Plaque ErosionによるACS病変に対し、ステント留置は不要か?

Effective anti-thrombotic therapy without stenting: intravascular optical coherence tomography-based management in plaque erosion (the EROSION study).
Jia H. et al. Eur Heart J. 2016. [Epub ahead of print]
ACS(STEMIを含む)患者をステント留置なしに治療するというオプションの可能性を示した、斬新な研究だと思います。一方で、とくに血栓量が多い場合等、OCTでplaque erosionをどこまで正確に診断できるのかという問題や、抗血栓療法にともなう出血リスクの問題など、解決すべき問題は多くあるように思います。また当然のことながらこのコンセプトの妥当性はRCTによって検証されるべきだとも思います。まだ色々な課題が残されている実験的な研究だとは思いますが、コンセプトの新しさという点で目を引くスタディであるように思いましたので、取り上げさせていただきました。
[背景/方法]
ACSのメカニズムにはplaque rupture, plaque erosion, calcified noduleの3パターンがあり、plaque erosionは22-44%を占めると報告されている。病理学的な研究によると、plaque erosionは平滑筋細胞やプロテオグリカンが豊富な病変において、内腔表面上の内皮細胞が損傷することによって生じるとされている。
OCTは解像度の高いイメージングモダリティであり、plaque erosionの検出が可能である。fibrous capに損傷がなく、内腔がより大きく保たれ、血小板豊富な血栓が存在することが特徴である。plaque erosionの病理学的特徴をふまえ、plaque erosionによるACSは、ステントを留置することなく抗血栓療法のみで安定化させることができるという仮説のもと、plaque erosionによるACSに対する保存的加療に関する単施設シングルアーム前向き研究を行った。
登録期間: 2014 年8月 – 2016年4月
対象患者と治療: ACSによる緊急治療対象患者にスクリーニングを行い、カテーテル治療前にアスピリン300 mg、チカグレロール180 mg、ヘパリン100 IU/kgが投与された。IIb/IIIaインヒビター投与や血栓吸引の施行は、術者の判断に任された。病変はOCTによって同定・観察され、plaque erosionと診断された場合、①造影所見上狭窄が70%未満である、②TIMI flow grade 3である、③患者が安定していて症状がない、の3条件を満たす場合には、ステントを留置せず、抗血栓療法のみが継続された。術後3日間にわたり、未分画ヘパリン(APTT 50-70を維持)もしくは低分子ヘパリン(エノキサパリン1 mg/kgを12時間毎)の投与を行った。DAPTも継続された。虚血の再燃を認めない場合には、術後5日で退院とし、1ヵ月後にフォローアップOCTを施行した。
エンドポイント: プライマリエンドポイントは1ヵ月後のフォローアップOCTによる、50%以上の血栓減少。セカンダリエンドポイントは主要心血管イベント(心臓死、再梗塞、不安定狭心症や狭心症進行による再入院、臨床的に必要なTLR、脳卒中、major bleedingの複合エンドポイント)。
[結果]
① ACS 405症例(うちSTEMI 393症例)のうち、plaque erosionはACS患者の103症例、25.4%に認められ、ACS発症の原因としてplaque rupture (60.7%)の次に多かった。
② 抗血栓療法のみによって治療され1ヵ月後のOCTフォローアップがなされた55症例に関し、血栓量は有意に減少(-94.2%)していた。78.3%(47/60)の患者はプライマリエンドポイントを満たし、このうち22名は残存血栓を認めなかった。
③ ステントを留置せず抗血栓療法のみで治療された患者のうち、セカンダリエンドポイント(MACE)を満たしたものは2名のみであった。
[結論]
plaque erosionはACS患者の4分の1に認めるメカニズムであり、ステント留置を行わない抗血血栓療法によって血栓量が減少することが1ヵ月後のフォローアップOCTによって確認された。plaque erosionによるACS患者において、抗血栓療法のみによるステントを留置しない保存的加療は、治療選択肢のひとつとなりうる。

 

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藤野 明子(New York, USA)