懲りずにAS評価: 単位時間血流量 (Flow rate)って何?

AS評価はいまだに様々なデータが発表されています。やっぱりエコー医はみんなAS大好きですね。症例が多いし、TAVIの登場で治療選択肢は増えたし、研究するにもイベントが起きやすいのでデータが集めやすいってことなんでしょうけど。
Vamvakidou A et al. Low Transvalvular Flow Rate Predicts Mortality in Patients With Low-Gradient Aortic Stenosis Following Aortic Valve Intervention. JACC Cardiovasc Imaging. 2019;12:1715-1724.
今回の論文は単位時間血流量(FR: flow rate)についての論文です。なんじゃそれ?って人もいると思いますので、後ほど解説します。
 
[背景]
大動脈弁狭窄症(AS: aortic stenosis)の中には、大動脈弁口面積(AVA: aortic valve area)と圧較差の不一致を認める症例が存在する。この主たる原因は流量の低下によるもので、LVEF正常例 (いわゆるParadoxical low-gradient AS) でも起きうる。これまで一般的には左室流出路(LVOT)でのDoppler-flowをもとにしたStroke volume index (SVi)がlow flowの指標として用いられてきた。いくつかの研究においてSVi <35 ml/m2が症候性ASの予後予測因子であることが報告されているが、一方で予後と関連しないという報告も認められる。FR ≥200 ml/secの状況下ではSViが正常の場合と比較してASの重症度をより正確に判定できるという報告があり、さらに他のレジストリ研究でもSViで調整した患者群でFRと予後の関連性が認められ、注目されている指標である。本研究はlow-flow low-gradient AS (LFLG-AS)患者におけるFRのAVR後の予後について解析を行った。
さて、ここでFRについて解説。
図1(文献[2]より引用)
FRは上図のように、一回拍出量 (SV: stroke volume) / 大動脈駆出時間 (ET: ejection time)で計算されます。FRとGorlin式で算出された大動脈弁口面積には強い相関があることが過去の論文で示されています。[3]
また、大動脈弁狭窄症では弁自体の抵抗からejection timeは延長する傾向にあるため、SVと比べてFRは低下しやすく、より鋭敏に予後を反映する可能性があると考えられます。
[方法]
2010年1月-2014年12月までの連続218例のAVR (TAVI, BAV, SAVRを含む)を施行されたLFLG-AS患者(AVA < 1 cm2かつ平均大動脈弁圧較差[mean gradient] <40 mmHg)が評価された。弁下狭窄例、以前に大動脈弁に対するインターベンションを有する例は除外された。また、大動脈に対する介入時に同時に冠動脈バイパス術が行われた例についてもAVRが二次的である可能性を考慮し除外された。
エコーの詳しいmethodは非常に一般的なので割愛します。
All-cause mortalityが予後評価のために用いられた。
[結果]
全218例のうち、126例(58%)はTAVR、83例(38%)はSAVR、9例(4%)はBAVが行われた。(Table 1) 120例(47%)がlow SViであり、95例(44%)がlow FR (<200 ml/s)、58例(27%)がlow EF (≤50%)であった。Low FR群ではnormal FR群と比較し、demographic dataにおいてはAfが多く、大動脈弁に対するインターベンションまでの時間が短かったが、それ以外に有意差はなかった。心エコーのデータ(Table 1下部)では、low FR群においてnormal FR群と比較しAVAが小さく、DVI (dimensionless velocity index)、mean gradient、LVEFが低かった。(DVIに関しては説明省きます。) LVOT径とSViに関してもlow FR群で低値であった。
SViが計算できた213例のうち、79%ではFRで定義したlow flowとSViで定義したlow flowが一致していたが、normal FR群のうち28例(23%)はlow SVi (<35 ml/m2)であり、定義の不一致が認められた。
Table1
low FRの規定因子について: low FR (< 200 ml/sec)と関連する因子についての解析では、単変量では心房細動、AVA, mean gradient, LVOT径であり、多変量ではAVAとmean gradient, LVOT径のみが独立した予測因子であった。(Table 2) (つまり、LVOT径が小さく、AVAが小さく、mean gradientが低い症例がlow FRと関連しているということ)
Table2
予後について: エコー施行時点から中央値47±21ヶ月(本来はinterquartile range[IQR]で表すべき…細かいですが。)のフォローアップ期間内に52例(24%)の死亡例が認められた。Low FR群で35例(37%)、normal FR群で17例(14%)の死亡例が認められ、low FR群で予後が不良であった。(Figure 1, Log-rank P < 0.005)
Figure1
また、low SVi群とnormal SVi群を分けて行なった予後解析ではlow SVi群でlow FRが予後不良であったのに対してNormal SViでは予後に有意な差は認められなかった。(Figure 2)
Figure2
Low SViの患者のみの解析では、normal FRの患者はlow FRの患者と比較し若く、末梢血管疾患、冠動脈疾患が少なかった。また、AVA, mean gradient, SVは大きい一方でETは低かった。(Table 3)
Table3
