ビザ取得時に強制的に支払わされる)、治療費は全額負担される素晴らしい制度である。しかし診療は全て予約制でウォークインは受け付けられない。またかかりつけ医以外の受診もできない。早く受診したくても予約が数週間先になることもある(緊急時は別)。
住宅:一般的に家賃は極めて高い。家族で住むとなると最低でも月25万円以上必要だと思われる。また不動産屋のサービスも決して良いとは言えない。修理など依頼しても大抵の場合、数回連絡してやっと対応してくれる。対応のまずさや遅さは住宅に限らず万事において言えることで、日本のサービスを基準に考えると大体失敗する。

②仕事面
仕事内容・立場:私は研究員として留学しており、臨床に直接関わることは無い。他のスタッフは皆が臨床に従事しており、研究のみしている人はほとんどいないため、正直言って現在の留学先でこの立場は結構微妙である。研究をしようにも自分でデータを取れないのでだれかから貰わなければならないし、研究に必要なソフトウェアも特殊なものになるとインストールしてもらう必要がある。よって今のところ何か貢献できたと思うことは正直ほとんど無い。ボスを含めてスタッフの人の良さに救われてはいるが貢献なしに組織に属するのは心苦しく、存在意義を自問することもある。はやくアウトプットしたい焦燥感に日々追われている。
また留学先は自身の専門分野を選択することが一般的であろう。当然留学先はその分野のエキスパート集団である。結果としてレッドオーシャンでの戦いを強いられる。専門分野とは言っても制限がかかる中で特色を発揮するのは相当難しい。ブルーオーシャンに持ち込める他の技能を併せ持てば居場所を得やすいと思う。
給料:留学は無給の約束で開始しており、こちらで給料は得ていない。これは留学開始後に再度交渉するのは難しいと思う。そもそもまだ仕事面で貢献できていない状況で交渉のテーブルにつくことに無理がある。そのため留学は自己投資だと割り切っている。もしも留学先に給料を求めるとなると、給料を出して人を雇う仕事がある留学先を見つけるか、自身によほど売りとなる技能があるか、条件をクリアして留学先でも臨床に従事するかなどの条件を整えて留学前に交渉する必要があったと思われる。
自己投資と割り切っても留学中の生活費は毎月平均70万円前後の出費になるため、貯蓄は目に見えて減っていく。お金の話はオープンにされない傾向にあるが、留学において間違いなく重要な問題であるためあえて具体的な数字を記載する。お金は留学生活のアクティビティに大きく影響するし、尽きれば途中帰国しなければならなくなる切実な問題である。この状況なのでレポート業務で留学をサポートしていただいているSUNRISE研究会には本当に感謝を申し上げる。

以上、留学のダークサイドをなるべく具体的にご紹介した。書ききれなかったことも沢山ある。しかし私は留学に対して否定も後悔の気持ちも全くないことを述べておく。多少の理不尽さも余裕をもって受け入れられるようになってきたし、些細なことでも進歩があると喜びも大きく、これまで知りもしなかった物のありがたみもわかってきた気がする。ダークサイドがあるからこそ留学生活が味あるものになるのだろうと思っている。