テキーラが美味しい街ベルン

お久しぶりです。前回から投稿が随分と空いてしまいましたが、つい2週間ほど前にようやくスイスに到着し、仕事をはじめました。10月8日(祝日ですが、三井記念病院は通常営業です。)に最終の外来を終わらせ、翌9日早朝に出発。同日の夕方にベルンに到着し、10日には初出勤という弾丸スケジュールでした。
初出勤のあとは、まず仕事上必要な登録や申請、移住の申請、銀行口座開設、携帯とインターネットの契約、定期券の購入、賃貸契約の最終確認、生活の下準備といった感じで数日過ごし、翌週から本格的に業務をスタートしました。まだ始まって1週間弱なので、十分わかっていない部分も沢山ありますが、現時点でのレポートをさせていただきます。
1. 施設規模
今回私が留学させていただいているのは、スイス、ベルンにあるInselspitalという大学病院です。スイス自体は九州本島より少し大きい程度の小さな国で、そこに住む人口は全体で842万人と、東京都よりもやや少ない程度です。その中に大学病院が5つあり、Inselspitalはそのうちの一つということになります。
病院自体は、日本の大学病院と比較して特別“大きい”という感じはないですが、循環器の症例数でみると、2017年は年間のPCIが2,817例、TAVIが313例、MitraClipが77例、デバイス植え込み600例、アブレーション622例となっており、いわゆるHigh volume centerです。
Stephan Windecker先生を筆頭に、高名な医師が多数在籍しており、研究の面も非常に盛んです。こちらに来てから知ったことですが、CTU (Clinical Trials Unit)という研究解析専門のチームが存在しており、非常に頑健なデータベースとその解析を独立して管理しています。そういった研究の下地が整っているため、2017年でみると、自施設からの原著論文はLancetやJACC、EHJ、CirculationといったMajor Journalを中心に循環器だけで42本、他施設との共同研究やEditorial等を含めると100本を超える業績を出しています。
Inselspitalの外観

 写真1: 病院の外観

 
2.  ボスや同僚の紹介
現在私が在籍しているのは、Prof. Thomas Pilgrimが率いる弁膜症チームです。まだ完全に全体を把握していないかもしれませんが、彼を筆頭にインターベンション医が数名、エコー医、CT医が1-2名となっています。その下に、clinical専属のイギリス人fellowと自分、そしてローテート中のresidentが1名というチーム構成です。Prof. Pilgrimは、最近ではLancetのBIOSCIENCEの論文などが有名で、年齢も若く、かなりイケイケなインターベンション医です。彼とその下のStephan Storteckyのもと、TAVI関連の業績も非常に多く挙げられてきています。
また、研究のofficeは病棟とは別に与えられており、そこにはCoronary/Imagingの分野で現在留学中の植木先生や大塚先生に加え現地のfellowが2名在籍しています。現地のfellowは、夜は速攻で帰宅していますが、植木先生や大塚先生、阿佐美先生は夜遅くまで残って解析や執筆を続けておられます。一日中スイスドイツ語と英語の中にいると大分気が参ってくるので、夜に日本語の環境で仕事を続けられることは本当に助かっています。
研究ラボ

写真2: 研究用のoffice (偉大な先輩たちの歴史が詰まった屋根裏部屋です。)

 
3. 日常業務スケジュール
日常業務のスケジュールは、曜日によって大きく変わります。朝は8時から手技が開始となるため、7時前のトラムにのって毎朝出勤しています。TAVI, Mitraclipは水曜日と金曜日が中心で、月曜日に複雑な症例となっています。火曜日はLAA closureやPFO closureの手技があり、こちらはチームが異なるのですが、せっかくなのでできるだけ関われるよう、見学からスタートしています。木曜日は手技がないため、一日研究日ですが、火曜日と木曜日の夕方5時からカンファレンスがあるため、予定された症例の予習、CTの解析などを行っています。
臨床業務は遅くとも夕方5-6時には終了となるため、その後は自由に時間を使うことができます。最初の1週間は、日本に残してきた論文のsubmitとreviseが残っていたのと、論文のreviewの仕事を早速頂いたのでそのあたりをこなしていたら、帰宅は大体23時を過ぎてしまっていました。今後はドイツ語のレッスンとダイエットもしないといけませんので、もう少し時間を有効に活用する工夫が必要そうです。
立場上はresearch fellowということなので、今後どれほど手技に関わっていけるかはわかりません。もうひとりclinical専属のfellowが同時期に入っており、自分は基本的にresearchのアウトカムを期待されていると思うので、こちらを疎かにはできないと思います。一方で、やはり手技ありきの領域ですので、しっかり自分の仕事をしているところを見せつつ、日中は手技に混ぜてもらうようにしていくしかないかなと思っています。幸い、阿佐美先生のおかげもあって、手洗いして中に入れる環境にはあるので、治療のstrategyやbail-outの方法は色々と経験できており、またBasilikaやValve in MAC、 para-leakのplug閉鎖など珍しい手技もすでに目白押しで、仮に助手止まりであったとしても、十分価値のある経験ができそうです。
先週の段階で日本から残してきた仕事とreviewは一旦終わらせることができたので、早速researchの考案を進めたいです。ただ、先にも述べた通り、データはCTUが独立して管理しており、今までのように自分でデータを掘り返して、解析ソフトで弄りながら進めるというスタイルは通用しないため、システムに慣れるまでに時間がかかりそうです。また、現時点でアクセスが許されているデータベースはTAVIの院内registry dataだけであり、好きなことがなんでもやれるという環境でもないようです。まずは一つなにかをやってみないことには、今後どう進めていくかも見えてこないかなと思います。
 
4. 休日の過ごし方
こちらでは土日は基本的にお店もやっておらず、“ザ・休日”という空気感を強く感じます。少し不便な部分もあるのですが、皆でしっかり休みましょうという雰囲気はとても素晴らしく、早速一つ日本よりも良いところを見つけたような気がします。ベルンは非常に歴史に富んだヨーロッパ感溢れる街ですが、自然もとても豊かで、少しアーレ川のほとりを散歩するだけでも、とても良いリフレッシュになります。こちらの人は、基本的に休日は川や山でピクニック、BBQといった感じで、のんびり過ごしているようです。少し遅れて家族が合流する予定なので、今から春が楽しみです。
ちなみに、こちらに来てからとりあえず2回の週末を過ごしたわけですが、今のところは毎週、中央駅前のDesperadoという店で夜中までテキーラのshotを浴びるように飲み、2時半の特別便で帰宅し、翌日の午前中は二日酔いで潰れているという日々を過ごしています。尊敬する阿佐美大先生が今週で帰国されてしまうので、次の週末からはもうDesperadoには行かないと思います。
ベルンの街並み

写真3: ベルンの街並み

(晴れた日が多く、少し散歩するだけでテキーラで傷ついた体が癒やされます。)

 

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奥野 泰史(Bern, Switzerland)