Classical LF-LG ASと心筋繊維化 (MRI)

またLow-flow low-gradient AS (LFLG-AS)のお話です。弁膜症が好きなエコー医はこの話題好きですね(自分も含め)。
今回はいわゆるClassical LFLG-AS (いわゆる左心機能の低下したAS)とMRIのお話です。そのため、今回の論文で使用されているLFLG-ASという単語は、paradoxical LFLG-ASを含まない概念と考えてもらった方が理解しやすいかと思います。
 
Myocardial Fibrosis in Classical Low-Flow, Low-Gradient Aortic Stenosis.
Rosa VEE et al. Circ Cardiovasc Imaging. 2019;12:e008353.
 
[背景]
EFの低下したLFLG-ASはASの進行したステージであり、たとえ手術を行ったとしても予後が悪いことが報告されている。
このような患者においてドブタミン負荷心エコー(DSE: dobutamine stress echocardiography)はleft ventricular flow reserve (FR)を評価し、ASの重症度評価や手術リスク評価を行うために用いられてきた。ドブタミン負荷によるFRの有無は術後の30日死亡率と関連しており、過去の文献では心筋繊維化との関連が示唆されてきた。現在までに、MRIにおけるlate gadolinium enhancement (LGE)や生検による評価が試みられている。
T1 mappingとそれによる心筋細胞外容積分画(ECV: extra cellular volume)はMRIにおける心筋繊維化と関連する新しい指標であり、左室機能障害の早期発見に有用であると報告されている。これまでにもASにおけるECVの測定の報告はあるが、LFLG-ASとHG-ASの比較やDSEにおけるFRとの関連については不明である。
 
そもそも、T1 mappingとECVって何が違うんじゃ?と思う人のために。
T1 mappingは造影前の心筋のT1値(native T1)のこと。T1緩和時間なので、単位はmsec。心筋細胞内成分/細胞外間質成分の両方を反映する。要は炎症が起きてむくんだりすると増加する。浮腫や繊維化、アミロイド沈着などで延長する。
これと造影後のT1値(post-gadolinium T1)から、ヘマトクリット値で補正を行いECVが算出される。単位は分画なので%。これが増加することはnative T1より繊維化を特異的に評価できるとのことらしい。コンセンサスステートメントでも++になっており、native T1より繊維化評価に有用と記載があります。
SCMR consensus(SCMR consensus statement 2013より、MRIによる心筋組織評価指標)
 
[目的]
Low-gradient low-flow AS患者においてT1 mappingおよびECVを用いて心筋繊維化を評価し、DSEによるFRの有無との関係を調べることを目的とした。
 
[方法]
症例: 41例のEF <50%の有症候性LFLG-AS (平均圧較差[mean PG] <40 mmHg, AVA index ≤0.6 cm2)を前向きにenroll。全患者でDSE, 経胸壁心エコー、MRI (T1 mappingとLGEを含む)、冠動脈造影が行われた。DSEによるFRの有無で2群に分類。(Figure 1)
Exclusion criteriaは
(1) severe primary MR, (2) severe AR, (3) pacemakerなどのMRI不適応例, (4) 弁膜症手術歴, (5) 非虚血性心筋症, (6) DSEでPseudo severe AS (Figure 1の4例)と診断された例
24例の年齢、性別を揃えたnormal EFの有症候性HG-AS (平均圧較差>40 mmHg, AVA ≤1.0 cm2)を比較対象とした。
Figure 1(Figure 1: 研究概要)
 
エコー、MRIの詳しいprotocolは割愛。
重要そうなポイントのみ記載します。DSEにおけるFRの基準はΔSV≥20%の有無。DSEでmean PG <40 mmHgかつAVA >1.0 cm2となった症例はPseudo-severe ASと診断され除外となっています。
FRがなかった場合、CTにおけるcalcium scoreを用いて重症度を判断(Calcium scoreによる重症度評価)した。
Low EFでFRが認められなかった場合、CTにおけるcalcium scoreが有用であるという報告があります。まだ議論の多い部分ではありますが、2012年のESC/EACTSの弁膜症ガイドライン(EHJ 2012;33:2451-2496.)にも記載があります。
その他参考
Cueff C et al. Heart 2011;97:721-726.
Clavel MA et al. J Am Coll Cardiol 2013;62:2329-38.
 
