LFLG-ASに対するTAVRの有用性 ~弁が悪いの?左室が悪いの?~

Fischer-Rasokat U et al. JACC Cardiovasc Interv. 2019;12:752-763. (文献1)
 
今回は大動脈弁狭窄症(AS)のお話です。SHD大国、ドイツからの論文です。日本から報告されたOCEAN registry (文献2)とも比較してみました。
 
背景:
低左室機能を伴うASは、低流量低圧較差大動脈弁狭窄症(LFLG-AS; low-flow low-gradient AS)を引き起こしハイリスクであることが知られている。TAVRはこれらの患者に対し保存的治療と比較し良好な予後を示しており、治療のoptionとして期待されている。一方で高圧較差AS (HG-AS; high-gradient AS)と比較しLFLG-ASのTAVR後の予後は不良であることが報告されている。この一因として、LFLG-AS患者の背景が悪いことが考えられている。本研究では低圧較差のASに対するTAVRの有用性についてPropensity score matchingを行いその予後を比較している。
方法:
Study Design: Retrospective単施設研究
2011年1月から2017年9月までのTAVR患者2,282人、AVA/BSA<0.6 cm2/m2の患者のみを対象とし、HG-AS (平均圧較差≥40 mmHg), LFLG-AS (平均圧較差≤40 mmHgかつStroke volume index (SVI) ≤35 ml/m2, LVEF ≤40%), pLFLG-AS※ (平均圧較差≤40 mmHgかつSVI ≤35 ml/m2, LVEF ≥50%)に分類した。(Figure 1)  Primary endpoint: 全死亡とし、予後を比較検討した。
Figure1(Figure 1)
※pLFLG-AS; paradoxical low-flow, low-gradient ASについて
左室駆出率が正常にも関わらず低流量低圧較差を示す重症ASのことです。もともとの定義としてはAVA/BSA <0.6 cm2/m2, LVEF ≥50%, SVI≤35 ml/m2となっています。(文献3)
結果:
1,052例がHG-AS, 166例がLFLG-AS, 244例がpLFLG-ASに分類された。(Figure 1)
LFLG-AS群ではHG-AS群と比較し女性が少なく, 腎機能不良、また冠動脈疾患/心筋梗塞の既往/CABGの既往/心房細動など、risk factorが多かった。(3-vessel coronary artery disease [52% vs. 21%], prior myocardial infarction [34% vs. 12%], prior CABG [37% vs. 13%], or atrial fibrillation [59% vs. 33%]) 結果としてLFLG-AS群でSTSSスコアも高かった(6.1 vs 4.7, p<0.001)。そんな背景もあり、LFLG-ASのoutcomeは不良であった。(p<0.001, Figure 2)
Figure2(Figure 2)
続いて、Propensity score matchingを用いて調整し、HG-ASとLFLG-AS, HG-ASとpLFLG-ASをそれぞれ比較した。Matchingに用いられたデータは年齢、性別、BMI,、腎機能、LVEF、DM/Af/COPDの有無、TAVRのアクセスルートとなっています。
 
まずはHG-AS vs. LFLG-AS。それぞれ68人がmatchし、比較を行っています。Table 1が患者背景、Table 2がエコーとCTの結果となっています。
調整後のSTSSは有意差なし(6.6 vs. 5.9, p=0.970) (??なんか差が結構あるけど… 0.097の間違いでは…) 。LVEFは両群とも35%以下となった(p=0.582)。これに対して、SVIはHG-AS群で有意に高かった(29 vs. 26 ml/m2, p=0.001)。CTによる石灰化スコアは男女共HG-AS群で高かった。手技の方法やvalveの種類、術後のARなどは有意差なしでした。
Table1(Table 1)Table2(Table 2)
予後について:
HG-AS群と比較しLFLG-AS群では予後不良であった(p=0.039, Figure 3)。 1-year follow-upでのevent数はHG-AS群11に対しLFLG-AS群では21例(HR 2.12)。
Figure3(Figure 3)
 
続いて、HG-AS vs. pLFLG-AS。それぞれ113人がmatch。先ほどと同様、Table 3が患者背景、Table 4がエコーとCTの結果となっています。
SVIはHG-AS群で有意に高い(36 vs. 30 ml/m2, p<0.001)。 CTによる石灰化スコアは男女共HG-AS群で高かった。その他はMatchingによってほぼ有意差なしです。なぜだかdyslipidemiaのみHG-AS群で有意に多いですが。この辺りはLFLG群との比較と一緒です。
Table3(Table 3)Table4(Table 4)
予後について:
HG-AS群とpLFLG-AS群では予後に有意な差を認めなかった。(p=0.468, Figure4) 1-year follow-upでのEvent数はHG-AS群18に対しpLFLG-AS群では21例。(HR 2.12)
Figure4(Figure 4)
それぞれの比較におけるeventはTable 5にまとめてあります。
Table5(Table 5)
そして最後に、SVIがSurvivorとNon-survivorで差があるのでは?ということを検証するためにSVIを比較していますが(Figure 5) 、こちらは差がありませんでした。むしろHG-ASにおいてはNon-survivorでSVIが高い傾向にありました(有意ではない)。
Figure5(Figure 5)
 
