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藤野明子(New York, USA)

藤野明子(New York, USA)

Intravascular Imaging Core Lab of CRF, New York, USA

2017年01月20日

【テーマ】2016-2017

標準化を目指すアメリカ医療、高みを目指す日本医療

研修医のとき、肺炎患者の重症度判断基準として、CURB-65という評価方法を先輩レジデントに教えてもらった記憶があります。意識レベル低下、尿毒症、頻呼吸、血圧低下、高齢、の5項目が予後不良因子なので、これらの項目が認められた場合には入院加療を考慮するよう、指導されました。これは、研修医の頃には役に立ったかもしれませんが、医師になって数年もたつと、そのような重症患者に入院を考慮するのは当然過ぎて、なぜあえてこのような基準が作られたのかよくわからなくなります。が、このような当たり前とも思えるようなマニュアルを大真面目に作って、標準化された医療を目指そうとしているのが、アメリカ医療のひとつの特徴だと思います(実はCURB-65は英国生まれのようですが)。 CURB65

冠動脈カテーテル治療の領域ですと、たとえば私の所属する施設では、診断カテをはじめて間もないインターベンショナルフェローがシンプルなPCIを行ったり、その1年先輩のシニアフェローがロータブレータ―を用いたPCIやCTO治療を行ったりします。もちろん上級医の監督のもとに行われるのですが、日本とはあまりに違う状況に最初は驚きました。日本ですと、もう少し経験を積んでからオペレータに、と考えるのが自然ですが、アメリカでは彼らは「インターベンショナルフェロー」としてPCIを行う資格を有しており、彼らのような経験のないオペレーターであっても安全に治療が行われるためにはどうすべきか、と考えます。結果として、基本的な事柄であってもマニュアル化が徹底され、最低限の質が保たれた医療が行われるシステムが発達しています。特にCTO治療など、その治療に長けた少数のオペレーターがより優れた医療を追求する、という日本のシステムとは大きく異なります。こういったシステムの違いで、アメリカのPCIは日本と比べるとかなりおおざっぱで、正直なところ合併症の発生率も高いように思いますが、多くの医師が治療を分担するので、少数の医師に負担が大きくかかり疲弊するという状況は、日本と比べると起こりにくいように思います。ある意味ではリスクを分散させて、結果的に全体として”それなりの”結果が得られるようなシステムが確立されています。

このような制度の違いは、患者さんのマネジメント方法にも及んでいます。カテーテル治療と入院加療は担当医師が完全に異なっており、カテーテル治療を行った医師は治療が終わると以後の入院治療には基本的にはかかわりません。PCIが終わると即! 帰宅するオペレーターに苦笑いしてしまいますが、反面、夜中でも土日でも常に病棟患者を気にかけなくてはならない日本のシステムに少々違和感を感じたりします。日本の医療は医師のごく個人的な良心に支えられているような気がして、制度の面でもう少し確かなセーフティネットがあってもよいのではないかと思います。

こういったシステムや考え方の違いを踏まえると、当然のことながら、患者側からみた医療の質という点では、断然日本に軍配が上がるように思います。私が目にしているのはカテ室だけで、これはアメリカ医療全体のごく一部に過ぎませんが、それでも日本のカテーテル治療の質の高さ(戦略的にも技術的にも)、治療をトータルでマネージしている「主治医」だからこそ可能な細かい配慮などは、日本の医療の素晴らしい点であることをアメリカにきてはじめて認識しました。こちらに来るまでこのようなことを考えたことはありませんでしたが、日本で臨床医としての基本を学ぶことができたことは、医療者として本当に幸運だったと、誇りに感じています。職人気質でストイックに臨床を追求する日本の医師の仕事は、世界から尊敬されるべきだと思います。

JQ

 

しかしながら、アメリカの合理的な医療システムに学ぶことは、やはり多くあるように思います。どのようなキャリアの医師であっても、ある程度標準化された医療を実践できるよう、アメリカのシステムは工夫されています。たとえば、開業医からの紹介で入院してくる心筋梗塞既往のある患者はほとんど全員β遮断薬、ACE阻害薬、スタチン等の「エビデンスに基づいた」処方がなされています。日本のすべての病院・クリニックで同じ程度optimal medical therapyが行われているかと問われると、なかなか自信が持てません。予算と時間と労力をかけて大規模な臨床研究に取り組み、わかりやすいマニュアルを作り、誰でもある程度の質を保った医療を実践できるようなシステムは、アメリカの優れた部分だと思います。また、少々日本の文化になじまない部分はあるものの、医療スタッフが疲弊することなく、ハッピーに仕事を続けるための配慮(十分な休息時間と労働に見合った報酬)がなされているという点で、アメリカのシステムをうらやましく思うところもあります。

より質の高い医療を提供すべく、医師個人が努力を惜しまない日本の医療は世界に誇れる医療であると実感しています。一方で、患者さん思いの日本の医療は、医療者の自己犠牲的な精神に支えられている側面があることもあたらめて感じるようになりました。アメリカの医療は患者さんにやさしくない部分もありますが、システムとしての安定感は抜群です。日本の医療者にかかる負担の大きさを考えると、しっかりとしたシステムに支えられていない日本の医療の不安定さを、心配に感じるときがあります。患者にやさしい日本の医療のよさを残しつつ、もう少し医療者の疲弊を防ぐようなシステムができるとよいと思いますが、なかなか難しいでしょうか。