SUNRISE研究会

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from Overseas

塩野泰紹(UK)

塩野泰紹(UK)

Imperial College London (London, UK)
Clinical fellow

2016年03月14日

【テーマ】2015-2016

打ち砕かれた当初のビジョン

私は留学を開始してまだ5ヶ月弱なので、正直まだ帰国後の明確なビジョンを描けずにいる。というよりも留学後に突きつけられた現実によって留学前に思い描いていた留学中の目標、留学後の方向性を考え直さなければいけなくなったという方が適切な表現かもしれない。
私の留学は臨床に携わらず研究に従事することを条件としているため、留学の目標は自ずと臨床研究に関するスキルアップに絞られていた。具体的には第1回のレポートでも少し触れたが、研究の考案、研究計画の作成、研究の実施、データの回収、論文作成、人脈の構築、論理的思考、ディスカッション能力、英語能力向上などの臨床研究を実行し英語論文として報告するのに必要と思われる各項目のレベルアップを図ることであった。これらを十分に習得して帰国し、coronary physiologyの分野で世界に向けて臨床意義の高い論文報告をするという青写真が留学前に思い描いていた帰国後のビジョンであった。
しかし現在このビジョンに向けて着実にレベルアップして、留学が終了する頃にはこれを達成できるという感覚は残念ながら無い。何度かこれまでのレポートでも触れたが、臨床に関わらないことに伴う疎外感、十分なコミュニケーションや深いディスカッションをするに足る英語能力の不足、プラスαの技術や知識(いわゆる一芸に秀でる何か)の欠如など、自身の能力不足により十分に留学チャンスを活かしきれていないことを痛感しているのが正直なところである。今更ながら留学における具体的な計画(何をいつまでに達成するか)が不十分で、もっと準備してから留学を開始していれば状況は違っただろうかとも考える。
一方で自身の能力を冷静に認識でき改善すべき項目がより鮮明になったことが、この5ヶ月間の留学生活の収穫であったかと肯定的にも考える。問題点は多くあるが、最初に挙げなければならないのは語学。コミュニケーションの基本なので当然といえば当然である。論文は幾つかは報告していたし、国際学会で英語の口述発表をして質疑応答もなんとか切り抜けられていたのでなんとかなるかと思っていたがとんでもない誤解であった。母国語であるからこそ求められる英語のレベルは極めて高い。具体的には、通常のコミュニケーションをするためには、最低でもIELTS 7.5以上が必要と思われる(IELTSはイギリスなど英語圏への留学や移住申請で用いられる英語検定試験。7.5点は外国人医師がイギリスで医師免許を取得するための最低ラインである。TOEICに換算すると970-990点に相当するらしい)。きちんとしたディスカッションを成立させるにはきっとそれ以上のレベルが必要である。英語に関して特別なバックグラウンドが無い私には極めて高いハードルで抜本的に学習方法を考える必要がある。
次に一般的な臨床技能に付け加えたプラスαの能力。英語を流暢に用いることができたとしても当然ながらこちらではただの人である。その点、こちらのチームメートを見渡すと一般的な臨床技術に付け加えてプラスαの特殊技能を持った人が多い。高度な統計解析ができる医師、プロ並にネットワーク技術に詳しい医師、コンピュータプログラミングに精通した医師など。当然ながら人ができないことをできる人は注目されるし、しかるべきポジションを得ている。留学するまではcoronary physiologyを専門分野とすることが自身の特徴になると考えていたが、さらに一歩踏み込んでそのなかでも人とは違う技能や分野は何なのか見出さなければならない。これを模索し、語学力とともに発展させることがこれからの留学期間における課題であり、帰国後の方向性を決める今後のビジョンになると思う。
そこで今できることとして、臨床研究と並行してこれまで使っていた統計ソフトから新しい統計ソフトに乗り換えて統計学を勉強し直したり、コンピュータプログラミングの勉強をしてみたり新しいことに挑戦中である。決して現状は満足いく状況ではないが、新しいことをやり始めるのは楽しみもある。きっと留学しなければこんな発想も時間もなかったと思うので、これも留学ならではの体験だと思う。
今回のレポートは帰国後のビジョンというよりは、前回のレポートに引き続いてダークサイドに近い内容になってしまった。レポート業務では現状をなるべく忠実にお伝えすることに意味があると考えているのでご容赦いただきたい。