異文化のハードル、乗り越えるための精神性

1. ボスはフェローのどこを評価するのか。

プロジェクトの進行具合だと思います。
毎週のチームミーティングで各人のプロジェクトの進行具合が確認されます。進行のあるなしに関わらず、次のステップが明確にされます。学生を含め10人を越えるメンバーが在籍し、それぞれが持つプロジェクトの数や進行具合は様々です。
私のように現在1つのプロジェクトの者もいれば、3つ以上のプロジェクトを進めている人もいます。ゆっくりと着実に進めていく人もいれば、あっという間にいくつものプロジェクトを終わらせている人もいます。それぞれのペースながらも、プロジェクトが確実に進行していることが重要な評価のポイントだと私は認識しています。
私は現在、目の前の私のプロジェクトと、任された仕事を確実に進めていくことに重きを置いています。1つ目のプロジェクトが形になれば、2つ目3つ目のプロジェクトを進める余裕が出てくると思いますし、何よりも上司や同僚から信頼を得ることで新たな仕事を得る可能性が高まると思います。結果として、任されるプロジェクトの数や責任の大きさが増していくと思います。おそらくどこの国のどこの研究室でも同じような気がします。
 

2. お給金について。今のラボに残るなら何が必要か?

私は職業上、お給金を交渉する立場にはありません。こちらの研究室に残るには、限られた時間で最大限のプロジェクトを完遂することが最低限の要件だと思いますが、それだけではなく、運、コネクションなど私のおよび知らないことがたくさんありそうです。
私の留学中の目標は、留学間に最大限の知識や技術を得て、帰国後帰属の組織に還元することです。そのための短期目標として、今は現在のプロジェクトを終え、論文化することに集中しています。特に言語能力や統計学の知識でプラスの評価を得ることができない私には、プロジェクトを完遂すること、論文化することが評価のほとんどだと思っています。言い換えると、現在自分が能力の足りていない、英語などの能力については、今はあまり気にしてはいません。限られた時間に成果を出すには、始めに任されたプロジェクトをしっかりと論文化することが最重要だと思います。
当たり前の話になってしまいました。立場上、お給金の話も役に立つ話はありません。そこで、私の組織の教育について触れてみます。本題からそれてしまいますので、ミリオタの方がおられれば、この先に進まれてください(笑)。
ここからの話は、いかにプロジェクトを完遂するかについて、私なりの精神性についての考察です。
 

3. 幕僚の心得, 4. 要件

私たちの組織自衛隊には様々な教育システムがあり、私は、幹部初級課程と幹部上級課程という幹部育成コースを履修しています。
教育項目のひとつに幕僚活動の要件があります。“幕僚”とは、指揮官(上司)を支えるために、適切な戦略を立てるスタッフ(部下)の役割を担う者です。ブレーン、参謀、人物なら諸葛亮孔明、司馬懿仲達、直江兼続などがイメージに近いかと思います。要は我々が上司に使える際に何を重要視すべきかという教育です。インターネットで検索すると出てくるので、ある程度オープンな情報になっていると思います(例えば、元自衛隊のJAXA宇宙飛行士・油井亀美也さん(https://www.dhbr.net/articles/-/2897?page=2)や、元自衛隊で宮城県知事兼復興庁復興推進委員会委員の村井嘉浩さんが自衛隊で教わった幕僚の心得、要件について触れています)。
幕僚に必要な4要件は、適時性、先行性、並行性、完全性です。
簡潔にまとめると、適時性とは、時宜適切な行動を行うこと。タイミングが重要であること。先行性は、先を見通し、前もって準備すること。並行性は、周囲と調整しながら同時並行的に仕事を進めること。完全性は、細部に気を配った緻密な仕事を完成することです。さらに、幕僚は指揮官の意図を理解し、指揮官の企図の達成のため全力を尽くすこと、と教わります。チームメンバーのプレゼンを見ていても、上司の意図をよく理解し、それを自らの研究に生かしている人が多くおり、結果を残しているように思います。とても勉強になります。
私は研究の進行、論文作成などのプロジェクトを進める際にも、幕僚の4要件は非常に重要な要件だと思っています。特に適時性は重要で、すばらしい研究は、適切なタイミングであることで、さらに研究の重要性を増すと思いますし、逆もまた然りです。適時性を達成するためには、先行性が重要な役割を果たすと感じています。適時性を満たす範囲で完全性を追求し、余裕ができれば並行性を。というのが私の研究に置け44要件です。
 

5. 指揮の要訣

また、同教育課程中には、指揮官としてのリーダーシップに必要な要件を下記のように教わります(こちらもインターネットで検索すると出てくるので、ある程度オープンな情報になっていると思います)。意訳すると、
“指揮に必要なものは、チームメンバーを確実に掌握、明確な目的の下に適切なタイミングで適切な命令を与えてその行動を律し、チームメンバーの目標達成に寄与する。この際、チームメンバーに対する統制を必要最小限にし、自主裁量の余地を与える。チームメンバーの掌握を確実にするために、良好な統御、確実な現況の把握および実行の監督は、特に重要である。”
米国でも日本でも、経験のある研究者は、教育されずとも、自ずとリーダーシップやフォロワーシップとは何かを、自身で体得されているように感じます。
が、私にとっては、自衛隊のこれらの教育が、“リーダーシップやフォロワーシップとは何か“を自身で消化する上で非常に役立っています。今の環境は、とくに周りの研究者に、非常に優れた指導者が多いように感じます。研究に関するリーダーシップやフォロワーシップの重要性も学びたいと思います。
 

5. ハードルを乗り越えるための、私の精神論

私が2年間、国内留学をしている際に、国立循環器病センターの野口暉夫先生から、”神様は見ている”とアドバイスを受けたことがあります。また、同時期に同じ防衛医大出身の、大阪大学横井研介先生から、”憎くて、後ろから蹴りたいと思うほど(エネルギーを自分に注いでくれる)、愛おしい上司に師事しなさい”とアドバイスを受け、最後に現在北海道大学の永井利幸先生から、”他文化の人に受け入れてもらうには、その人たちの三倍働きなさい”、また、”どんな小さな仕事でも、任されたら120%で返しなさい”、とアドバイスを受けました。全くの精神論ですが、私は今でもそれを心のよりどころにしています。
 

6. 最後に

まとめになりますが、今回は、所属する立場の関係で、一部本題からかなりそれたレポートになったことをお許しください。
“異文化のハードル”はおそらくたくさんあると思いますが、どれだけプロジェクトを着実にこなし成果を上げているか、が評価されるということに関しては、少なくとも日米では、(おそらく他の多くの世界でも)共通しているように思います。それを達成する上での精神性はもしかすると異なるかもしれませんし、達成の途上、言語能力が妨げになることは大いにあるかもしれません。
自衛隊の教育は非常に組織化、体系化されていると私は感じます。しかし、特に医師や救命士など現場で技術を学ぶべき者にとっては、実践の場が限られていることが大きなデメリットです。自衛隊で学ぶ教育論や精神論などを、外部の組織で試し、そこで得た知見をまた組織に持ち帰るというサイクルは非常に有益であると思っています。
自衛隊で学んだ様々な教育論と、国内留学で学んだ精神論をよりどころに、異文化のハードルを乗り越えて、さらにホプキンスでできるだけ多くのことを上乗せして帰国したいと思います。

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本田 泰之(Baltimore, USA)