さらに、normal LVEFとlow LVEFに分けて行なった予後解析では、normal LVEFでFRが予後層別化に有用であった。(P<0.005, Figure 3)
Figure3
Table 4,5には全死亡についての単変量、多変量解析が示されている。単変量では、low FRとlow SViはともに独立して有意な全死亡の関連因子であったが、両方のパラメーターを含めた多変量解析ではFRのみが有意に全死亡と関連していた。(HR 2.89, p = 0.013) 多重共線性の問題を回避するためにそれぞれを含んだモデルでも解析を行なったがやはりFRが有意に死亡に関連していた一方でSViは有意な関連を示さなかった。
Table4Table5
Figure 4ではFRを加えた際の予後評価についてのIncremental valueが示されている。
Figure4
また、Figure 5のKaplan-Meier解析ではFRの死亡率に対する段階的な関連を示している。
Figure5
[考察]
本研究はTAVI後のlow-flow low-gradient患者におけるFRの予後予測に対する有用性を示した。Low FR (< 200 ml/sec)ではnormal FRと比較し死亡リスクが約3倍増加した。SVi, LVEFと比較しその予後予測能は優れていた。
FRはSV/ETで計算されるため、SVとFRの違いはETによるものである。Severe ASでは弁の抵抗からETは延長するため、FRは減少する。そのため、SVが同様であったとしてもASがsevereであればFRは減少すると考えられる。また、SViはSV/BSAで計算されるため、肥満患者ではSViが過小評価され、逆にBSAの低い患者では過大評価される。(Figure 6)
Figure6
本研究の結果から、normal FRはlow-gradient AS患者において心筋収縮能が保たれていることを示しており、一方でlow-FRはLVEF, SViが保たれていたとしても予後不良である可能性が示された。FRは大動脈弁に対する介入前のリスク評価として有用である可能性があると考えられた。
[私見]
読んだ後で言うのもなんですが、エコーとTAVIに興味がない人には煩雑であまり面白くない論文な気がしました。。。なんだかSViとかFRとか色々な単語が出てきて慣れていない人は混乱しそうなので少し簡潔にしますと、low-flow ASの定義を今まではSViで行なっていたのですが、FRの方が予後予測能高くていいんじゃないの?というのがこの論文の趣旨です。今までもlow flowの基準としてSViを使っていることに違和感を覚えていた人いるんじゃないかと思います。そもそもなんでドブタミン負荷時はFRをflowの指標として使ってるのにLFLG-ASの基準はSViなんでしょうね。独り言みたいになってしまいました。
記載した結果は結構省略気味なのですが、論文の構成としてはやや冗長な感じがしました。読みながら、だいぶレビューの段階で修正が入った雰囲気が感じられました。多分Figure 3, 6あたりレビューの段階で追加されたのではないかな…また、統計的な部分でも色々疑問符がつく点が多かったです。まず、all-cause mortalityのカットオフを求めるのにROC曲線を用いたようなのですが、普通のROC曲線は時間の概念が含まれていないので厳密には正しくないようです。また、大変細かい点ではありますがSViとFRの多重共線性の問題をクリアするのに色々と言い訳(言葉が悪くて申し訳ありません)が書いてありました。この辺りも論文を読みづらくする原因ではないかと思います。今後自身で論文を書くときも気をつけようと思います。
ただ、内容に関しては概ね同意です。特に日本人のような体格の小さい患者群ではSViはかなり過大評価されるため、35 ml/m2というカットオフ自体が適さない可能性があります。おそらくlow SViとlow FRの不一致もより多くなるのではないでしょうか。FRはその問題についてはクリアできているため体格が小さな患者に関してはより有用なのではないかと思います。問題点としては、ETが延長する疾患(徐脈、左脚ブロック、右室ペーシングなど)では逆にFRを過小評価する可能性があります。本研究のlimitationでもあります。
若干宣伝気味ですが、最近私もFRについての論文を書きました。論文の構成としてはほぼ一緒ですが、運動負荷時のFRの増加に注目した論文です[2]。興味があれば是非ご一読いただければと思います。
おそらく普段あまり注目することのないFRですが、だいたいの場合弁口面積を計算するときに画面に出てきますので、時々注目してみるのも面白いと思います。
 
[1] Vamvakidou A et al. Low Transvalvular Flow Rate Predicts Mortality in Patients With Low-Gradient Aortic Stenosis Following Aortic Valve Intervention. JACC Cardiovasc Imaging. 2019;12:1715-1724.
[2] Hirasawa K, et al. Value of Transvalvular Flow Rate during Exercise in Asymptomatic Patients with Aortic Stenosis. J Am Soc Echocardiogr. 2020 Jan 28. pii: S0894-7317(19)31144-7.
[3] Burwash IG, et al. Dependence of Gorlin formula and continuity equation valve areas on transvalvular volume flow rate in valvular aortic stenosis. Circulation. 1994;89:827-835.

k_hirasawa
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平澤 憲祐(Leiden, Netherlands)