自衛隊コホート研究の実現を目指して

1. 留学までの経緯と私のバックグラウンド
私は、防衛医科大学校を卒業後、医師5年目から6年目までの間、大阪の国立循環器病研究センターで研修を行いました。防衛医大は初期研修にマッチング制度がないため、大学病院もしくは関連施設で初期研修を行います。その後、組織のニーズにより(大学とは関係なく)、関連施設で2年間、衛生幹部として訓練を行ったり、医務室で感冒患者を診察したり、また自衛隊地区病院などの医師として働いたりします。その後、5年目からの2年間、後期研修期間として、自分の専門を磨くため防衛医大病院に戻ることになります。私は縁があって、2年間国立循環器病センター心臓血管内科CCUで研修生として勤務することとなりました。この間、カンファレンス、集中治療室での臨床、心不全の臨床研究など、多くのことを学びましたが、最も大きかったことは、メンターとの出会いと、同期との出会いでした。私のメンターは、私と同様に防衛医大を卒業していますが、早くに自衛隊を辞め、他大学の医局に所属していました。外様で医局に入り、多くの苦労を経験しており、外様の医師が信頼を勝ち取るには、臨床と研究に手を抜かず、同僚の三倍働きなさいという信念のもと、指導を受けました。私は、急性心不全患者を登録するレジストリ研究と、薬剤を使用した無作為ランダム化試験に携わり研修を終えました。研修で得た知見を今度は自衛隊に還元することとなりました。
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循環器センターの仲間と
 
自衛隊に戻り、私は臨床と臨床研究、両面から還元することを目標としました。臨床研究について、自衛隊にはたくさんの生かすべき健康診断データが存在します。私は、まず自身の施設にある健康診断データを利用し、若年時の角膜輪やアキレス腱の肥厚などが家族性高コレステロール血症の診断や予後とどのように関連するかを調べようと考えました。若い健康隊員の血液検査を含めたデータがあることがとてもインパクトのあることだと感じましたが、数々の問題があり、うまく遂行することができませんでした。自衛隊組織で臨床研究を完遂するには、コホート研究を確立する体制を作ることが必要です。そのためには健康診断データをコホートへと昇華させる方法論を身につけなければなりません。また、後輩を教育してチームを作成することも重要であろうと考えました。
そこで私は、公衆衛生疫学の知識・技術を身に着けること、コホート研究に精通すること、特に地域コホートの特色および我々が目指すコホートの限界と解決策を知るために留学を志しました。
私は、留学先に先任者がおらず、特に大学医局のコネクションを持たない状況で、どのように留学先が決まり、その際にどのような苦労があったかという点をご紹介できると思います。これが、同じ環境を有する人や自衛隊若手研究者のモチベーションにつながれば幸いです。
 
2. 留学先の選択 
私は2017年の10月ころから留学先を探しました。上述した留学の動機に基づいて、留学期間中に目標が達成できるように
(1) 系統だって教育される公衆衛生大学院を併設している
(2) コホート研究を使用し、心血管疾患のリスク因子を探索する研究をしている
の2点を主要な項目とし、
(3) 現役軍人や退役軍人との共同研究が可能なコホートを使用している
(4) 学生やポスドクが論文を発表している
(5) 直属のボスから指導を受けることができる
などを次に重要な項目と考えました。世界的に有名な地域住民コホート研究は数知れずありますが、現役軍人や退役軍人の研究は米国が進んでいるため、基本的には米国の有名なコホート研究(ARIC study, CARDIA study, Framingham studyなど)から論文検索を行いました。この段階で米国5か所の研究室に絞り、自分の履歴書、研究計画書と主要論文を添付し、それぞれの研究室の教授クラスの先生方と若手の先生方に対してメールを送りました。全ての研究室からメールの返信があり、特に若手の先生方には応援してくださる方もおられましたが、その後のやりとりはなかなか思ったようには進みませんでした。今考えるに、なかなかうまく進まなかった理由の一つは、私が何者であるかを証明するものが不足していたことだと思います。業績に加え、しかるべき方の推薦状はとても重要だと思います。また、メールでのやり取りよりも、Skypeでの面接や、学会で一度会って顔を認識してもらう方が確実だったと思います。
私は、申請した中から、幸運にもジョンズホプキンズ大学公衆衛生学講座、准教授の先生から日本の学会へ来られるタイミングで面会の機会をいただきました。その結果、2018年6月に米国の研究室で面談日を設け、私の研究のミニレクチャーと、教授陣との個人面接で、お互いが合意に至ったら留学を受け入れてくださることとなり、以降6月のプレゼンに向けて優先的に準備しました。
私は準備期間にSUNRISEと出会いました。私のミニレクチャーの内容は、これまでの研究説明を40分、質疑応答を20分という内容であり、いかに理論的に英語で説明するかを学ぶ上で、参考にさせていただきました。You Tubeにアップされている動画を繰り返し見て、なぜ留学、なぜ米国、なぜジョンズホプキンズ、そしてなぜ私か。採用されたら私が何を貢献でき、帰国後の展望は何かということを柱にプレゼンしました。非常に不安が大きい中、いかにSUNRISEの動画により不安が和らいだか、筆舌に尽くしがたいです。
6月渡米の際に、ボルチモアやボストンで様々な留学生と出会いました。初対面にも関わらず、とても歓迎的で、留学が成功するための相談に親身に乗っていただいたり、職員を募集中の研究室を教えてくれたり、情報を必要としている私にとって非常に貴重な出会いとなりました。現地にいる人と接触することの重要性を感じ、私自身も、誰かの留学の助けになることができればと思うきっかけとなりました。
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Johns Hopkins Main HospitalとHopkins Shuttle
 
