地方から世界へ

ドイツで留学生活を始めて、もうすぐ一年になります。データ整理と論文の執筆に加えて、語学学習に追われる毎日を過ごしています。達成できていない目標が多いのに、お金だけはどんどん減っていき、焦るばかりです。貯金が無くなった時点で、帰ろうと思っていますが、それまでにできる限りのことはしたいと思っています。
帰国後にしたいことは2つあります。
一つは、患者さんのニーズにできる限り応えられる検査や治療の研究を続けていくことです。
日々の診療の中で、製薬会社の宣伝や論文や学会で発表されている治療効果と、実際に治療を受けた患者さんの反応にギャップを感じることがたたあります。重症肺高血圧症の患者さんに肺血管拡張薬を調整して、肺動脈圧は下がっても、結局労作時息切れは改善せず、外出できない。心不全の患者さんに利尿剤を増量して、浮腫は改善したが、頻尿の訴えが強くなった、などです。治療薬やデバイスを上手に使いこなし、患者さんに最適化するのが医師の大切な役割ですが、常日頃から患者さんの訴えにしっかり耳を傾け、患者さんに満足してもらえるような治療や検査のプロセスを模索し、挙がった疑問を解決すべく、studyの計画、実行をしていこうと思います。現在、留学先の施設で、リモデリングの研究室に所属していますが、今回学んできたことを生かして、帰国後も心筋組織や肺血管のリバースリモデリングの研究を行い、本当の意味で患者さんに喜んでもらえるような治療法を見つけていければと考えています。
もう一つは、地方で治療を完結できるようなシステム作りです。
私は昨年度、人口4万人程度の地域の総合病院に勤務していました。重症大動脈弁狭窄症や内服の奏功しない心房細動や肺高血圧症を抱えた超高齢の患者さんが一定数いて、鹿児島市内でのカテーテル治療を勧めましたが、「そこまでしてまで…」、「遠いし、お金もかかるから」と断られることがほとんどでした。鹿児島市内まで車でたったの一時間という、市外の割にはアクセスの良い病院でしたが、年齢が上がれば上がるほど、そのような申し出を断られる傾向にありました。自分の生まれ育った環境から離れたくないという思い、もし故郷以外のところで死んでしまったらという強い不安があるのだと思います。そのような患者さんたちのために、できるだけ地方で治療を完結できるように、超高齢者も安心して受けられる低侵襲な治療の地域での普及に努めていきたいと思います。ただ、地域の病院での新規治療の導入は、専門医やスタッフの不足、資金などの面で非常にハードルが高いのが現実です。課題は山積みで時間はかかると思いますが、少しずつ自分にできることからしていきたいです。
私の医師としてのテーマは「地方から世界に発信する」です。一人一人の患者さんと向き合いながら、誰もが皆喜べるような新しい知見を見出し、かつ、都会と地方の医療の画一化に貢献していきたいです。

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伊集院 駿(Jena, Germany)