お金で買えない価値がある

留学の辛いことは?留学のデメリットは?と聞かれることがある。何事においても極めて楽観的な自分にとってはある意味非常に難しい、答えづらい質問である。ある人にとって辛いことやデメリットと感じることは、他の人にとってはそうでもないかもしれない。という具合に、これは個人の価値観、感性も大きく関係してくる。
留学期間は、「人生における投資」と割り切っていたので、全てとは言わないまでも、SHD interventionの技術習得および研究という当初の目標は達成しつつある今、この二年間は非常にハッピーであったと自信をもって言うことができる。ただし、「欲を言えば」や「たられば」を考え出したらそれなりに思うところはある。通常自分はこのようないわば無駄な思考に時間は費やさないが、今回は少しばかり時間を割いて綴ってみようと思う。
1. Authorship
論文が留学の全てではないが、非常に重要であることは明らかである。なぜなら、多くの時間を論文作成のためのデータ収集、解析などに費やしているからである。こちらに来て、症例報告からoriginal studyまで幅広く関わらせてもらったが、authorshipに関して、全てが自分の思うようになったわけではなかった。本文、図表、画像、すべてを自分で仕上げたとしても結果として1st authorをスタッフに譲る形になることもあった。最終的にはこのスタッフに対する最大限のリスペクトのもと、自分の判断でそのようにしたわけだが、今でもこの判断は正しかったと思っている。結果として、このスタッフとはとても仲が良くなったし、何より論文が一流誌にacceptされたことで、大きな自信になった。
Authorshipに関して重要なことはおそらく、studyを立案する段階で、ボスに対して、自分はこういうstudyをやりたくて、studyに関わっている人間(co-authors)はこんなで、このあたりの雑誌を狙っている、ということを明確にして承認を得ておくことであろう。
2. Finance
留学先からの給料がないことはこちらに来る前からわかっていたことではあったが、自分の銀行口座の残高が「順調に」減っていくのは、あまり気分のいいものではない。なおかつ、円安の影響で大きな打撃を受けた。出国時1ユーロ118円だったものが、こちらにきてからどんどん円安となり、多くの時間を1ユーロ140円台で過ごさざるを得なかったことは正直かなりしんどかった。幸い、日本心臓財団・バイエル薬品より海外留学助成をいただいたのと、東海大学からのサポート、そして何よりこのSUNRISEからのサポートには文字通り助けられた。心より感謝している。
果たして、留学後に給料について交渉の余地はあったのだろうか?これに関しては、限りなくゼロに近いと考えている。イタリアの経済危機の負の影響は根深く、若者の多くが仕事を求めて国内国外を彷徨っている状況である。そして、これはドクターにおいてもそうなのである。日本であれば、善し悪しの議論は置いておいて、医局に所属していれば、少なくとも仕事にはありつけるのが現状であろう。こちらでは前回のレポートでも触れたとおり、大学で五年間訓練を受けた後、「自分で」就職活動をしなければいけないのである。特にinterventional cardiologistとしての門は狭く、イタリアから海外留学へ行き、素晴らしい業績を残して帰ってきても正規のポジションはなく、一時的な寄付口座でつないでいる、ということが起こりえるのが現状である。
話を戻すと、留学後の給料交渉の可能性はゼロであろう。イタリア人にとってもこれだけ厳しい状況の中、日本人留学生に給料を出している余裕はとてもあるとは思えない。ただし、留学の後半に教授から「ミラノでinterventional cardiologistとして働かないか?正規のポジションがある。」というオファーをいただいたことは素直に嬉しかった。先に触れたイタリア国内の状況を考えればなおさらである。非常に光栄なことではあったが、熟考の結果、お断りすることにした。
 
留学の時間は有限である。二年なんてあっという間、もっとあんなことをすればよかったと思うこともある。手技がうまくいかなかったり、論文がrejectされてへこんだりすることもある。でもそんな苦境を支えてくれる家族、友人がいたからこそこの二年間頑張ってこられたし、より実りある時間になったのだと思う。そう、「お金で買えない価値」がある、だから留学はいい。

y_ohno
y_ohno
大野 洋平(Catania, Italy)