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from Overseas

加藤陽子 (Baltimore, USA)

加藤陽子 (Baltimore, USA)

Johns Hopkins University
Research fellow

2018年05月20日

【テーマ】第6回:世界に出てから見つめ直す日本の医療、どこへ 向かっていくべきか

日本の医療、どこに向かう? (日本と米国の医療の違い、観察と感想)

1. 日本の医療の方向性

方向性としてはより新しく効果のある医療を追及してゆく世界の流れに乗っていくのであろうと思いますが、日本の医療の特殊性とどうバランスをとるのかは課題であろうと思います(国民皆保険、遺伝的特殊性、高齢化、日本人的な細かい質の追求など)。

私が留学して実感した米国の医療の特徴として、新しい概念や仕組みを考案し、制度化し、普及するのに長けていると思います。公衆衛生が重要視され、チームで研究・臨床・教育を行い、十分な費用をかけてものごとを大きく進めていく米国の医療は魅力的かつ効率的であり、世界中の医療者をひきつけ、世界の常識を牽引するのももっともであると思います(ただし欠点もあります)。

日本の特殊性ならびに日本と異なる世界の常識を理解したうえで、今後の日本の医学教育、研究制度の整備をすすめ、信頼に足る医療を行い世界に発信できる国として日本の医療の存在感を示していくのが、個人的な私の理想です。

 

2. 保険制度の影響

国民皆保険制度は日本の特殊な保険制度として、米国で広く知られています。保険制度は、臨床的な医療のみならず、研究にも大きく影響しますし、多分に政治的な要素も含みます。私が個人的に気付いた、保険制度にまつわる米国と日本の異なる点をいくつか挙げていきたいと思います。(あくまで個人的な観察・感想です。)

2-1. 患者として

医療を受ける側としては国民皆保険制度が大変ありがたく安心できる制度で、日本の医療のメリットであると思います。ただし不要な受診の増加・医療者の負担の増加につながっているとも言われ、制度の調整や被保険者の教育が必要であると思います。

米国では保険は自分で買う商品です。歯科と医科は異なる商品となります。保険によりカバーされる医療行為が異なり、支払い金額も変わります。「保険を持っていることで得られるメリット」は大きいですが、「保険を持っていないと大きな金額の支払いが必要、あるいは受けられる医療に制限が出てくる」危険性が出てきます。

保険を持たない患者は適切な治療が受けられず、オピオイドを用いた疼痛コントロールを漫然とつづけるうちにドラッグ中毒に陥るというパターンもあるようです。ドラッグ中毒は社会問題であり、それをコントロールするために専用の医療施設(オピオイドを注射するための注射針やアルコール綿を整備した施設)で医療者の確認下で使用させるという試みがなされ、費用対効果があったという報告も耳にしますが、矛盾した気持ちにならざるを得ません。

2-2. 医療者側として

日本では「保険外診療」に注意する必要はありますが、米国ほど個人の保険を意識することは多くないと思います。(何が最適かは個人により異なりますが)一般的には、最適な治療方法を医療者・患者ともに追及することが比較的容易な環境であると思います。

米国の医療者は、治療内容による値段の違いや薬価の違いを良く把握し、説明に長けています。医療を提供する際にどこまでどのような治療をするのか、金銭的な面を含めて患者とやり取りをするためであろうと思います。

2-3. 研究者として (臨床研究)

研究に欠かせないのが研究費です。米国の臨床研究は、たとえば新薬のスタディであれば、MRIのスキャンにかかる費用や採血項目の費用なども含め、スタディ中にかかる医療費すべてを製薬会社が出資します。このため、研究予算が莫大なものとなります。日本では国民皆保険制度がある前提で臨床研究を行う場合には、米国と比べるとかなり少額な予算で研究を行うことが可能となります。米国と日本で共同研究をする場合には、この制度的ギャップを理解したうえで交渉をする必要があります。

米国の「スタディに参加すると医療費を支払うことなく医療が受けられる」メリットは自発的にスタディに参加するモチベーションに繋がりますが、保険を持たない人が医療目的にスタディに参加するバイアス(「それまで疾患を指摘されたことがない」ことが「健康」であるとは限らない)という危険性も出てきます。