心房細動を如何に見つけるか?

心房細動(AF)シリーズの最後(?)はAFの検出・診断に関する話題提供です。近年のテクノロジーは疾患診断そのものを根本的に変える可能性を持っています。
Smartwatch Algorithm for Automated Detection of Atrial Fibrillation.
J Am Coll Cardiol. 2018; 71: 2381-2388.
【背景】
Kardia Band (KB)は患者がApple Watch (Apple, Cupertino, California)を使用して自己の調律を記録することを可能にする新しい技術である。このバンドはAFの自動検出アプリと共に用いられる。
図1
図1: Kardia Band  (左)および記録方法(右)(本論文より引用)。実物を見たことはありませんが、スタイリッシュで格好良いですね。スマートフォンと連動するようです。
【目的】
本研究の目的は、不整脈医が判読した12誘導心電図およびKB記録の結果とKB自動診断結果を比較することで、KB自動診断アルゴリズムがAFと洞調律を正確に区別することが可能かどうかを検討すること。
【方法】
AFに対し電気的除細動が検討されている連続100例のAF患者を対象とした。患者は除細動前に12誘導心電図およびKB記録を同時に行い、除細動が施行された場合は除細動後に再び12誘導心電図およびKB記録を同時に行った。
図2
図2 (本論文より引用、一部改変): KBと12誘導心電図の同時記録。左側がKB記録、右が12誘導心電図。上段(A)は洞調律、下段(B)はAFの時の記録。
KBによる自動判定はKBアルゴリズムによって自動的に行われ、「AFの可能性」、「正常」、「分類不能」の3通りに判定された。また、12誘導心電図およびKB記録は、2名の不整脈医によって判読され、「洞調律」、「AFもしくは心房粗動」、「分類不能」の3通りに判定された。不整脈医の判読結果とKBの自動判定結果の一致率を検討した(感度、特異度、K係数)。
※実際の調律は不整脈医が12誘導心電図で判断したものが正解。
※K係数(Kappa coefficient): ある現象を2人の観察者が観察した場合の結果がどの程度一致しているかを表す統計量。一般的に0.6~0.8でかなりの一致率、0.8以上で高い一致率と考えられる。
【結果】
登録された100名の患者のうち、15名は除細動が行われなかった(理由は下表参照)。
表1
表1: 除細動の有無および結果(本論文より抜粋)。
はじめに、KBの自動診断の正確性の評価を行った。心電図およびKBの同時記録が得られた169件のうち、57件のKB記録がKBアルゴリズムで「分類不能」と判定された。残りの112件でKBの自動判定結果と不整脈医による12誘導心電図診断の結果を比較したところ感度93%、特異度84%、K係数0.77であった(表2)。
表2
表2 (一部改変): 結果の計算は太字の数値で行われています(ピンクの枠内)。ちなみに、この検討における感度は「不整脈医が12誘導心電図でAFと判定した際のKB診断がAFとなる確率」、特異度は「不整脈医が12誘導心電図で洞調律と判定した際のKB診断が洞調律となる確率」のことです。
また、KBアルゴリズムで「分類不能」と自動判定された57件のKB記録を不整脈医が判読を試みたところ、不整脈医も同様に「分類不能」と判定したのは18件であった。残りの39件は判読が可能であり、その判定結果は感度100%、特異度80%、K係数0.74であった(表3)。
表3
表3: KBの自動判定で「分類不能」と診断された記録でも、診る人が診たらAF診断が可能な記録が含まれているということを示している。
次に、KB記録の実用性を評価した。169件のKB記録を不整脈医が判読したところ、「判定不能」とされたものは22件であり、それらを除いた147件でKB記録の実用性を評価したところ感度99%、特異度83%、K係数0.83であった(表4)。
表4
表4: 不整脈医が判読可能と判断したKB記録での判定結果。判読可能な記録を不整脈医が判読すれば正確なAF診断が可能であることを示唆している。
最後に、KB自動診断結果と、不整脈医によるKB記録判定結果の一致率を評価したところ感度93%、特異度97%、K係数0.88であった(表5)。
表5
表5: この検討はKBの自動診断結果とKB記録を不整脈医が判読した結果を比較したものであり、正解かどうかは別です。
【結論】
医師の判読にサポートされたKBアルゴリズムによるAF検出はAFと洞調律を判別することが可能である。この技術は待機的な電気的除細動を受ける患者の選別や不必要な手技を回避することに有益である。
【私見】
この論文を読んだ際、ついに時代はここまで来たかという感想を持ちました。Discussionの冒頭に書かれている、
“The era of mobile health care technology ”
という言葉はとても印象的でした。同様の試みは近年さかんに行われております。下記は昨年のEuropaceに報告されたiPhoneを用いたAF検出の試みです。検出方法は異なりますが、自動判定の可能性が論じられています。
図3
図3: Europace 2017; 19: 753-757より引用。iPhoneを用いたAF検出の試み。
しかしながら、機械といえども完全無欠ではありません。今回の検討でも34% (57/169)は自動診断で「分類不能」になっています。さらに、機械が分類不能とした記録を不整脈医が判読すると、その内の68% (39/57)は判定可能であり、AF診断の感度、特異度は、それぞれ99%、83%だったと報告されています。心電図の読解という点においては、まだまだ人間に一日の長があるようです。今回の結果は、やはり最後の判定は人間が行うべきだということを示唆しているのではないでしょうか。AI (人工知能)の臨床応用の試みが始まっている時代ですが、我々医師は全てを機械に任せるのではなく、日々進化するテクノロジーを上手に利用しながら、より良い医療提供を模索していくことが大切なのだろうと思っています。
【参考文献】
1. Bumgarner JM, et al. Smartwatch Algorithm for Automated Detection of Atrial Fibrillation. J Am Coll Cardiol. 2018; 71: 2381-2388.
2. Krivoshei L, et al. Smart detection of atrial fibrillation. Europace 2017; 19: 753-757.

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川上 大志(Melbourne, Australia)