2016年は左冠動脈主幹部(LMT)病変の治療に関する論文がとりわけ多く出版されたように思います。なかでも、この秋に発表されたNOBLE、EXCELの2研究は、LMT病変に対し第二世代DESもしくはCABGにより治療された患者の予後を比較した多施設ランダム化試験ということで注目が集まりました。
LMT病変の血行再建に関して、NOBLE(対象患者数1,201名)では、PCI群(n=598)がCABG群(n=603)に比べて5年間のイベント発生率(全死亡、手技に関連しない心筋梗塞、再血行再建の複合エンドポイント)が有意に高かったのに対し(PCI 29% vs CABG 19%, p=0.008 for superiority)、EXCEL(対象患者数1,905名)では3年間のイベント発生率(全死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合エンドポイント)の比較においてPCI(n=948)のCABG(n=957)に対する非劣性が証明された(PCI 15.4% vs CABG 14.7%, p=0.02 for noninferiority)、という結果でした。これらの結果は一見すると矛盾しているように見えますが、対象患者や個々のエンドポイントを詳細に比較すると、実はいくつかの共通なメッセージがあるように思います。
・全死亡に関しては、NOBLEにおいてもEXCELにおいてもCABG、PCIに有意差はない
・周術期イベントはNOBLEにおいてもEXCELにおいてもCABG群に多い
・フォローアップ1年の時点では、両群のイベント発生率は、NOBLEにおいてもEXCELにおいても差がない
これらの結果を踏まえ痛感するのは、当たり前のことながら、実臨床においてLMT病変の血行再建を考慮する際には、やはり個々の患者さんの背景や状況を十分に考慮する必要があるということです。LMT病変ということでひと括りに治療法を統一できるほど、両治療(CABG/PCI)に圧倒的な差は認められず、だからこそ内科医、外科医による慎重な議論が必要であることを実感します。
そういった意味で、昨年度レポーターを務められた外海先生らが先日JACCに発表されたisolated LMT病変の論文は、臨床医にひとつの明確な指標を示してくれているように思います。この研究は、SYNTAX, PRECOMBATの両トライアル(どちらもCABG/PCIのランダム化試験)のデータを用い(対象患者数1,305名)、全死亡、心筋梗塞、脳卒中、再血行再建のエンドポイントをCABG/PCIで比較したものです。この研究では、5年間のフォローアップにおいて、両群における全死亡/心臓死亡、脳卒中、心筋梗塞の発症率には有意差が認められず、再血行再建率に関してはPCI群で高率であった(PCI 19.5% vs CABG 10.8%, p<0.001)ことが示されました。さらに、isolated LM/ isolated LM +1枝病変のサブグループ解析では、CABGとの比較においてPCIによる血行再建は全死亡(60%)および心臓死亡(67%)の減少に関連したと報告されています(HR 0.40, 95% CI: 0.20-0.83, p=0.029 for all-cause mortality, HR 0.33, 95%CI: 0.12-0.88, p=0.025)。2枝/3枝病変群との間には交互作用が認められており(p for interaction=0.029)、症例によってPCI/CABGの選択を慎重に行うことの重要性が示されているように思います。
参考文献;
1. Mäkikallio, T. et al. Percutaneous coronary angioplasty versus coronary artery bypass grafting in treatment of unprotected left main stenosis (NOBLE): a prospective, randomised, open-label, non-inferiority trial. Lancet Lond. Engl. 388, 2743–2752 (2016).
2. Stone, G. W. et al. Everolimus-Eluting Stents or Bypass Surgery for Left Main Coronary Artery Disease. N. Engl. J. Med. Epub ahead of print (2016).
3. Cavalcante, R. et al. Outcomes After Percutaneous Coronary Intervention or Bypass Surgery in Patients With Unprotected Left Main Disease. J. Am. Coll. Cardiol. 68, 999–1009 (2016).