お金、健康、家族;小さな不安を抱えての留学生活

留学のデメリットが今月のテーマですが、個人的には、今回の数年間の留学に大きなデメリットを感じたことはまだありません。もちろんこれまでメインの仕事であった臨床から離れることになるのでその分臨床に関する経験のロスはありますが、それを差し引いても、留学によって得られる経験は他に代え難いものだと感じています。ただ、留学というのは大変個人的な体験で、所属する施設や研究テーマや上司との相性などに大きく左右されるものだと思います。そういう意味では留学先を妥協なく慎重に選ぶことが本当に大切だと思いますし、私は自分に合った留学先を見つけることができて本当に幸運だったと感じています。
強いて留学のマイナス面を挙げるとするなら、①貯金が減る、②医療に対する不安、③家族、家庭の問題、でしょうか。
 
① 留学にかかる費用について
ニューヨークは物価が高いので、単身留学とはいえ、生活費はそれなりにかかっています。ミッドタウンにワンルームを借りていますが、家賃は月30万円程度と日本と比べるとかなり高額です。私の場合最初の1年間は無給という条件でしたので、SUNRISE研究会からのサポートを含め奨学金でやりくりしています。私の施設では2年目からは何とかニューヨークで暮らせる程度の給与が考慮されることが多いようですが、それでも全体としては少なくとも数百万円の出費になると思います。
 

1匹8ドルのサンマ

1匹8ドルのサンマ


 
② 医療に対する不安
前回アメリカの医療について書かせていただきましたが、やはり日本の質の高さに慣れていると、こちらで病院にかかることには少々抵抗があります。加えてアメリカは医療費が高額であるため(友人は5日分の抗生剤処方が120ドルだったと嘆いていました、また点滴だけの一泊入院で5万ドルかかったという先輩の話も聞きました)、大きな病気にかかってしまったらどうしよう、という不安は、多少あります。
 
日本と比べて呼びにくい救急車

日本と比べて呼びにくい救急車


 
③ 家族、家庭の問題
私の場合は幸いにも理解ある夫のおかげで今のところ大きな問題は生じておりませんが、単身留学のため家族と離れる寂しさはもちろんあります。家族で留学先に引っ越す場合には、家族がその国の暮らしになじめないとなかなか大変そうです。また希望する女性の場合、妊娠や出産にはタイムリミットがあり、これが留学時期と重なると、精神的なプレッシャーは大きいと思います。留学中に出産するという選択肢はあるかもしれませんが、仕事に全力投球できなくなることを考えると、個人的にはやはり躊躇してしまいます。
 
子供の学校も、家族での留学では心配事のひとつ

子供の学校も、心配事のひとつ


 
これらのマイナス面は、いつも頭の片隅にある小さな不安です。
こういったマイナス面はあるものの、数年間という「期限付き」の留学には、それほど大きなデメリットはないように思います。しかしながら、「アメリカで(臨床医の資格を持たない)医師として研究に従事する」という次のステップに進むには、やはり相当な覚悟が要るのではないかと思います。日本で臨床医として生きていく、という王道の生き方を捨て、臨床医の資格を持たないという不利な条件を抱えながら、あえて臨床研究の領域での活躍を目指すというのは、大変に厳しい選択だと思います。一方で、システマティックに物事を進める文化や合理的な国民性は研究という仕事とよくフィットするので、日本と比較して仕事がやりやすい側面もあるように思います。

a_fujino
a_fujino
藤野 明子(New York, USA)