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from Overseas

加藤陽子 (Baltimore, USA)

加藤陽子 (Baltimore, USA)

Johns Hopkins University
Research fellow

2018年04月09日

【テーマ】第5回:最近注目の論文

T1 mappingの臨床使用を見据えた動物実験

T1 mappingは新たな心筋線維化の評価方法として注目を集め、臨床使用も現実的になってきました。今回は貧血がT1 mappingに与える影響について論じた1本の論文を少し細かく見ていきたいと思います(T1 mappingのReviewは別途Report 3に記載しましたので、ご参照ください)。

 

題名:Myocardial Extracellular Volume Fraction and Change in Hematocrit Level: MR Evaluation by Using T1 Mapping in an Experimental Model of Anemia

T1 mapのパラメーターのひとつであるExtracellular Volume (ECV)が貧血により影響をうけるか、動物モデルで検証した論文です[1]。

論文掲載雑誌:Radiology 2018;00:1 –7

著者: 韓国のYonsei Universityを中心とした合計14名の各国の研究者が著者に入っています。日本からは三重大の佐久間先生が共著されています。

Budget support:韓国国内、およびAsian Society of Cardiovascular Imagingの二か所のBudget supportを受けています。

 

【予備知識】

T1 mappingのECVというのは、以下の計算式で求められます。要するにECV以外のT1 mappingのパラメーターはヘマトクリット値が数式に入りませんが、ECVを求める数式にはヘマトクリット値が入ります。つまり「貧血があればECVの値が変化するのではないか?」という疑問が生まれます。この疑問を動物モデルで検証したのが今回の論文です。

各種 T1 mappingのパラメーターを求める計算式

各種 T1 mappingのパラメーターの計算式

各パラメーターについて: T1 mappingの撮影からInversion pulseを入れた後の組織のT1値の時間経過による変化をグラフ化することができます。このT1値のグラフが63%回復するまでの時間がT1緩和時間(=“T1値”とも言います)です。T1値の逆数をR1とします。造影剤によりT1緩和時間は短縮しますので、造影後のR1は造影前のR1よりも大きくなります。この造影前後のR1の差を⊿R1と書きます。Partition coefficients (PC)は、心筋における⊿R1を左室内腔のBlood poolの⊿R1で除したものになります。ECVは得られたPCに (1-ヘマトクリット値) と100を乗じて求めます(単位は%)。(Report 3参照)

【方法】

動物モデル: 17匹の雄のラットSprague-Dawley rat (体重300-500g)を使用しました。

MRI撮像シークエンス: ラットは高心拍数(最大でHR=400)のため、ラット用のT1 mappingの撮像シークエンスの開発から始められました。9.4TのMRIでSaturation recovery Look-Locker sequenceを用い、非造影・造影T1 mappingを撮像しています。造影後のT1 mappingの撮像は、造影剤投与後15分時点で施行されました。

貧血の作成: ラットの貧血は、人為的に血液の15%を採血し、ハルトマン液で置換することで作成されました。ヘマトクリット値で10%以上の変化を貧血の作成の成功基準としています。

解剖と組織検査: 今回は正常心筋を対象とした実験のため、心筋に線維化をきたすような病変がないことを解剖後の組織検査で確認しています。

時系列: ベースラインのMRIと人為的な貧血処置、貧血作成後のMRI、解剖は以下の時系列で行われました。

実験の流れのフローチャート

実験の流れのフローチャート (文献[1], Figure 1を引用)

MRI画像の解析:左室収縮能をシネ画像で評価しています。T1 mappingの評価としては、左室中央レベルの短軸断面で左室心筋と左室内腔の血液(Blood pool)の造影前後のT1値を求め、Partition coefficients (PC)とECVを計算しています。

統計学的解析:Paired t testで比較しています。

【結果】

組織検査では線維化病変をもつラットはおらず、正常組織であることが確認されました。

MRIの結果は以下の表にまとめられ、対応する箱ひげ図も表示されています。貧血処置後に有意差を示したものとしてはヘマトクリット値の減少、Blood poolにおける造影前T1値(Native T1)値の上昇と造影後T1値の低下、それに伴うBlood poolの⊿R1の増加、Partition coefficients (PC)の有意な減少を認めています。しかし、ECVは貧血による有意な変化は認められませんでした(前出のECVを求める計算式を見ると、PCとヘマトクリット値の変化が相殺されたような形になっています)。

各種MRI測定結果の貧血前後の値の変化

各種MRI測定結果の貧血処置前後の値の変化 (文献[1], Tableを改変引用)

各種MRI測定結果の貧血前後の値の変化(前述の表に対応)

各種MRI測定結果の貧血前後の値の変化(A-Hは上表に対応) (文献[1], Figure 4を引用)

 

【考察】

今回の動物モデルの結果からはECVはヘマトクリット値の変化による影響を受けませんでした。筆者らは先行研究を引用し、ECVはMRIの磁場強度や造影剤の種類や量にも影響を受けず、再現性があるパラメーターであると述べています。ECVは心筋の線維化を反映する信頼できるSurrogate markerであり、今回の動物モデルの結果からの推論ではあるが、人間を対象とした場合でも、貧血患者においてもECVは信頼できるパラメーターであると思われると述べています。

筆者らは以下の6項目をLimitationとして挙げています。① サンプルサイズの小さい試験である、② T1 mapの撮像が造影剤投与後15のみでありその他のタイミングでは撮像をしなかった、③ 心筋の血漿成分については検討しなかった、④ 貧血の原因が人為的な採血によるものであり他の要因による貧血については検討していない、⑤ ヘマトクリット値の確認は1回のみであり、複数回は確認しなかった、⑥ ラットモデルでの心筋やBlood poolのT1値の再現性については検討しなかった。

 

【コメント】

T1 mappingの臨床使用を見据えるとヘマトクリット値のECVへの影響の有無は今後の臨床研究で確認する必要があります。人間を対象とした臨床研究のための予備実験として、今回の動物実験を行ったのではないかと思われます。近い将来、同グループより本テーマでの臨床研究の結果が報告されるものと期待されます。

 

Reference

1. Kim PK, Hong YJ, Sakuma H, et al.: Myocardial Extracellular Volume Fraction and Change in Hematocrit Level: MR Evaluation by Using T1 Mapping in an Experimental Model of Anemia. Radiology 2018:171342.