私のアナザースカイを求めて

はじめまして。今年からドイツのBonn University に留学する田中徹と申します。
本来であれば今年の3月末に渡独をする予定でしたが、新型コロナウイルスの流行のためドイツを含むEUの入国制限が3月中旬の渡独直前に発表されたため、あえなく延期となっています。そのため、現在も三井記念病院での勤務を継続している状況です。
夏頃にはドイツに行ければと思っていますが、それまでは可能な範囲で日本からレポート業務をさせていただきます。
・なぜ留学をしようと思ったのか
私は純日本人で海外生活の経験もなかったのですが、学生の頃よりなんとなく海外への憧れを持っていました。しかし、語学の勉強など特にこれといったアクションも起こさずにあっという間に時は過ぎてしまいました。
三井記念病院で内科研修を行い、循環器内科の道へ進むこととしましたが、最初は一日一日を過ごすので精一杯でした。医師4年目の時、後輩も増えて病棟業務に少し余裕ができたものの、一方で先輩医師も多かったためなかなかカテーテル検査などに入ることができない時期がありました。持て余したエネルギーをぶつける先を探していたところ、臨床研究をやってみようと思いついたのが始まりでした。まずは実現可能なところから始めようと思い、三井での症例数が多かった冠動脈CTのデータを使った研究テーマを携え、 Johns Hopkins Universityから三井へ戻られた岸先生(現・なかはら内科クリニック院長)に指導を仰ぎました。データ収集、解析を行い、その結果、その年のAHAにて発表を行うことができました。初めての国際学会で、まずその学会のスケールの大きさに驚き、またLate-breaking sessionはもちろん、poster sessionでも熱い議論が繰り広げられていることに感銘を受け、少し忘れかけていた海外への憧れを思い出しました。
また、ある日何気なくPCIを行った症例をCV path から三井へ戻られていた矢作先生とreviewすると、普段なら見逃してしまうようなIVUSやOCTの所見の中に特異性を見出し、論文化をすることができました。海外の最先端の施設で学んだ知識がまさに実臨床で発揮されることを目の当たりにし、さらに海外留学に向けて気持ちが強くなりました。
・メンター、ロールモデル
三井記念病院には田邉部長をはじめとして海外留学から戻られた先生方が多く在籍されています。それぞれが様々な分野における最先端の施設で学んだ経験や知識を持っていらっしゃるため、私自身も知識や仕事に対する姿勢などの多くのことを学ばせてもらい、またいろいろな場面で世界を間近に感じさせてもらいました。
その中でもBern Universityに留学されていた阿佐美先生からは特に大きな影響を受けたと思っています。初期研修医の最初のオーベンとして内科医としての心構えを教えてもらい、初期研修医の終わりには三井の循環器内科へ誘ってもらい、後ほど述べますが、今回の留学に関しても大変お世話になりました。私も同じように海外で多くの経験や知識をつけて、日本でまた働きたいと思っています。
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写真: 三井循環器のメンバー (2020年3月時)
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写真: 田邉部長とカテ後
・なぜ現在の留学先を選んだのか
いざ海外へ留学をしようと決心しましたが、最初は留学先もその目的も決められていませんでした。幸いなことに三井で冠動脈治療、弁膜症治療、心不全治療、CT/MRIや経食道心エコーなどのイメージング検査などいろいろ経験させてもらっていて、それぞれに面白さを感じていたので、どれか一つに決めるというのが難しく、悩んでいました。
