心筋梗塞既往のないPCI後の患者に、β遮断薬の継続投与は必要か

Predictors, Trends, and Outcomes (Among Older Patients ≥65 Years of Age) Associated With Beta-Blocker Use in Patients With Stable Angina Undergoing Elective Percutaneous Coronary Intervention: Insights From the NCDR Registry.
Motivala AA et al. JACC Cardiovasc Interv. 2016;9:1639-48.
JACC Cardiovascular Interventionの2016年で最も多く読まれた論文第5位(Editorial commentは第2位)にランクインしたこの論文は、日常診療ににおける臨床医の”よくある”疑問にひとつの答えを提示してくれたように思います。
AHA/ACCガイドラインにおいては、心筋梗塞既往のある患者や心不全患者に対し、β遮断薬の投与を強く推奨されており、そのメカニズムから、心筋梗塞既往や心不全のない安定狭心症患者にまでβ遮断薬の恩恵は及ぶのではないか、という議論がなされてきました。COURAGE trial等においては、安定狭心症患者にとって、β遮断薬は至適内服療法に欠かせない薬剤ということが示されていましたが、PCI後の(=血行再建によって虚血が解除された)患者においてもなおβ遮断薬が予後改善効果を有するか?という問題は、多くの循環器内科医の興味の対象であったと思います。
〔背景/方法〕
β遮断薬は心筋梗塞や収縮性心不全患者の予後を改善することが知られているが、これらの既往がない安定狭心症患者に対する効果は未だ明らかではない。また、血行再建が行われていない安定狭心症患者の予後改善効果は示されているが、血行再建後の患者の予後を改善するかどうかに関してはよくわかっていない。
本研究においては、NCDR CathPCI registryデータベースを用いて、①心筋梗塞や収縮性心不全既往のない、待機的PCIが施行された安定狭心症患者に対するβ遮断薬の効果、②退院時のβ遮断薬処方に関する予測因子や傾向について、検討を行った。
期間:2005年1月から2013年3月までにNCDR CathPCI registryに登録された患者。
対象患者:65歳以上の、心筋梗塞/心不全既往のない、左室駆出率40%以上の安定狭心症患者。β遮断薬禁忌患者は除外。
エンドポイント:プライマリアウトカムは退院後の全死亡(30日/3年フォローアップ)。セカンダリアウトカムはPCI/CABGの再血行再建、心筋梗塞、心不全、脳卒中による再入院。これらの複合アウトカムに関しても評価を行った。
〔結果〕
最終対象患者は755,215名(上記期間にNCDR CathPCI registryに登録された全症例の16.7%に該当)。退院時にベータ遮断薬が処方された患者は539,521名(全体の71.4%)であった。
これらの患者においてPCIは、退院後の①死亡、②再血行再建、③心筋梗塞もしくは脳卒中による再入院 の減少には寄与しなかった。退院時にβ遮断薬の投与が行われた患者は、年齢が若く、女性が多く、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、透析、PCI既往、心不全既往を有するもしくは心不全を呈している患者が多かった。またBMIが高い、NYHAが高い、ACC/AHA type C病変の割合が高い、多枝病変へのPCIが多い、急性期のPCI合併症が多い、緊急PCIの割合が高い、などの特徴も有していた。
<30日アウトカム>
調整死亡率は、退院時に遮断薬の投与された患者とされなかった患者で有意差は認めなかった(adjusted HR: 0.86; 95% CI: 0.73 to 1.02; p=0.08)。退院時にβ遮断薬が投与された患者の心不全による再入院率は、投与されなかった患者と比較し高かった(adjusted HR: 1.70; 95% CI: 1.43 to 2.02; p<0.001)。
<3年アウトカム>
調整死亡率、心筋梗塞/脳卒中による再入院率、再血行再建率に関して、退院時にβ遮断薬が処方された患者とそうでない患者において有意差は認めなかった(adjusted HR: 1.00; 95% CI: 0.96 to 1.03; p=0.84)。心不全による再入院率は、β遮断薬が処方された患者で有意に高かった(adjusted HR: 1.18; 95% CI: 1.12 to 1.25; p<0.001)。
〔結論〕
65歳以上の、心筋梗塞/心不全既往のない、左室駆出率40%以上の安定狭心症患者における退院時のβ遮断薬処方のルーチン処方は、30日/3年フォローアップにおいて、退院後の死亡、再血行再建、心筋梗塞/脳卒中による再入院と関連しなかった。
 

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藤野 明子(New York, USA)