考察:
この論文ではOCEAN registryなど他のレジストリーの問題点としてbaselineの差が大きく、pLF-LG ASの予後が悪かったのではないか述べています。そのためbaselineをpropensity scoreを用いて調整し、HF-ASと比較することでpLFLGにおけるTAVIの有用性を主張しています。一方でOCEAN registryの結果ではpLFLG-ASはLFLG-ASと同様に予後が悪かったと報告しています(文献2)。
 
私見:
ここからは私の私見です。単施設で2,282人のTAVRレジストリーというのは単純に素晴らしいと思いました。
SHD好きの私としてはpLFLG-ASも患者を選べば有用ではないかと思っているので、結果としては受け入れやすいものでした。一方で結果とその解釈について腑に落ちない点もありました。
まず1点目としては、患者のassessmentの部分。このstudyでのLVEFはまさかのvisual assessmentで行われています。やはりclassificationにLVEFを用いているのなら、LVEFくらい計測して欲しかった…と思うのは私がエコー医だからでしょうか。そしてLVEF 40-49%の軽いLFLG-ASの人の予後も知りたいなあと思いました。
2点目は果たしてこのpropensity score matchingがうまくいっているのかどうか。記載されていることが全てであればいいのですが、やはりHG-AS群とLFLG-AS群の比較におけるSTSS score (6.6 vs. 5.9)はp=0.970てことはないだろうと思います(誰か統計に詳しい人になり得るか聞いてみたい)。これが間違っているとすると、この二群の比較では十分にbackgroundが調整できていない可能性があり、それにより予後の差が出てしまったかもしれません。
3点目。前述した片岡先生らが報告されたOCEAN registryとの比較についてです。OCEAN registryの予後(下図)を詳細にみてみると、pLFLG-AS(黄緑色)の予後の悪化が認められるのはTAVI後14-15ヶ月頃になっています。つまり、今回のstudyのfollow up期間ではまだ単純に比較は難しいのではないかと思います。その目でみると、Figure 4のKaplan-Meier curveもどことなく差がついてきているような…(Follow up期間に関してはLimitationにて触れられています)。
4点目。ここまでやっているならば、LGLF-AS群とpLFLG-AS群もmatchingして比較して欲しかった。Propensity score matchingの性質上、今回の結果で言えることはTAVI1年後のHG-AS群とpLFLG-AS群の比較では予後の差が有意ではなかったよ!ということのみであり、LFLG-AS群よりもpLFLG-AS群で予後がよかった、いうことではないことは注意が必要な点かと思います。
OCEAN(文献2より引用)
 
で、結局私自身が感じたこと。
現在pLFLGと定義されるAS患者においてもその中に色々な状態が含まれていると思います。MITRA-FR(文献4)とCOAPT試験(文献5)の結果の違いのように、弁が悪いのか左室が悪いのかの比重によるだろうなあ、というのが私の考えです。もともとsevere ASがあり、徐々に左室肥大が強くなりつつある症例。左室肥大が高度になり、いよいよLVEFが低下し始める寸前の症例。そもそも高血圧で左室肥大があり、ASが進行してきた症例。これらの予後が一定であるわけがありません。
Imagingを専門にしたいと考えている私としては、これらをいかに層別化し、適切な治療方針を導き出すかというのが今後重要になるのではないかと思います。それが運動負荷エコーなのか、ストレインエコーなのか、T1マッピングなどのMRI指標なのか、もっと別の指標なのかは分かりませんが。
 
References:
1.             Fischer-Rasokat U, Renker M, Liebetrau C, et al. 1-Year Survival After TAVR of Patients With Low-Flow, Low-Gradient and High-Gradient Aortic Valve Stenosis in Matched Study Populations. JACC Cardiovasc Interv. 2019 Apr 22;12(8):752-763
2.             Hachicha Z, Dumesnil JG, Bogaty P, Pibarot P. Paradoxical low-flow, low-gradient severe aortic stenosis despite preserved ejection fraction is associated with higher afterload and reduced survival. Circulation. 2007;115:2856-2864.
3.             Kataoka A, Watanabe Y, Kozuma K, et al. Prognostic Impact of Low-Flow Severe Aortic Stenosis in Small-Body Patients Undergoing TAVR: The OCEAN-TAVI Registry. JACC Cardiovasc Imaging. 2018;11:659-669.
4.             Obadia JF, Messika-Zeitoun D, Leurent G, et al. Percutaneous Repair or Medical Treatment for Secondary Mitral Regurgitation. N Engl J Med. 2018;379:2297-2306.
5.             Stone GW, Lindenfeld J, Abraham WT, et al. Transcatheter Mitral-Valve Repair in Patients with Heart Failure. N Engl J Med. 2018;379:2307-2318.
 

k_hirasawa
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平澤 憲祐(Leiden, Netherlands)