リモデリングを改善するために

私の所属しているラボは心臓・血管リモデリングの研究室です。心臓移植後の慢性拒絶反応、心筋症(高血圧性心疾患、拡張型心筋症など)、冠動脈疾患、肺高血圧に伴うリモデリングの研究を行っています。特に、健康な成人心筋においてほとんど検出されない胎児性蛋白である、フィブロネクチン、テネイシンC、ラミニエンの研究を長年取り組み、多数の論文発表を行っています1,2)。このような物質が将来的にバイオマーカーとして、新たな治療戦略の一環となるよう、日々研究を続けています。
現在行っているプロジェクトとして、肺高血圧誘発ラットモデルを用いた肺血管および心筋リモデリングプロセスの分析や、経皮的大動脈弁置換術前後の重症大動脈弁狭窄症患者における胎児マトリックスタンパク質変異体の評価などがあります。
薬剤による心臓リモデリングの治療としては、ACE阻害薬、ARB、アルドステロン阻害薬、β遮断薬が、EFの低下した患者さんに早期から介入する治療として確立されています。また、ネプリライシン阻害薬とARBを含有したLCZ696は、心不全患者さんの心血管死、入院リスクを減らしたとして、ヨーロッパではEFの低下した成人心不全患者さんに適応が通っており、リバースリモデリングをもたらす治療薬として有望視されています3)。
分子標的薬によるリモデリング予防も期待されていますが、まだ臨床的に確立された治療は出てきていません。シクロスポリンが左室リモデリングを予防できるかどうかを明らかにする目的で行われたCIRCUS試験では、PCI施行前のSTEMI患者に同薬を投与しましたが、プラセボ群と比較して、リモデリングの割合の有意な減少はなかっただけでなく、全死亡、心不全再入院を抑制できませんでした4)。
また、肺血管リモデリングを改善した基礎研究のデータから、白血病の治療薬として使用されているイマチニブを、欧米で肺動脈性肺高血圧症に使用した治験が行われ、肺血管抵抗の減少、心拍出量の改善が認められましたが、少数の有害事象出現のために、承認されませんでした5)。
HErEF患者さんの予後を少しでも改善できるように、リモデリングを改善するための様々な研究が行われるのを期待します。
参考文献
1) Franz M et al, Cell Adh Migr. 2015 Jan-Apr; 9(1-2): 90–95
2) Franz M et al, J Mol Histol. 2014 Oct;45(5):519-32
3) Paula S et al, Arq Bras Cardiol. 2016; 106(1):62-69
4) Chung T et al, N Engl J Med 2015; 373:1021-1031
5) Hoeper MM, et al. Circulation. 2013;127:1128-1138

s_ijujn
s_ijujn
伊集院 駿(Jena, Germany)