途中なりに思うこと

本レポートも最終稿となりました。本来2021年3月が最終締切でしたが、COVID-19パンデミックにより渡米が遅れたため、第8回以降のレポートは内容的にもう少し滞在してから報告したいとわがままを言って締切を延長していただきました。2020年9月に渡米し、1年弱が経過した現在での感想を述べていきたいと思います。

<この一年間の忌憚のない感想>

とても充実した一年間だったと思います。研究に関しては後述しますが、一家四人での海外生活、という意味でも得るものの多い一年間でした。COVID-19流行下での海外生活という前例のない状態だったため、ともすれば学校にも通えず、外出もできず、という生活も覚悟していましたが、厳格な入国(入島)管理によって州内の感染者数は減少傾向であったこともあり、子どもたちはすぐに学校に通い始めることができました。また、土地柄的に海や山など、ソーシャルディスタンスが十分に確保できる場所がたくさんあったため、のびのびと遊ばせることができているのも大変幸運なことだと思います。この恵まれた環境で、子どもたちは毎日太陽の下で遊び、日が沈んだら寝る、という感じで本能のままに生きています。臨床医である妻も一時的に現場を離れ、新しいことを勉強するなど、今までできなかったことをやっています。家族全員がそれぞれやりたいことを楽しくやれているため大きな喧嘩やトラブルもなく、この環境を選んで良かったなあとつくづく感じています。

研究については、思ったより順調な部分と、不満な部分が綯い交ぜといった感じです。実験器具に関しては日本にいた頃と変わらない、もしくはちょっと高性能な機械が入っていたりして、ストレスなく始めることができました。一方で、マウスの管理が厳格(1ケージに飼えるのが5匹まで、など)なので数を用意するのが大変で、マウスの”成長待ち”がボトルネックになることがしばしばあったりして、これがストレスといえばストレスです。また、ハワイ大学の契約雑誌がかなり少ないため、幅広く情報を集めるのがちょっと面倒です。それでも親切なボスと同僚に囲まれ、不愉快な思い一つせずに1年間過ごせているので多少のマイナスポイントは気になりません。与えられた時間が許す限り、できるだけ楽しんで過ごしたいと思っています。

<これから留学を夢見ている若者へ一言>

第一回レポートに書かせていただいたように、自分は「留学するかしないか」について散々迷いました。もし同じように迷っている人がいたとすれば、かけてあげられる言葉としては、それは正解のない選択であり、たぶんどちらを選んでもメリット・デメリットそれぞれある、というものになりそうです。悩んだ末に出た答えであれば、最終的に選んだほうが正解、くらいの心持ちでいるのが健全だと思います。ただ、迷っているときの心の動きも理解できる分、「あまり長いこと迷っているのは良くない、決めるなら早く決めてしまったほうが実務的にも気分的にも楽」ということも併せて言っておきたいと思います。実務的、というのは、時間的余裕を持って行き先を選べる、とか、助成金の年齢制限に間に合ううちに、とかそういうポイントです。また、気分的に、というのは、留学するかしないかが決まっていない状態というのは言わば「ToDoリストがそもそも決まっていない」状態なので、動きようがない苦しさがあり、決めてしまえばその苦しさから開放される、ということです。自分なりの決定を下したあとは、留学するならするなりの、しないならしないなりのToDoを進めていけばよくなるので、とても開放的な気分になります。そして留学に行く、と決めたなら、CVに書ける仕事のひとつひとつを立派に仕上げよう、英語をちゃんと勉強しよう、というモチベーションもより明確になるため、より充実した日々が送れるのではないかと思います。

英語、といえば、些細なことではありますが、COVID-19パンデミックにより、ネイティブの英語がかなり聞き取りにくくなっています。もともとアメリカ英語は早口でリンキングが多いのに加え、みんなマスクをしていますし、お店ではさらにアクリル板が挟まっていたりして、全体的にモゴモゴっとした英語を聞き取らなければならない状況が増えています。幼少の頃から英語に触れていて耳が良かったり、語彙のストックが多い人はそこまで気にならないのかも知れませんが、頭で考えて聞いているレベルの自分には結構つらい状況です。ということで、リスニングの練習も、イヤホンではっきりした音声を聴く練習だけでなく、スピーカーにタオルやマスクをかぶせて、くぐもったような音を聴くトレーニングが重要になるかも知れません。半分本気、半分冗談ですが、実際に感じたこととして、記載しておきます。

最後に一点、もし海外に行くことが決まったら、是非SUNRISE YIAに応募してみると良いと思います。ポジショントークとして言っているわけではなく、振り返ってみれば本当に得るものが多かったと思っています。全国に知り合いができますし、中堅になってあれこれフィードバックを貰える機会というのもとても貴重です。参加人数が増えるほど面白くなるのは第7回のプレゼンテーションをみてもわかると思いますし、あのとき知り合ったあの人が頑張っている姿、というのもこれから先、とても励まされるものだと思います。ますます盛り上がるイベントになることを期待しています。

<反省点と抱負>

インターネット・スマホの発達で、米国に住んでいても日本の情報を簡単に手に入れることができます。特に渡米して数ヶ月、こういった日本の情報を読みすぎたなあというのが反省点です。少しホームシックの気もあったのかもしれません。そういう日本語のノイズで、思ったより英語に浸かれていなかったと思いますし、油断するとすぐに日本語で情報収集を始めてしまうのは悪い癖だと思っています。スマホのおかげで英語の学習が簡単になった面もありますが、外国においてさえ最新の自国語コンテンツが楽しめてしまう(テレビも見られるし漫画の新刊も買えてしまう…)というのは、本来英語に触れるべき時間をかなり奪ってしまっていると感じています。これは意識的に減らさないとどうしようもないので、自分への戒めとするとともに、皆様にもご留意いただきたいと思います。

研究に関する抱負としては、「1年以内にOriginalを1本、Reviewを1本…」、などと言えればよいのですが、今の自分の心境としては、あせらず丁寧な実験を心がける、ということを1番の目標にしたいと思います。もちろん滞在期間は決まっていますのでのんびりしている時間はありませんが、それでもやはり、一刻も早い、一本でも多くのPublicationを、という心持ちは弊害も多いと感じています。説得力のある実験デザイン、コントロールの準備を心がけていれば、いつかは良い結果に出会えると信じています。

<最後に>

10回に渡りお付き合いいただきありがとうございました。基礎研究の話を、あまり基礎基礎しないように心がけたつもりですが、至らない部分もあったかと思います。ご容赦いただければ幸いです。SUNRISE YIAに選んでいただき課されたレポートではありますが、この一連のレポートを通じて、自分の課題を新しく発見し、おぼろげだったアイデアを具体的なものに変換することができたと思っています。このような貴重な機会をいただき、あらためて感謝申し上げます。

本留学の実現に当たっては、あらゆる面で多くの先輩方に助けていただきました。このような経験から、海外留学というのも、先輩からバトンを渡していくような文化だと感じています。今度は自分もバトンを渡す側として、後進の皆さんのお役に立ちたいと考えています。もしご質問・ご相談等ございましたら、些細なことでも構いませんので、お気軽にご連絡いただければと思います。

それでは1年間ありがとうございました。

ハワイの虹
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原 昭壽(Hawaii, USA)