SUNRISE研究会

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from Overseas

2020年05月03日

Okuno’s

AS in COVID-19

お久しぶりです。ベルン大学の奥野です。

実は留学直後に父の病気が判明し、急激な進行で昨年の夏に亡くなってしまうということがありました。全く予期しなかったイベントで精神的にかなり参りましたし、日本とスイスの行き来をしながらの生活で仕事も中々進められず、こちらの投稿はSUNRISEのご厚意に甘えて遅れてしまっておりました。大変申し訳ありません。

 

日本の皆様は、今まさにCOVID-19の脅威にさらされ、特に前線の先生方は非常に大変な思いをされていることかと存じます。このような時期ですので、COVID-19 PandemicにおけるAS患者の取り扱いというテーマで、こちらでの現状も少し踏まえつつreviewさせていただきたいと思います。

スイスでは、当初は日本や韓国、中国をまるで対岸の火事のように見ていたのが、イタリアの医療崩壊を契機にあっという間に感染が広がり、一時は今の日本よりもずっと酷い状況となっていました。スイスは九州より少し大きい程度の国で、人口も800万人程度ですが、累計の感染者数は3万人近くとなり、死亡者数も1,400人を超えています。3月16日以降は、食料品店や薬局などのessential service以外がすべてcloseとなり、現在までその状況が続いています。一方で近隣諸国とは異なって、ロックダウンの指示は出されず、感覚的には非常に緩い自粛生活となっています。公園や川などは人が溢れ、家族でBBQやサイクリングを楽しんでいて、一般に想像されているヨーロッパの現状とは少し乖離があるかもしれません。

その様な中で、4月4日に一旦感染のピークを迎え、徐々に生活をもとに戻していく方向で進んでいます[1]。当院は幸いにもリソースの限界を超えるレベルには至らず、現在は新規患者数も大幅に減少してきています。3月20日以降、スイス全土の病院で待機症例のinterventionが禁止されていましたが、4月26日でこれも一旦解除となり、徐々に通常の病院運営に戻りつつあります。

 

今回reviewさせていただくのは、このPandemic中の待機症例に対するinterventionの取り扱いに関しての内容です。COVID-19は、それ自体も非常に問題ですが、それによって引き起こされる医療資源の消耗や医療従事者、他患者への感染もかなり大きなインパクトのある問題になります。Interventionを受ける患者への感染のリスクや、Pandemicの為にできるだけ医療資源を温存しておかなければならないことを考えると、当然待機症例に関しては一旦中止にせざるを得ないわけですが、一方でそうも言っていられない状況が存在するのもまた事実です。待機interventionの中でも特に問題になるのはAS患者です。ASは治療しなければ最悪の場合死に直結しますので、治療の延期には特に慎重にならざるを得ません。またAS未治療の状態でCOVID-19に感染してしまうと、非常に厳しい状況が予測されます。そのため、患者個々のリスク評価を慎重に行い、優先順位をつけていく他ないわけですが、これは非常に難しい判断となります。最近JACC, JACC: Cardiovascular Interventionsからそれぞれ、Pandemic中のStructural Heart Disease Interventionに関するreviewがpublishされています[2,3]。多少overlapした内容になっているので、両者をかいつまんで要約(勝手な解釈や他の記事からの判断も加えて)すると以下のようになります。(細かい部分は施設によって大きく異ることが予測されるので省略します。)

<術前評価>

患者評価は可能な限りビデオ通話などを通して行い、検査も必要最小限に留める。特に心エコー評価は、検査者と患者の接触時間が長く、距離も非常に近いため、相互の感染リスクが懸念される。適応を慎重に判断し、実施する場合も必要最小限の評価に留める。特に経食道エコーは感染リスクが高いため、原則行わない(Pandemic中の心エコーに関してはASEからstatement [4]が出されていますので、心エコーの指示、実施に関わる方は簡単に目を通しておく必要があると思います)。治療の最終判断はハートチームで行うが、メンバーの直接の接触は可能な限り避ける(一般的なチーム回診などは行わない)。

<治療適応>

1. NYHA IVの状態、心不全入院を繰り返してEFも落ちてきている状態、失神を繰り返している状態では、延期は不可に等しい。可能な限り速やかに治療する。

2. NYHA III, EFの低下、新規の心房細動、流速5 m/s以上などあれば、1週間毎を目安にビデオ通話など用いてモニタリングを行いながら、1-2ヶ月以内に可能な範囲で早期の治療を目指す。

3. NYHA II以下、EFが保たれていて、症状も安定している場合は、一旦延期。Pandemicが収束しなければ3ヶ月を目処に治療タイミングを再検討する。

 