学会や研究会などに参加し、悩んだ結果、治療に自分で直接携わりたかったことと、カテーテル治療やイメージング、心不全治療についてもともと興味があったことから、次第に弁膜症に対するカテーテル治療に関して学びたい気持ちが強くなりました。大動脈弁狭窄症に対する治療はすでに日本で多く行われ、僧帽弁閉鎖不全症に対する治療も始まった頃でした。臨床研究に加えて実際に手技を経験したいと考えていたところ、阿佐美先生よりドイツへの留学を提案していただきました。そして、三尖弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療に力を入れているBonn University に留学中の杉浦先生をご紹介いただけることになりました。ヨーロッパ全体として外国人医師に対しては徐々に厳しくなっているようですが、ドイツでは日本人でも語学試験に合格すれば臨床に参加できることは大きな魅力でした。また、三尖弁への治療を含むまだ日本では導入されていない多くの最新治療を行っており、そこで得た知見や経験は日本でも将来的に活かすことができるのではないかと思いました。英語圏でないのはネックではありますが、経済も治安も安定しているドイツであれば家族も安心して過ごせると感じました。また、休日はヨーロッパの小旅行を楽しめるのではという下心もあり、決断しました。
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写真: 阿佐美先生(左)と杉浦先生(中央)とボン大学にて
・留学するにあたって困難であった点, どのように解決したか
私自身は留学するにあたって非常に恵まれていたと思っています。阿佐美先生から杉浦先生にメールをしていただき、杉浦先生から先方の施設に問い合わせていただいたところ、二つ返事で留学が決まって、すぐにInvitation letterがメールで送られてきました。昨年の秋に施設見学と挨拶に伺いましたが、立ち話で挨拶と自己紹介などをしただけで、後は事務的な手続きをするだけでした。会ったこともない日本人を受け入れてくれるのに驚きましたが、それ以上に、杉浦先生に対する信頼感が非常に強いことを感じさせられました。一方で、前任の先生が築かれた日本人留学生に対する信頼・期待に応えなくてはと身の引き締まる思いでもありました。
・留学までの国内での書類の流れ
ドイツは日本のパスポートがあれば、ビザなしで3ヶ月までの滞在が可能です。滞在ビザの申請は、現地での住居が決まってから、現地の市役所での住居登録を行ってからでないとできません。そのため、特に日本では特にやることはなく、やったことといえば時間が空いた時にネットで住居を探すぐらいでした。
留学先のボスからはInvitation letter を早々に送って頂いたので、それを使ってSUNRISE を始め留学助成金の申請を行いました。私は大学院を卒業していないため、応募できる留学助成金はだいぶ限られてしまいましたが、なんとか必要分の助成金を集めることができました。
さらにドイツ語の語学試験に合格するため、ドイツ語の勉強を開始しました。10年以上前の大学で学んだ知識を思い出しながら、参考書を片手に勉強し、語学試験を受験していました。なかなか高いハードルではありますが、日々コツコツと続けています。
・YIAを振り返って
YIAをむけては1ヶ月ほど前から少しずつ準備を始めました。オンラインで過去のSUNRISE YIA受賞者の先生方の発表をみて、参考にしながら発表スライドを作成しました。過去の受賞者の先生方の発表がすごすぎて不安になったり、面白くしようとするも全くネタが思い浮かばなかったり、といろいろありましたが、結局は背伸びをせずに自分らしく発表しようと準備しました。また、発表の準備をすることで、自分の中でなんとなく漠然としていた留学の目的や必要性などを客観的にまとめることができたと思います。三井の先生方や妻からも意見をもらい修正を加え、YIA当日に臨むことができました。
当日は他の参加者の先生方が多種多様な内容、発表方法で聞いているだけで非常に楽しめました。幸運にもYIAを受賞することができましたが、準備、発表と参加するだけでも非常に有意義なYIAであったと思います。
新型コロナウイルスで出鼻をくじかれる形となってしまいましたが、この2-3ヶ月は改めて留学に向けて準備を見直ししたり、家族との時間を取れたりと有意義な時間でした。いろいろと充電ができたので、渡独してからは精一杯がんばりつつ、留学を楽しみたいと思っています。
そして、数年後には胸を張って、ドイツが私のアナザースカイと胸を張って言えるようになれたらと思います。

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田中 徹(Bonn, Germany)