あれから1年、今考えること

“帰国後のビジョン“
この‘タイトル’を聞くと、昨年のSUNRISE研究会のYIAが思い出されます。あれから早くも一年、そして留学開始からも10ヶ月が経過しました。その間、多くの事を感じ、考えてきたつもりですが、頭の中はまだまだ漠然としているのが正直なところです。
留学開始直後の第1回のレポートでも、留学を考え始めた理由などについて記載しましたが、もともと自身のビジョンはやや不明確なものであったのかもしれません。各論的な事も含めて明確な将来のビジョンを確立してから留学できれば一番良いのかもしれませんが、個人的には‘迷い’を持ちながらの留学というのも、一つの形ではと思っています。当然そこには多くの前提があるとは思いますが、こういった自分にも留学というものは色々なものを与えてくれていると感じています。
今後としては、まず短期的なところでは、留学の‘目に見える’成果の部分をきちんと還元できるか、というところでしょうか。具体的には、欧州で進んでいる部分、Bioresorbable sccaffoldやStructureなどを間近で体感し、そのチームの一員となりOutputしてきたもの;その成果はあくまで留学中の環境下のものではありますが、必要とされる部分のものは、必要とされる時期に、十分に還元できるように努めるのが、最低限の責務でもあるかと思います。当然、欧州の情報も様々なツールで入って来ているはずですが、直接日本の視点で見て、背景の違いを加味して解釈したものには、重要な意味合いがあると思っています。そういった過程の中でまた、自身にとって得られるものも多くあるのではと考えています。
短期的なものはあくまで一時的なものなので、さらに今後最も重要な事は長期的にどういったことを考えていくか、ということかと思います。‘世界に出てから見つめ直す日本の医療’の回で記載させていただきましたが、外に出てみて改めて、日本には日本の臨床の中でしか生み出せ無いような良さが多くあると感じています。ただ、臨床の多くの分野において、世界ではまだまだそのQualityが十分評価されていないのが現状でしょうか。やはり一つ一つ形としてOutputしていかなければ、そのQualityも根拠の薄いところとなるのかもしれません。Antonio Colombo先生を初めとするチームにおいて、外から見ていた時は、欧州だからこそ出せるNoveltyの高い部分のOutputだけが見えていましたが、実際には、どんな小さなことでも臨床から拾った疑問を(特にJournalのimpactなどには囚われず)常に形とする姿勢がここにはありました。日本には海外と比較して多くの足かせやデバイスラグなどによるDisadvantageがあるのも事実だと思いますが、そういった事を自身への隠れ蓑にせず、一つずつきちんと形にしていくことが重要かと今自身に刻んでいます。
先日Milan Cardiologyという会がSan Raffaele大学内で開かれ、循環器の様々な臨床分野において世界各国から多くの著明な先生が招待されていました。その中で今年3月の日循の会長もされている下川宏明先生の御講演を拝聴することができました。Spasmに関する内容でしたが、実臨床のものから基礎も絡められた、そのデータに裏付けられたストーリーは、海外の聴衆を深くconvinceさせるものであり、大変感銘を受けました。その分野においては日本発のデータがESCのガイドラインなど世界の臨床指針の元にもなっており、日本のQualityを世界に証明しているところを、まさに見せていただいた気がします。
今後も臨床に携わる中で、そういった世界への発信を少しでも意識していくことができれば、またそのためにも、臨床、基礎、さらに地域など、多くの枠組みを超えて考えていくことがより必要となる時代に、自身がどう貢献できるのか、ということを常に考えていきたいと思います。

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田中 哲人(Italy)