今になって気付く発信の大切さ

すでに留学開始から半年近くが過ぎました。時間ばかりが過ぎていき、やや焦りも生まれてきております。
今回は改めて日本の現状を見つめ直してみたいと思います。
 
1. オランダの医療制度
まず、大前提としてオランダ人の性格は倹約家、時間を無駄にしない、現実的で堅実です。また、他人の権利をとてもよく尊重します。医療面に関してもそれはよく現れています。もちろん日本のように時間外労働を長くすることはなく、きっちりとしたシフト制が引かれているようです。私と一緒に研究しているPhilippe (第2回のレポートにも登場しました)はその中では多分長く病院にいる方だと思いますが、それでも日勤の場合は6時過ぎくらいには仕事を終えていることが多いです。Philippeはその後私の相談に乗ってくれたりするので遅くなって申し訳ないなあと時々思いますが。
医療システムの面に目を向けると、オランダは民間ではあるものの国民に医療保険の加入が義務付けられております。保険の基本料はどの会社でも同じで、支払う額によって自己負担金の上限が変わったりしますがそれほど大差はないようです。特徴的なのは緊急時を除き必ずホームドクター(Huisartsというらしい)に登録が必要で、大きな病院にかかるには必ず紹介が必要という点です。内科だろうと外科だろうと眼科だろうと皮膚科だろうと、とにかく先ずは登録したHuisartsに相談です。私はまだ病院にかかったことがないので対応の実際はわかりませんが、評判を聞く限りではHuisartsの腰はかなり重く、軽い風邪などでかかってもほぼ対応してくれないことも多いようです。ただ、医療情報のネットワークはかなりしっかりしているらしく、医療情報、処方箋などの情報は家庭医と病院間でできているようです。
もう一点、オランダで特徴的なものは安楽死が合法化されていることです。もちろん積極的安楽死を選択するには条件を満たす必要があり、それほど多く行われているわけではないようです。ただ、日本でも終末期医療についての議論は循環器領域においても大変重要なトピックになっているため、世界の医療に関して知っておくのも悪くないと思います。
 
2. 研究面
私の所属しているLUMCのImaging部門では、ほぼ毎週Journal Clubが開かれます。日本で私が経験してきた抄読会は、参加者が興味のある論文を選び、それについてのdiscussionを行なっていました。一方、LUMCでは自身の研究の進捗状況について逐一発表があります。構想の段階、結果がまとまった後、学会での発表前など、一つの研究について3-4回程度発表することが多く、Research conference的な意味合いが強いかもしれません。時には他部門のスタッフも参加し活発な議論が行われます。最初は英語のコミュニケーションに自信がなく、discussionに参加できませんでしたが、拙い英語でもしっかりと言いたいことを聞いてくれるので徐々に慣れてきました。英語での発表、質疑応答の練習という意味でも大変勉強になります。
日本との大きな違いとして感じることは、すべての研究が学会発表ではなく、論文作成を前提に行われていることです。日本も本来はそうあるべきなのでしょうが、なかなか忙しい臨床の中で思うような研究成果が出ず、挫折してしまうことが多いと思います。LUMCではPhDを取るために論文を最低3つ以上publishし、thesis (卒業論文集)を作成する必要があります。そのため、論文を書くことは当然のこととして認識されています。必然的に論文作成に対するモチベーションも日本と比べて高く、この辺りが施設としての業績につながっているのかなと思います。もちろん日本の中にもそのような施設はあるでしょう。ただ、寝る間を惜しんで論文作成をするような人は(多分)いないと思います。効率が良いのでしょうか。この辺りはオランダ人の言語能力の高さも関係しているのかもしれません。
ただ一点、オランダにおける大きな違いがあります。それは、PhDコースの生徒は給料が出ているという点です。これは他のヨーロッパの国などと比較しても特殊なようです。日本では大学院に行くために通常の診療やバイトをし、授業料を払い、研究をするというのが一般的だと思います。臨床研究をしようと思うと日常業務後自身の時間を削って、時には寝る時間も惜しんでデータを整理することになります。私もそうでした。その点オランダのPhD studentは臨床業務(やっている人もいますが)からは離れ、自身の研究に没頭できる環境を与えられるということです。そりゃあモチベーションも効率も違いますよね。ただその代わりに当然ですがPhD studentの枠についての競争もあるようです。
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内容と全く関係ありませんが、虹がよく見えます。よく見ると二重になっています。
 
3. ディベート能力/プレゼンテーション能力
日本人が最も苦手とする分野がこのディベート/プレゼンテーション能力なのではないでしょうか。御多分に漏れず、私もこの点に関してはかなり悩まされましたし、現在も困難を感じている点です。
言語面は自身の努力によるところも大きいと思いますが、日常会話ができても英語でのディベートについていき、それについて自身の考えをスムーズに表出することは難しいと感じています。
プレゼンテーションに関しても、日本人は全体的に“魅せる”ことが苦手なのではないでしょうか。自身に対する戒めの意味も込めてですが、学会などで発表する際、どうしても日本人は研究の全てを出し尽くそうとする傾向にあると思います。一方でオランダ人を含め、海外の研究者は何を最も伝えたいか、キーとなる研究成果はどれなのかを強調して伝えることに長けているように感じます。
日本人でも上手な発表をされる方も多くいますので、一概には言えませんが発信する力についてはやはり日本人が今後鍛えていく必要がある部分なのではないかと思います。
そう考えるとSUNRISE lab YIAは(お金がかかっていたこともあり)真剣にプレゼンテーションというものを考え直すいい機会だったなあと改めて思いました。幸いカンファレンスでの発表の機会が多くあるので、こういった経験を重ねて“発信する力”を向上させていきたいと思います。
 
4. 海外から見る日本人のイメージ
まず、若くみられます。Philippeからも「日本人は何を食べているの?」とよく聞かれます。また、直接聞いたことはないので正確にはわかりませんが、よく働くというイメージは欧米人の中にもあるようです。総じて日本に対して悪いイメージはあまりないように感じています。
ただLUMCが国際的な施設のせいか、オランダ人的にはそんなに人種の違いに関して気にしていない、という気がします。どちらかといえば単一民族で構成されている日本人の方が海外に出た時にそのイメージにとらわれ過ぎているのではないでしょうか。
 
5. その他
LUMCに留学しその国際的な環境に触れて実感したことの一つとして、自身の国際的な情報収集能力の低さがあります。個人の問題かもしれませんが、私の同僚は他の国のニュースに関して非常に詳しいです。日本の台風やラグビーW杯の話題などもよく知っています。それに対して私はあまりヨーロッパのニュースや他の国の情勢など、わからないことが多くあります。情報化社会と言われて久しいですが、日本人は文化の違いからか他国のニュースについての興味が薄いように感じます。
また、同僚たちは様々な国からきているので、色々な経験をしており、その話を聞くのは大変興味深いです。中には内戦を経験していたり、国籍を変えていたりする人もおり、我々からみればハードな人生を送ってきているなあと感じます。このような国際的な経験は留学の一つの財産です。広い視野を持って今後の人生に活かせるような留学生活にしたいと思っています。
 
図2
ユトレヒトのミッフィー信号。世界に一つだけしかありません。

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平澤 憲祐(Leiden, Netherlands)