負荷→できるようになる→楽しい

さて、今回は私の所属施設であるJohn A. Burns School of Medicine (JABSOM)について紹介したいと思います。

<研究施設周辺の雰囲気>

John A. Burns School of Medicine (JABSOM)は、観光客に人気のアラモアナセンターの少し西側、カカアコというエリアにあります。このあたりはもともと港の倉庫街だったところで、昔はかなり治安の悪い一帯だったようなのですが、最近は再開発が進み、高層マンション建設ラッシュの真っ最中です。ネットで”カカアコ”と検索すると新しいおしゃれエリアとして注目されていることがわかります。

惜しむらくは、JABSOMのあたりはカカアコでも海側の、下水処理施設とホームレス社会復帰施設に囲まれた場所にあるため、再開発とは無縁の人通りの少ない殺風景なブロックにあることです。駐車場のあたりは暗い上に人気がなく、日没後はあまり雰囲気の良い場所とは言えません。

とは言えキャンパスに入ってしまえば、一転してきれいな建物に囲まれたアカデミックな雰囲気に変わります(図1)。JABSOM敷地内には、2018-2019年度レポーターを務められていた重城聡先生が留学されていたSimTikiも入っているMedical Education Building、がん研究を目的としたCancer Center, そして私が所属するラボがあるBioSiences Building (BSB)があります。これらの建物に囲まれた中庭には緑が多く、ベンチの日陰で休んでいると野生のニワトリが前を横切り、小鳥のさえずりが聞こえてくるなど、南国のイメージに違わない、のどかな雰囲気を味わうことができます(図2)。

図1. JABSOM正面入口

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図2. Common waxbillという鳥は日本のスズメの半分くらいの大きさです。癒やされます。

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<研究室の紹介>

BSBの3階部分がCenter for Cardiovascular Researchとしてまとまったセクションになっており、心血管病の研究を行っているラボが8個くらい入っています。それぞれのラボのテーマは心筋再生、心筋イオンチャネル、低酸素など多岐に渡っており、横のつながりで共同研究や実験機器のシェアが積極的に行われています。私の所属するTallquistラボは心臓線維芽細胞の病態への関わりを研究テーマとしています。

ラボの規模としては、ポスドク、大学院生、学部生、ラボマネージャーなど全部合わせても6人という少人数体制です。ボスを含め女性が多めです。生き馬の目を抜くような十数人規模のトップラボに基礎研究で留学された先輩方の体験談では、しばしば「ライバル視されて抗体を水に変えられる」「PCのロックをかけておかないとデータが盗まれる」などという殺伐とした話も耳にしていましたが、幸いなことにそのようなことはなさそうな雰囲気で、メンバーは皆気さくで優しくしてくれます。コロナ禍で屋内での飲み会は難しい中、歓迎会を開いてくれました(図3)。ビーチに日没前に集合してサンセットを見ながら飲み食いをするのがこちらの文化のようです。

図3. アラモアナビーチのサンセットを背景に

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また、他の研究室のポスドクとも交流が盛んで、実験を教えてもらったり、道具を使わせてもらったり、持ちつ持たれつの関係が成り立っています。

実験機器としては超最新のものはありませんが、共焦点顕微鏡やFACS、次世代シークエンサなどが必要十分に行える機器が揃っています。動物施設も同じ建物に入っているので動線もよく、快適に実験生活を送っています。

<今の所のラボの印象>
・ボスとの面談が多い

このくらいの規模だとボスとの面談が隔週〜週1くらいであるので、毎回新しい所見を得てボスとディスカッションせねばならないというプレッシャーがあり、毎日の実験にも緊張感が生まれます。面談を終えて凹んでいる同僚をみんなで慰めたりもします。