<TAVIかSAVRか>

全てのsurgical risk group患者においてTAVIのSAVRに対するsuperiority/noninferiorityがRCTで出されているので、ICUベッドを含めた医療資源の温存を考慮すると、少なくともPandemicの間はConscious sedationでのTAVIがSAVRよりも好まれる。ただし、明らかに若年、特に50歳以下で機械弁が優先されるような場合や、解剖学的にTAVIが不適切な場合にはSAVRを選択する。アメリカのデータですが、患者ごとにSAVRなどの心臓外科手術を実施した場合に必要となる医療資源の予測を出すtoolが公開されています[5]。

<治療>

Pandemic中に治療を受けることになった患者は原則COVID-19のscreeningを受ける。この期間中は、interventionに関わるメンバーは最小限にとどめ、residentやfellowなどのtraineeは原則含めない。治療に関わることになったメンバーは、N-95 maskを含めたpersonal protective equipment (PPE)の取り扱いについて十分な説明と訓練を受け、COVID-19患者、または疑いのある患者を治療する場合は、患者自身にはsurgical maskを、治療メンバーは全員face shield, N-95 maskを含む完全なPPEを装着して治療にあたる。これについてはACC/SCAIからrecommendationが出ています[6]。

<術後>

術後は、入院中の感染リスクを避けるため早期退院を目指す。TAVIの場合は術後24-48時間を目安に退院を目指し、リハビリは自宅で遠隔に行えるよう努力する。

 

参考までにベルン大学での対応を簡単にまとめます。先に記述したとおり、3月20日から4月26日までの間、待機症例のinterventionは原則禁止となっていたため、AS患者に関してもリスク層別化を行い、必要最小限に患者数を絞りました。原則として、弁口面積が0.6 cm2以下、或いは平均圧較差が60 mmHg以上のcritical AS、3ヶ月以内の心不全入院歴やNYHA III以上で明らかな活動制限がある場合には、速やかに治療を行い、それ以外の症例は一旦延期としました。結果的に、週8-12件程度だったTAVIの件数は、週4-5件程度まで減り、SAVRは殆ど行われませんでした。ただ、有症状のAS患者の治療を延期することの影響に関しては殆どデータがないため、電話で慎重にフォローアップを行いました。これに関しては実は前向きの試験として、ClinicalTrials.govに登録されており(NCT04333875)、早々にデータとして報告する予定です[7]。ちなみにTAVI以外も含め、intervention患者に関しては原則全例COVID-19のscreeningが行われました(研究目的も兼ねて)。これ以外にもCOVID-19に関連して複数のstudyが進行しており、この状況下にあっても世界のleading施設として大事な情報をどんどん発信していこうとする姿勢と、それを可能にする体制には本当に感心させられます。

現在、スイスは一旦の収束を迎え、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあります(第2波があるのかなど、先は全く読めませんが)。日本は、まだ収束とは言えない状況のようで、今がまさに大変な状況かと思います。とはいえ、感染者数も死亡率も明らかにスイス含む欧米諸国よりは良い成績でこれまで推移しており、身内贔屓なのかもしれませんが、日本の医療の頑健さを感じます。どこにも正解がない中でただ前線で戦うしかない医療従事者のストレスは相当なものと想像しますが、とにかく皆様の安全と、日本での早期の収束を祈っております。状況的にはスイスは日本の一歩先を行っているように見えますので、こちらでの状況は日本の今後を予測する上での参考になるかもしれません(自粛の程度なども少し似ているように個人的には思います)。

 

Reference

  1. 1. https://covid19.healthdata.org/switzerland?fbclid=IwAR0VU0Rj1WbBQ4UitNwQPo1qBxWb4osSYCSQeYZ5-eKmXPXm59IG96924C4
  2. 2. Shah PB, Welt FGP, Mahmud E, et al. Triage Considerations for Patients Referred for Structural Heart Disease Intervention During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic: An ACC /SCAI Consensus Statement. JACC Cardiovasc Interv. April 2020. doi:10.1016/j.jcin.2020.04.001
  3. 3. Chung CJ, Nazif TM, Wolbinski M, et al. The Restructuring of Structural Heart Disease Practice During The Covid-19 Pandemic. J Am Coll Cardiol. April 2020. doi:10.1016/j.jacc.2020.04.009
  4. 4. Kirkpatrick JN, Mitchell C, Taub C, et al. ASE Statement on Protection of Patients and Echocardiography Service Provides During the 2019 Novel Coronavirus Outbreak. J Am Coll Cardiol. April 2020. DOI: 10.1016/j.jacc.2020.04.002
  5. 5. https://www.sts.org/resources/resource-utilization-tool
  6. 6. Welt FGP, Shah PB, Aronow HD, et al. Catheterization Laboratory Considerations During the Coronavirus (COVID-19) Pandemic: From ACC’s Interventional Council and SCAI.J Am Coll Cardiol. April 2020. DOI: 10.1016/j.jacc.2020.03.021
  7. 7. https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04333875