3. VISA関連書類
3-1. DS-2019
ホプキンズでは、DS-2019に対するJ1 requestをオンラインで行います。書類をアップロードするサイトがあり、オンラインのフォーマットに、推薦状、履歴書、本人、家族のパスポートのコピー、英語力の証明、そして学位証明(Official Documentation of Earned Doctoral Degree)をアップロードします。英語力の証明は、TOEFLの点数でも、ボスとのSkypeミーティングでもよいはずです。アップロードが完了すると担当の部署が確認を行い、問題がなければ、DS-2019の申請が完了します。私の場合、申請完了が2月1日でDS2019が発行されたのが、2月13日でした。学位証明については、私の大学では、博士号の証明しか行っておらず、外部機関の学位授与機構に医学部卒業の証明と英訳をお願いしました。少なくとも医学部卒業までの学位制度は米国と日本で異なるため、PhDを持たずに留学を考えている人は、所属の大学に英訳をお願いし、Bachelor of Medicineの学位(米国だと医学科4年制大学卒業という意味になると思います)であるか、Doctor of Medicineの学位(米国だと4年生大学卒業後、医科大学院卒業時の学位)であるか確認をしておいた方がよいように思います。研究室によっては、日本のMDが米国のMDと同じであることのコメントや証明が必要な場所もあるようです。この段階で困り、詳細を知りたい方は気兼ねなく連絡してください。
3-2. Online Nonimmigrant Visa Application (DS-160)
DS2019が発行されると、日本に郵送されます。一人一枚のA4用紙で、出国に必要な情報が記載されています。また、同時にSEVIS IDと大学のプログラムコードが発行されます。入国に関わるSEVIS Feeをこの番号を用いてオンラインで支払い、支払い完了後DS-160の登録を行い、VISA発行のための申請を行います。1週間後のアメリカ大使館面接の予約を取り、DS-2019、SEVIS領収書、財産証明、戸籍謄本とその英訳を持って2月末に面接を受け、1週間後にVISAスタンプが押されたパスポートが指定した住所に届きました。
 
4. 荷物の輸送
荷物の輸送は、選択する業者、航空便か船便か、送る箱数によって値段が異なります。業者は、日本、米国の民間業者と、公的機関があります。日本の民間業者は米国支社に引き継がれるため最後まで日本語でのサポートが可能です。米国の民間業者には日本支社に依頼することになります。公的機関は日本と米国で別会社になるため、別会社間で引き継がれます。航空便は5日から2週間、船便は2-3か月です。何かあったときのためにいずれのサービスでもトラッキングできる輸送をおすすめします。
 
5. SUNRISE YIAを振り返って
自分自身のプレゼンテーションがうまく相手に伝わるものだったかは疑問です。むしろ、当日他の方のプレゼンテーションから学ぶことの方が多かったように思います。私は、なぜ私が、なぜ今、なぜ米国に、なぜその施設に行く必要があるか、ということについてはかなり明確な理由があったと思います。それは研究室で自分を紹介する上で必要な内容でした。動機と目的がはっきりしていること、帰ってからの展望が動機と目的に結びついていること、それを裏付ける研究計画が行く先の施設で実施可能なことを証明すること、が重要だと思います。
SUNRISE YIAには、自分がやっていることを周知させてもらえるという、非常に特徴的なレポート制度があります。レポートによりつながりが得られることも魅力でした。少なくとも私たちの組織からこのような公のcompetitionに参加するケースは多くありません。しかしながら、自身の施設に問い合わせたところ、レポートすることも含め応募が許可されたため、今回参加するに至りました。英語でのプレゼンは自分にとって難易度が高いですが、それにむけて準備をすることで改めて自分の留学について振り返ることができましたし、新たに志の高い先生方と知り合うことができました。挑戦してよかったと思います。今後も引き続きよろしくお願いいたします。
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Johns Hopkins University Medical Campus
 

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本田 泰之(Baltimore, USA)