・ジャーナルクラブがインタラクティブ

日本でやっていた抄読会は当番制で、担当者が責任を持って1本の論文を紹介するという(おそらく)もっとも一般的な方法でした。この方法は自分が担当のときはいろいろ努力して読み込んだり噛み砕いて説明しようとがんばりますが、それ以外のときはふわっと聞いて思いついた質問をするという態度で臨んでいたため、当事者意識がやや希薄であったことは否めませんでした。一方で、当ラボでのジャーナルクラブでの担当者はあくまで司会であり、全員が発表者です。Fig.ごとに「誰か説明できる人?」と振られ、説明が甘いとボスのツッコミが入ります。突然当てられることもありますし、Fig. ごとに自分なりの解釈を求められるので、少なくともネイティブでない自分には入念な事前読み込みが必須で、負荷のあるトレーニングになっています。また、ハイインパクトな報告ならそれがなぜハイインパクトなのか、月並みな報告ならこの報告をハイインパクトにするためにはどのようなデータを追加すべきか、などを意見が出なくなるまで出し合います。さらに、辻褄の合わないデータはみんなの腹に落ちるまでDiscussionする、など「なあなあで終わらせない」感じがあり、毎回それなりのプレッシャーの中で臨んでいます。

・お金に関してはシビア
なぜその物品を購入するのか、に関しては結構シビアです。自分が欲しい抗体を選ぶ場合、なぜその抗体でなければならないのか、根拠を客観的に提示しなければなりません。近年の日本におけるバイオサイエンス商品の相対的な高騰が是正される雰囲気がないことを考えると、良い道具の選び方という経験は、日本でこそ活きるのかもしれません。
<平日のスケジュール>

労働時間はフレキシブルで、週40時間働いて、それに見合うアウトプットがあればよい、と言われました。みんな朝が早いので、8時ころには実験を始め、代わりに午後4時ころには帰り始めます。それでも必要があれば遅くまで残ったり、土日も使って実験はしているので、自分の日本での生活スタイルとあまり変わらない印象を受けました(さすがに午後4時上がりってことはありませんでしたが)。ただ、日本では臨床のDutyもあり、長丁場の実験のスケジュール管理が難しかったのですが、やっぱり週5日で実験が入れられるというのは思い通りの実験計画が立てられるので気持ちが良いです。

この中で週1回ほどのボスとの面談がランダムで入り、隔週のジャーナルクラブがあります。一対一なら自分の伝えたいことも伝える余裕があるのですが、ネイティブ同士でディスカッションが盛り上がっているところに自分の意見を差し挟むタイミングには苦労しています。M.D.ならではの意見を言うとウケが良いことがわかってきたので、こっちの方向にまず活路を見出していこうかなと思っているところです。

<休日の過ごし方>

何と言ってもハワイなので、休日の楽しみ方は無限大です。とはいえ観光客用のレジャーはチップだ何だとお金がかかるので今の所手を出していません。お金がかからない過ごし方としては、1. ビーチまで行って泳ぐ(公共のビーチは無料で、ワイキキでなければ無料で駐車できる場所が大抵あります)、2. ジョギング (ホノルルマラソンもあることからランニングが非常に盛んです。信号のない海沿いの道や不舗装のコースがたくさんあります)、3. 山歩き(後述)などが手軽です。自分は主に山歩きをしています。オアフ島中央部の険しい山地には多くのトレイルがあり、週末の午前中はトレイルウォークに出掛けることにしています。片道30分程度の軽いものから往復7時間くらいかかる日帰りコースまでよりどりみどりなので、金曜日になると明日どこへ行こうか…とGoogle mapとにらめっこをしています。どのトレイルを選んでも、頂上では素晴らしい景色が待っています(図4)。このように今のところは一人で陸を歩き回って過ごしていますが、家族が来たら海での時間が増えそうです。

図4. ラニカイ・ピルボックス・トレイルの頂上から

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<まとめ>

ということで私の日常生活について紹介させていただきました。オン/オフともにそれなりに負荷がかかり、成長を促されるような楽しい環境です。次回は所属ラボの研究内容についてご紹介したいと思います。

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原 昭壽(Hawaii, USA)