ベートーベンとハリボーの街・ボン

9月よりドイツのボン大学でresearch fellow としての生活を始められましたので、引き続きレポートさせていただきます。

新型コロナウイルスの流行のためEUへの渡航が制限されておりましたが、2020年7月からついに日本人の“医学研究者”のドイツ入国が認められるようになりました。そこから身の回りの準備や前勤務先での手続きを行いつつ、入国審査のために”医学研究者”であることを証明する書類の準備にとりかかりました。ドイツは入国しないとビザの取得ができないため、入国時には滞在目的などを証明する書類を自分で準備する必要があります。ドイツの国境警察と何度かメールのやり取りを行い、自分の書類が十分かどうかを確認しました。「Invitation letterの表現が曖昧だ」などとイチャモンをつけられ、書類を作り直したりもしましたが、結局「最終的には現場での判断になるよ」という返事しかもらえず、不安な気持ちを抱えつつ8月末に日本を出国しました。

写真: 出発前の羽田空港国際線ターミナル (こんなにガラガラの羽田空港を初めて見ました)

 

いざフランクフルト空港に着いてみると、「医学研究のために日本から来たの? Great! Welcome!!」とあっという間に入国審査も終わり、何事もなくドイツに入国することができました。あのメールのやり取りはなんだったのかと少しモヤモヤもしましたが、無事にドイツでの生活を開始することができました。結局、当初の留学予定から5ヶ月遅れてスタートすることになりました。

 

・留学先紹介

私の留学先はドイツの西に位置するボンという街にあるライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ことボン大学のハートセンターです。ボンはフランクフルトやデュッセルドルフ、ケルンといった大都市の近くに位置する街で、旧西ドイツの首都になります。旧首都と言っても人口33万人程度のこじんまりした街で、自然が多く、のんびりした雰囲気です。なぜここが首都になったのかと不思議に思うくらいです。それでも国連関連の施設もあったりと、国際的な一面も残しています。

写真: 自宅近くの並木道

写真: 自宅近くの公園

写真: ボン中央駅

 

ボンはベートベンの生誕の地でもあります。今年はベートーベンの生誕250周年記念とのことで、いろいろとイベントが予定されていたようですが、新型コロナウイルスの流行のため、残念ながらイベントは中止となってしまっています。また、日本でも人気のあるグミのハリボーが生まれた街でもあります。郊外にはハリボーの工場もあり、街中にもハリボー直営店があります。日本では見かけないような種類も多くありますが、あまり美味しくはなさそうなものも多いです。

写真: ベートーベン(Beethoven)生誕250周年記念の看板

写真: ハリボーの直営店

 

私の通っているボン大学病院は街の南側にある丘の上に位置しています。

西ドイツの旧首都であったこともあり、軍の病院として終戦後すぐに建設された病院であったそうです。そのため、外見上は歴史を感じる造りの病棟が多いです。ハートセンターもその一つです。一方で、最近建て直された病棟は近代的なデザインが多く、様々な外見の建物が敷地内に混在しています。現在、ハートセンターは新しい病棟を建設中で、2−3年後に完成する予定のようです。

写真: ボン大学ハートセンターの入り口

 

ハートセンターはボンを中心とした周辺地域一帯をカバーしており、多くの症例が集まります。ドクターヘリも忙しそうに稼働しています。インターベンションの症例数については、詳しくはわかりませんが、年間でPCI は3,000件程度、弁膜症治療に関してはTAVI 400-500件、僧帽弁治療(MitraClipやその他のデバイス含む) 100-150件、三尖弁治療(TriClipなど) 50-100件ぐらいのようです。PCIのカテ室は3部屋ぐらいありますが、弁膜症治療は1つのハイブリットカテ室で全ての治療を行っています。そのため、朝8時前から入室し、次から次へと症例をこなします。ただ看護師さんが穿刺までの準備を行ってくれたり、回復室・待機室があったりと、効率良く治療を行っているためかTAVIやMitraClipなど 5件ぐらいある日でも午後3-4時頃には業務が終了します。最初はそのスピード感に全然ついていけませんでした。

 

・ボスや同僚の紹介

現在、ボン大学ハートセンターの主任教授を務めているのが、Georg Nickenig教授です。教授として循環器の臨床業務を統括されており、日常のカテで困ったらだいたい教授が呼ばれています。中でも特に弁膜症治療に力を入れられていて、今もなおメインオペレーターとして多くの治療を行っています。僧帽弁や三尖弁治療に関して世界をリードするトップオペレーターのうちの一人だと思います。