MRIは1.5Tの機器で前述の方法でnative T1とECVを測定したとのことです(Figure 2)。また、ECVの値に左室心筋重量係数(indexed LV myocardial volume)をかけた値をiECV (indexed ECV)として計算しています。
Figure 2(Figure 2: 造影前後のT1 mappingとECV map)
 
[結果]
Table 1は患者背景です。
41例のLFLG-AS (平均年齢67.1±8.4歳、男性83%)のうち、28例(68%)がDSEにおけるFRあり、13例がFRなし(32%)でした。
2群の比較では有意差はありませんでした。
一方、HG-AS群との比較ではLFLG-ASの両群で男性、心房細動、冠動脈疾患の比率が高く、腎機能が悪かったとのことです。また、心機能が悪いことを反映して、薬剤の使用率も軒並みLFLG-ASで高めです。詳しくはTable 1を参照ください。
Table 1(Table 1)
Table 2にはエコーのデータが示されています。
Table 2(Table 2)
 
LFLG-AS FR+群とFR-群の比較では、FR-群でAVAが大きかった以外は差がありませんでした。
HG-AS群とLFLG-AS両群との比較では、その定義上、EF、左室径、mean PG、大動脈弁通過流速などに差を認めていました。また、腎機能やBNPもLFLG-AS群で悪いという結果でした。
DSEにおけるデータも示してあります。こちらもFR-であるという定義上予想できる部分においてFR+群とFR-群の間で差がついています。(Δmean PG, ΔSV, peak flow rateなど)
 
さてTable 3はお待ちかねのcMRIのデータです。
Table 3(Table 3)
 
LGE massはFRの有無では有意差がありませんでしたが、HG-ASと比較して多く(Figure 3A)、完璧性のLGEもLFLG-AS群で多く認められました。
Figure 3(Figure 3)
mean ECVに関しては、FRの有無で有意差なし。LFLG-ASとHG-ASの比較でも有意差を認めませんでした(Figure 4)。
Figure 4(Figure 4)
iECVについては、LFLG-AS内でのFRの有無では有意差を認めず、LFLG-ASとHG-ASの比較では有意にLFLG-AS群で高値でした(Figure 5)。
Figure 5(Figure 5)
 
Table 4ではFR, ECV, iECVと他の指標との関連に関して解析しています。
Table 4(Table 4)
ECVはTroponin Iと弱い相関があり、iECVはmean PG, LVEF, GLS, RVEF, BNPなどと弱い相関があったとのことです。
[考察]
著者の主張するこの論文のmain findingsは、
1)  iECV, LGE massはLFLG-ASにおいてHG-ASと比較し高値だった。
2)  DSEにおけるFRの有無でiECV, ECVに差を認めなかった。
3)  左室機能以外のエコー指標に関してFR, iECV, ECVの間で有意な相関はなかった。
の三点です。そして以下が本論文のDiscussionのまとめ。
 
LFLG-ASはASの5-10%程度に認められ、HG-ASと比較し予後不良であり、DSEにおけるFRの認められない群でのsurgical riskは高いことが知られている。一方でFRが認められなくともSAVR施行群ではonly medical therapyよりは予後が良く、またそのLV recoveryもFRの有無によらないことが報告されている。現在まで、FRがないことの機序は解明されておらず、以前の論文では心筋繊維化が関与している可能性が指摘されていた。
本研究はLFLG-ASにおけるECV、iECVをHG-ASとの比較で報告した初めての論文であり、FRのない群では心筋繊維化が多く認められるのではないかと仮定し研究が行われた。
HG-AS群と比較しLFLG-AS全体ではiECVは約2倍と高値であった(Figure 5A)。iECVはECV単独よりも評価に有用であることが示唆された。
しかしながら、FRの有無でECV, iECVに有意差はなく、本研究では心筋繊維化がFRの有無と関連しているという結果は得られなかった。このことはAVR後のLV recoveryがFRの有無で差がないことと関連している可能性があり、FRの欠如がASに対するinterventionを排除する理由にはならないことを示唆している。過去の文献でもno FRのLFLG-AS に対するtranscatheter AVRの短期~中期の良好な結果が報告されている*こともこの結果をサポートしている。結論としてDSEの意義は予後評価よりも重症度評価が重要と思われ、ECV, iECVによる繊維化評価はFRの有無を説明するものではないことが示唆された。
* Ribeiro HB, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:1297-308.
 
[私見]
MRIの研究はまだせいぜい2桁の症例数のものが多く、本研究も41例のLFLG-AS患者+24例のHG-ASで構成されています。結果としてはFRの有無をMRIによる繊維化評価では説明できなかったというnegative dataですが、ECV, iECVなど新たなツールとしての有用性はある程度メッセージとして伝わる論文だったのかなと思います。少なくともこの結果からclassical LFLG-ASではやはりHG-ASと比較し繊維化が進んでいる(reversibilityは別として)ということが示されたのではないでしょうか。ただDiscussionはやや強引なTAVI推しな感じも受けました。MRIももう少し撮像方法、時間などが簡略化され症例数が集まるようになれば大変興味深いツールになりうると考えています。

k_hirasawa
k_hirasawa
平澤 憲祐(Leiden, Netherlands)