これまでとは異なる切り口で不整脈にアプローチする

皆さんこんにちは。
真夏のクリスマスとお正月を経験しました。クリスマスは陽気な感じで良かったです。一方、お正月は変な感じですね。全くしっくり来ません!やっぱり年末年始は日本の厳かな雰囲気が好きです。ちなみに、息子達はプレゼントとお年玉があればどっちでも良いようです(笑)。

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写真1: クリスマスは快晴。最高気温35度でした。

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写真2: 新年を祝う花火。ど派手です。

早いもので渡豪して9ヶ月が経ちました。いろいろ苦労もありましたが、少しずつアウトプットの段階に入ってきています。もちろん順調なプロジェクトもあれば、構想のまま停滞しているものもありますし、既にお蔵入りのものまで存在します・・・(苦笑)。その中からいくつかご紹介させていただきます。
【これまでの取り組み】
1. Association of Left Ventricular Global Longitudinal Strain with Recurrence after the Atrial Fibrillation Ablation: Incremental Benefit over Left Atrial Parameters.
これは日本で取り組んでいた内容をベースに、今のボスから頂いたアイデアを加えて完成させた日豪合作のネタです。
AFアブレーション後の強力な再発予測因子である左房因子に、左室ストレインを加えると再発予測精度が上がるという内容です。左房と左室は密接に関連していますので、やはり左室の影響も大きいのではないかという仮説を検証したものです。結果は、左室ストレインは独立した再発予測因子であり、これまでの予測モデルに加えることで予測精度が向上しました。AHA2018で発表し早速論文を投稿したのですが、残念ながら初回挑戦はRejectでした。お決まりの地道なTrial and Errorの始まりか、と思っていたのですが、その後予想もしなかった展開が待っていました。個人的には初回投稿先がイメージングの雑誌でしたので、不整脈の雑誌だったら違った結果になるだろうと考え、別雑誌への再挑戦をボスに提案するつもりでした。ところが、次のミーティングでその話題を切り出す前に開口一番ボスがこう言いました。「素晴しいニュースがある!  300例のAFアブレーションデータを見つけたぞ!!」。いきなりのことで何のことかさっぱり飲み込めませんでしたが、ボスは日本のデータで作成した再発予測モデルを、オーストラリアの患者群で検証することを思いついたようなのです。確かにReviewerには予測モデルの検証が必要と指摘されましたが・・・。普通は「そんな無茶な・・・」で終わりだと思うのですが、まさか本当に実行しようとするとは・・・。いまだに彼のスケールの大きさと行動力には圧倒されてしまいます。
現在、当地の倫理委員会を突破し患者情報を収集する段階まできたところでストップしております。ここから先は私には直接手が出せず、協力者にお願いするしかありませんので根気よく待っているところです・・・(第7回レポート参照)。どのような形でゴールを迎えるか皆目見当もつきませんが、これも新たな挑戦と思って粘り強く頑張りたいと思います。
2.  Prediction of Ventricular Arrhythmias with Mechanical Dispersion assessed by Strain Echocardiography: A Systematic Review and Meta-analysis.
初めてのシステマティックレヴュー・メタ解析です。論文収集から統計解析まで全て自力でやりきりました!
心室不整脈(VA)予測のゴールドスタンダードと言えば左室駆出率(LVEF)ですが、致死性VAを発症した患者の約4割はLVEFが保たれていたという報告もあり(J Am Coll Cardiol 2017; 68: 556-569)、LVEFに替わる予測マーカーが議論されてきました。そこで近年注目されているのがストレインエコーです。より正確に、そして優れた再現性をもって局所心筋の評価が可能であり、そのイベント予測精度はLVEFを上回ることが報告されています(Heart 2014; 100: 1673-1680)。最近、このストレインエコーを用いて測定した左室ストレインのばらつき(LV mechanical dispersion)とVAの関連性が注目されています。しかしながら、LV mechanical dispersionとVAの関連を調べた研究の多くは単施設かつ少数例での検討であり、また、その患者背景は様々です。そこでエビデンスを強化すべくメタ解析に挑戦しました。結果はLV mechanical dispersionはVAの独立した予測因子であり、その予測能は従来の指標を上回るというものでした。現在論文を投稿中です。

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図1. (J Am Soc Echocardiogr 2012; 25: 667-73より引用): VTを発症したDCM患者(左)の方がストレインのばらつき(Dispersion)が大きい。

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図2. メタアナリシスの結果(まだ詳細は提示できません)。早く日の目を見ますように。

3. Left Atrial Mechanical Dispersion Assessed by Strain Echocardiography as an Independent Predictor of New-onset Atrial Fibrillation: A Case-Control Study
これはDispersion研究の心房版です。画像関連の流行は心室から始まって心房に移っていきますが、これはその典型です(笑)。LV dispersionがVAの予測因子なら、LA dispersionはAFの予測因子になるのではないかという仮説の検討です。LA dispersionとAFの関連性はAF ablation後の再発予測などで検討が始まっておりますが、まだまだ確立されていない分野です。今回の検討ではLA dispersionは左房拡大がない症例でも新規AF発症の予測因子であることが明らかになりました。AHA2018で発表し、現在論文を準備中です。

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図3: 洞調律中に評価した心房ストレイン。その後に新規AFを認めた患者(B)の方がストレインのばらつき(SD-TPS: standard deviation of time to peak positive strain)が大きい。

【今後取り組みたいこと】
今年の目標はCost-effectiveness analysisに挑戦することです。ボスの専門はイメージングですが、統計や疫学にも精通しており、過去に多くのCost-effectiveness analysisを行っています。Cost-effectiveness analysisは今後の日本の医療を考える上で避けては通れない分野だと思っています。もちろん本質的には統計や疫学のプロが行うべき内容だと思いますが、臨床現場の率直な意見を反映させるためには臨床家の関与が不可欠なはずです。現場の意見を正しく届けるためには自分自身が実際に経験してみるのが一番だと考えました。昨年末のミーティングでボスに相談し、快くOKを貰えました。そして、ニコニコしながら「Lovely bookがある」と言って1冊の本を貸してくれました。ボス自身がCost-effectiveness analysisの勉強をした教科書のようです。その分厚さ(388ページ)に提案したことを少しだけ後悔してしまいましたが(どこがLovelyやねん!)、精一杯頑張りたいと思います。
 
番外編: 夫もしくは父のわがままに振り回された家族の留学奮闘記
第8話「やっぱりお米が一番」
当施設の年末年始のスケジュールは、仕事納めが12月21日、仕事始めが1月2日でした。なんと11日間もOFFが貰えましたので1週間の家族旅行を計画しました。最大の心配事は子供達の食事でした。子供達はパンや洋食が苦手で、外食が続くと食事量が極端に減ってしまいます。そこで今回は車の旅にしました。車に携帯コンロと圧力鍋を積み込み、いつでもお米が炊けるようにしました。この作戦は大当たりで、体調を崩すことも無く楽しい旅行になりました。圧力鍋を使うと本当に簡単にご飯が炊けますし、日本食用の食材調理にも重宝します。はるばる船便で送って大正解でした。

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写真3:  ご飯を美味しそうに食べる子供達。やっぱり日本人は米ですね。

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写真4: 南オーストラリア州にあるカンガルー島に行きました(本当にこの名前です!)。大自然を満喫しました。

つづく

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川上 大志(Melbourne, Australia)