また、僧帽弁や三尖弁に対する新規デバイスの初期導入に関しても広く携わっています。そういったものの治療成績などを多数報告されています。さらに研究業績のみならず、カテーテル治療の手技自体も眼を見張るものがあります。症例を多く経験されたからなのか、治療に対する見識が深いからなのかはまだわかりませんが、カテ操作や判断に関してなど特筆すべき点を多くもっていらっしゃいます。そういった点でも学ぶことが多いです。ただ、纏うオーラ、威圧感が強いです。カテ室では一人だけ、黒のプロテクターを着ていて、自動ドアを開けてカテ室に入ってくる姿はあのダースベーダーを彷彿とさせます。

写真: Georg Nickenig教授

 

ボン大学ハートセンターにはInternational fellow はほとんどおらず、私が着任した際は2018年に千葉大学からいらっしゃった杉浦先生のみでした。その他はほとんどがドイツ人です。移民としてドイツにやってきて、ドイツの医師免許を取得した医師も在籍しています。言語としては英語も通じますが、基本言語はやはりドイツ語です。まだドイツ語会話が不慣れな私には厳しい環境で、ドイツ語力の向上が私の目下の課題です。

 

・どこのラボとコラボレーションが多いか

上記の通り単施設としても十分な症例数を持っておりますが、その他にも他施設とのコラボレーションも行っています。ドイツ国内のTAVI, TMVRのregistry やボン大学と同じ州に位置しているデュッセルドルフ大学、ケルン大学との共同registryも行っています。また、三尖弁治療に関してはドイツを含むヨーロッパやアメリカの施設とのTriValve registryにも参加しています。加えて、新規デバイスの治験やRCTへの参加も予定されています。

 

・日常業務のスケジュール

業務としては朝8時から弁膜症の治療が開始されます。8時きっかりから始めたいからなのか、患者は7時30分から45分ぐらいにはカテ室に入室しています。ハートセンター全体としては同時刻の朝8時から病棟の全体カンファレンスが始まります。カンファ室に教授、上級医、病棟医が集合します。写真にも載せているカンファ室のテーブルに教授が一人で座り、カンファ室の壁際に置かれている椅子に他の医師たちが並んで座ります。教授の威厳が最も感じられるシーンの一つです。また、カンファレンスの最後には毎日抄読会を行っています。病棟医などが最新の論文や改訂されたガイドラインに関して発表して、それに対して議論が交わされます。その他には、週に1回の心臓外科との弁膜症の合同カンファレンスも行われています。

写真: カンファレンスルーム

 

私はリサーチフェローとして基本的にはカテ室でカテーテル治療の見学などを行いつつ、研究のためのデータ集めを並行して行っています。カテーテル治療自体は昼休みもなくどんどん行われていくので、治療の合間や予定治療の終了後に研究活動を行います。翌日の治療に関する解析なども合間を縫って行います。夜の時間は日本でまとめた論文やドイツ語の勉強などに充てています。

写真: 半地下にある医局兼解析部屋

 

・休日の過ごし方

土曜日、日曜日は治療もなく、病院も休みになります。ドイツ人は週末が大好きで、週末になることを強く待ち望んでいます。そのため、金曜日の午後ぐらいから明らかにウキウキし始めて、機嫌がよくなっていきます。看護師さんなどは自分のシフトが終了するや否や、まだ治療中であっても勢いよく帰っていきます。

街自体も特に金曜と土曜の夜はとてもにぎやかで、飲み屋で夜遅くまで混雑し、みな週末を満喫しています。私も金曜の夜や土曜の夜は街中やライン川沿いのレストランでドイツビールを楽しんでいます。また、土曜には電車に乗って、ケルンやデュッセルドルフなどの近くの街に出かけています。街ごとに様々な特色があり、とても面白いです。もう少し生活に余裕がでてくれば、さらに遠出できればとも思っています。

写真: ケルン大聖堂 (ヨーロッパからの観光客で賑わっていました)

写真: デュッセルドルフの人気のラーメン店 (ラーメンはドイツ人にも大人気です)

 

ただ、週末の問題は日曜日にはほぼ全ての店がしまってしまうということです。スーパーマーケットも同様です。なので、土曜日に買い物に行くのを忘れると、日曜日に家に食べるものがなく、ひもじい思いをして一日を過ごすことになります。私も最初の週は買い物を忘れてしまい、日本から持ってきていた具なしのうどんとラーメンで一日を過ごしました。日曜日は家族と過ごす日と決まっているようで、ドイツの人々はみなサイクリングをしたり、散歩をしたりと思い思いの方法で残り少ない夏を楽しんでいるようです。

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田中 徹(Bonn, Germany)