Brugada症候群の最前線 (2)

今回はBrugada症候群に対するカテーテルアブレーションの話題提供です。本当にBrugada症候群の心室細動(VF)にアブレーションができるの?と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。まだまだチャレンジングな内容ですが、Brugada症候群の治療を根本的に変えうる可能性を秘めています。
【Brugada症候群に対するアブレーション治療の試み】
Brugada症候群患者のVFをカテーテルアブレーションで抑制を試みた最初の報告は2003年にさかのぼります[1]。報告者は心房細動アブレーションの開祖でもあるボルドー大学(フランス)の大天才Haïssaguerre先生です(Kawakami’s Review 1参照)。この論文では4名のLQT症候群患者と3名のBrugada症候群患者に対してVFのトリガーとなる心室期外収縮(PVC)をターゲットにしたアブレーションが行われています。しかしながら、次々に出現するPVC全ての起源を正確に特定して通電することは非常に困難です。残念ながらこの方法はその後普及することはなく、ICD以外に有効な治療選択肢がない状況が続きました(キニジンに代表される薬の効果も限定的)。しかしながら、やはり世界にはとんでもないことを考え出す先駆者がいるのです。
【心外膜基質に対するアブレーション】
2011年に衝撃的な論文がCirculationに報告されました[2]。筆者は心房細動アブレーションにおけるCFAEアブレーションを考案したNademanee先生です(Kawakami’s Review 1参照)。彼もまた不整脈界のレジェンドです。彼らの提唱したアブレーション戦略は、トリガーPVCをターゲットにするのではなく、不整脈基質を探し出して根こそぎ通電するというものでした。この論文が報告される以前からBrugada症候群の不整脈基質が右室流出路に存在するのではないかという知見が得られていました。そこで彼らは心内膜側だけでなく、心外膜側にまでカテーテルを挿入し不整脈基質の特定を試みました。心外膜アブレーションは心窩部穿刺を行ってシースやカテーテルを挿入し、心外膜側に存在する不整脈基質をアブレーションするテクニックです[3]。当然アプローチの段階からリスクが伴いますし、冠動脈が走行する心外膜への通電を試みるわけですから通常のアブレーションよりもリスクが高く、熟練のアブレーターにしか行えない高度な治療法です。この技術を用いて右室流出路を心外膜側からマッピングすることで不整脈基質(異常電位)を特定し、絨毯爆撃のように通電を加えました。
表1
表1. (文献2より) 患者背景。対象はVFを繰り返していたBrugada症候群患者9人。全例男性で年齢の中央値は38歳。
図1
図1. (文献2より) 左図: 右室流出路心外膜側のマッピング画像。茶色のポイントが通電部位。右図: 右室流出路心外膜側で特定した不整脈基質。低電位かつ分裂した電位が記録されています(矢印)。
表2
表2. (文献2より) アブレーションの詳細。平均通電ポイントは35カ所。かなり多いです。術後に軽度の心膜炎が2例に生じたようです。
図2
図2. (文献2より) アブレーション前後の心電図。術前の顕著なST上昇が術後は消失しています。
平均観察期間20±6ヶ月の間に、心室不整脈を再発した人は1人もいませんでした。この論文を契機に、ICD頻回作動に苦しむBrugada症候群患者に対するアブレーション治療が世界中で試みられるようになりました。そこで当然必要となってくるのが治療の有効性、安全性の評価です。通常の疾患ですと大規模臨床試験が検討されるところですが、Brugada症候群という稀少疾患が相手であるため大規模な報告はなく、症例報告やケースシリーズばかりでした。こういう場合に有効なのがシステマティックレビューです(第5回川上レポート参照)。最近報告されたシステマティックレビューをご紹介いたします。
【システマティックレビュー】
Ablation strategies for the management of symptomatic Brugada syndrome: A systematic review
Heart Rhythm 2018; 15: 1140–1147.
Gilson C. Fernandes, et al. [4]
背景: 症候性Brugada症候群に対するアブレーション治療の試みがなされているが、未だ十分なエビデンスの蓄積はなされていない。
目的: Brugada症候群に対するアブレーション治療の最新のエビデンスを蓄積するためにシステマティックレビューを行った。
方法: MEDLINE、Embase、Scopusを使用してBrugada症候群患者の心室不整脈コントロールを目的としたアブレーション治療成績を報告した論文を検索した。
結果: 11本のケースシリーズおよび11本の症例報告から233人が本研究の対象に選ばれた。
図3
図3. (文献4より) 論文検索結果。対象文献は22本の症例報告/ケースシリーズ。
それぞれのアブレーション戦略は下記の通りであった。心外膜基質に対するアブレーション(n=180)、心内膜単独アブレーション(n=17)、トリガーPVCを標的としたアブレーション(n=5)、全てを含むアブレーション(n=31)。2.5 – 78ヶ月の観察期間で、VT/VF抑制率は心外膜アブレーション群で96.7%、心内膜単独アブレーション群で70.6%、トリガーPVCを標的としたアブレーション群で80%であった。心外膜と心内膜アブレーションの両方を行った患者の92.9%で心内膜側には不整脈基質を認めなかった。Type1心電図の消失率は、心外膜アブレーション群で98.3%、心内膜単独群で34.8%であった。基質に対するアブレーション治療後に心電図評価が可能であった33人において、心電図でJ-ST上昇が残存もしくは再燃した9人のうち7人にVT/VFが生じたが、J-ST上昇が完全に消失した24人はVT/VFを認めなかった。薬物誘発は不整脈基質を顕在化させた。
図4
図4. (文献4より)。ST上昇が消失した患者では術後VT/VF再発なし。
結論: Brugada症候群患者において、心外膜アブレーションは心内膜アブレーション単独よりも心室不整脈の抑制に有効である。アブレーション後のJ-ST上昇の残存もしくは再燃はアブレーション不成功の指標である。アブレーションはBrugada症候群患者における治療戦略になりうると考えられる。
【私見】
Brugada症候群治療を劇的に変えうるポテンシャルを秘めた心外膜アブレーション、如何でしたでしょうか。将来的にはS-ICD (皮下植込みICD)+カテーテルアブレーションというコンビネーション戦略が普及するのではないかと思っております。ICD頻回作動に苦しむ患者さんの福音になってくれることを切に望んでいます。
【参考文献】
1. Michel Haïssaguerre, et al. Mapping and Ablation of Ventricular Fibrillation Associated With Long-QT and Brugada Syndromes. Circulation. 2003; 108: 925-928.
2. Koonlawee Nademanee, et al. Prevention of Ventricular Fibrillation Episodes in Brugada Syndrome by Catheter Ablation Over the Anterior Right Ventricular Outflow Tract Epicardium. Circulation. 2011; 123: 1270-1279.
3. Lim HS, et al. Safety and prevention of complications during percutaneous epicardial access for the ablation of cardiac arrhythmias. Heart Rhythm 2014; 11:1658–1665.
4. Gilson C. Fernandes, et al. Ablation strategies for the management of symptomatic Brugada syndrome: A systematic review. Heart Rhythm 2018; 15: 1140–1147.

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川上 大志(Melbourne, Australia)