PCIの治療効果を見据えた心筋虚血診断

今回は私の留学先であるImperial College Londonから報告されたCoronary Physiologyに関する以下の論文を取りあげる。
Nijjer SS, et al. Change in coronary blood flow after percutaneous coronary intervention in relation to baseline lesion physiology: results of the JUSTIFY-PCI study. Circ Cardiovasc Interv. 2015;8:e001715. DOI: 10.1161/CIRCINTERVENTIONS.114.001715.
本論文は冠動脈インターベンション(PCI)の前後でFractional flow reserve (FFR)、instantaneous wave-free ratio (iFR)、coronary flow reserve(CFR)、冠血流速度(≈冠血流量)など複数の冠動脈の生理学的指標を測定し、心筋虚血の重症度とPCIの治療効果を定量的に評価した論文である。
FFRを用いた心筋虚血診断に基づくPCIの有効性がFAME試験(冠動脈造影ガイドPCI vs. FFRガイドPCIの比較試験)、FAME II試験(FFRで虚血陽性の病変に対して薬物療法 vs. PCI+薬物療法の比較試験)で示されて以降、心筋虚血診断に基づくPCIの重要性が広く認識されるようになった。これらの試験では冠血行再建の適応を決定する際にFFR <0.80をカットオフ値として用いており、実臨床でもこの数値に基づいて多くの臨床判断がなされている。
しかし本来FFRは心筋虚血を陽性・陰性で判断する定性的評価法ではなく、心筋血流障害の程度を数値で示す定量的評価法である。すなわちFFRで血行再建の適応と判断される病変でもFFR = 0.50の病変とFFR = 0.75の病変とでは血流障害の程度が異なり、自ずと PCIの効果も異なるはずである。本論文ではこれを科学的に証明している。
本研究では狭心症患者67名、75病変に対してPCI前にcombowire (冠内圧と冠血流速度の両方が測定できるガイドワイヤー)を用いてFFR、iFR、CFR、BSR、HSRなど各種冠動脈の生理学的心筋虚血指標を計測し、心筋虚血の程度とPCIによる冠血流量改善の関連を検討している。結果、いずれの生理学的指標でも心筋虚血が陽性であることが示された病変では、心筋虚血陰性の病変に比較してPCIによって冠血流量が有意に増加することが示された(図1)。

次に虚血の重症度をFFRの値によって層別化すると、心筋虚血が重症な病変ほどPCI後の冠血流量の改善が大きくなる一方で、虚血が軽症の病変や虚血陰性の病変では冠血流量の改善が乏しいことが示されている。特に心筋虚血陽性であってもFFR 0.71-0.80の病変ではPCIによって有意な冠血流量の改善が得られなかったと報告している(図2)。

本研究は心筋虚血陽性の病変はトータルでみるとPCIによって冠血流改善が得られているように見えるが、個別でみると虚血陽性の病変であってもその重症度によって治療効果が異なることを示している。冠血流量改善の程度と臨床転機の関連までは検討されていないがそれらが関連する可能性は高い。PCIを実施する際には虚血の存在を証明することは必須であるが、さらに重症度を考慮することでより適切な臨床判断を促しているように思う。

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塩野 泰紹(UK)