ペイフォワード

留学予定期間を1年以上残している段階で、帰国後のビジョンは定まらず具体性に欠け、我ながらフワッとしているなと思ってしまいましたが、現時点での私の考えということでご容赦下さい。
自分のストロングポイントは何かと問われれば、残念ながら今のところ、目に見える実績を提示することはできません。
留学中に「●●ならだれにも負けない」のような分かりやすい付加価値を付けられれば良いのでしょうが、現実にはそう簡単なことではないでしょう。また、留学先で得た知見を帰国後の研究に生かすのにはハードルがいくつもあり、日本とアメリカ・ヨーロッパにある、デバイスラグなども努力では埋めることができないハードルになります。例えば、現在クリーブランドクリニックで取り組んでいる3Dマッピングシステムの研究では、日本未導入のアルゴリズムを用いているので、すぐに同じ研究をするわけにはいきません。
帰国後も現在の関心領域である心房細動の研究を続けるのではないかと思いますが、マッピングに特化したことを継続するかは正直わかりません。実際に、過去の留学から戻った先輩方の仕事を振り返ってみても、留学中の研究テーマと帰国後の仕事の内容は必ずしも一致しているわけではありません。別にそれ自体は悪いことではなく、むしろ、自分の強みを軸足にしてピボットしつつ柔軟にできることを探していくことも重要と思っています。そもそも私が臨床研究を始めたきっかけというのは、自分が行っている臨床行為や決断が正しいのかを検討するということが目的でしたから、帰国後も視野を広げつつ日常診療に即した研究を続けていくつもりです。
私が日本で臨床研究を始めた当初の数年間は、手探り状態で、データの集め方から仮説の立て方、統計処理まであらゆるピットフォールに引っ掛かり、それはもう効率悪いことこの上ありませんでした。現在、臨床研究をされている多くの先生方は、大なり小なりこのような経験を持っているのではないでしょうか。幸いなことに、この数年間でノウハウを教えてくれる先輩や指導者と出会ったり、自分自身が勉強してきたおかげで、様々な問題を解決できるようになっていますし、その能力はこの2年間の頑張り次第でさらに引き上げられるはずです。
一方で、今の私があるのは、良い指導者や環境に出会うという運があっただけとも言えます。もし、そうでなかったとしたら、いつまでも非効率的な方法で、ほとんど進歩もないままだったかもしれません。
まだまだ、日本において研究をしたり学んだりする環境は不十分なのだろうと感じていますから、帰国後は自分の経験を、今後研究を始めようとする後輩たちに少しでも環境を整備していくことで還元したいと考えています。
思い出されるのは、数年前の心臓病学会で発表した際に、質問してくださったある高名な先生からの言葉です。質疑応答自体は研究をより良くするためのに対するアドバイスでしたが、最後に「皆が同じような苦労をする必要はない」というコメントをいただきました。当時は、賢い人はこのように考えるのだなと感心したものですが、現在学術面や経済面で厳しい状況に立たされている日本の現状を改善させるなら、このような考え方は本当に重要です。私の後輩が量的に同じような苦労するなら、どうせなら「私と同じ苦労」はスルーして、より「発展性のある苦労」をすべきです。
多くの人に等しくチャンスがあり、正しい競争があることが、自分にとっても大きなモチベーションとなり、ひいては自分の成長にもプラスになると信じています。帰国後どこで働くのかは、まだわかりませんが、自分の価値をそこに投下できれば、大きなやりがいを感じられると思います。

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黒田 俊介(Ohio, USA)