こちらはドイツを代表する肉料理です。
左上 フランクフルト名物の豚肉料理リップヒェン
右上 豚スネ肉をじっくり炭火で焼いたシュバイネハクセ(オススメ)
左下 牛肉をマリネしてからグリルしたザウワーブラーテン
右下 どこにでもあるみんな大好きシュニッツェル
お気づきのように、付け合わせにはだいたいジャガイモが乗ります。ドイツの食文化の魅力は、周辺のイタリア、フランス、スペインといった美食大国に比べると流石に敵いませんが、ならではの美味しいものがたくさんあります。
さて、今回は生活や文化についての紹介です。ガイドブック的な内容は上の肉料理くらいにして、こちらでの実体験を切り取りながら、そこに垣間見えるドイツの人たちの考え方、そして日本との違いにフォーカスしてみたいと思います。
1. 職場編 〜分業の集合として有機的に機能するチーム〜
こちらで仕事をするようになってよく思うのは、徹底した分業によってチームとしての効率が上がっているということです。いわゆる雑用的なことは技術員がかなりの部分を担ってくれていますし、実験動物の飼育は飼育者によって適切に行われ、私たち研究者はコンピュータ上でそれを管理するだけでよいのです。また、シークエンシングやMRIなどある程度特殊な解析に関しては、それぞれの専門家が施設内におり、研究者はサンプルを用意して彼らに手渡すだけ、ということが多々あります。これらの過程は、中途半端な理解で研究者自身が行うよりも、圧倒的に正確で迅速です。彼らは皆、自分の領域のことに関してはとても親身に相談に乗ってくれ、そこでこちらが「Thank you」と言うと、「It’s my job」という答えが返ってきたりします。
こういった明確な分業は、例えば担当者が長期休暇で不在になると作業がストップする、という負の側面を持ち合わせますが、それは仕方のないこととして受け入れられています。職種による上下関係のようなものはあまり感じず、どの職種の人も自分の仕事に対する誇りと他者の仕事に対する敬意を持っているように感じます。
2. 生活編 〜合理的システム vs. 日本的道徳〜
ドイツ人は合理的な人種だ、と表現されることがありますが、日常生活レベルでもそれを実感する場面が度々あります。ここではその一例としてペットボトルの回収システムについてご紹介します。
ドイツでは、ほぼ全ての容器飲料の価格にデポジット料金が上乗せされており、飲み終えた容器をスーパーなどに設置されている自動回収機へ入れると、デポジット料金が返ってきます(写真1)。ラベルやキャップを外す必要はありません。デポジットはペットボトル1本あたり25セントとウエイトが大きいため、回収率の増加につながり、街でペットボトルのポイ捨てを見ることはありません(あっても誰かが拾って換金します)。また、回収機に記録された情報はデータとして活用されます。このようなシステムは現在EU諸国やアメリカでも取り入れられていますが、ドイツはいち早く制度導入した国として知られています。
写真1. 回収対象のマーク(左)とスーパーにある自動容器回収機(右)
翻って日本ではどうでしょうか。調べてみると、私たち日本人は金銭的な動機付けがなくとも各人の道徳的行動によって、実はデポジット制度国と同等あるいはそれ以上の高い回収率を実現しているのです(環境省データ; 2016年)。これは大いに称賛されるべきことでしょう。このように対比して考えると、元来の国民性の影響はもちろんあるものの、ドイツのような他民族比率が高くばらつきの大きい集団を管理するために、その多様性を飲み込む合理的なシステムが必然的に存在しているようにも思えます。
3.
教育編 〜早すぎる分岐点の真意〜
私の子供は、現地の公立幼稚園に通っています。移民の子供に加え、私と同じような留学者の子供も多く、公立とは言っても非常に多国籍です(写真2)。先生は皆英独バイリンガルですが、子供たちに対しては英語のみを使う先生とドイツ語のみを使う先生が決まっており、両者複数人で一つのクラスを受け持っています。このバイリンガル式は外国人の少ない他の幼稚園にはないものかもしれませんが、これから我が子にどのように作用していくのかとても興味深いです。
写真2. 多国籍の園児たちを象徴する幼稚園玄関の壁画
さて、ドイツの教育制度には日本と大きく異なる特徴があります。それは、10歳の時点の成績と希望によって、大学に行くか行かないかがほぼ決まるという点です。前者の場合はその後日本の中学・高校に相当する教育を受けることになります。一方、後者の場合は実践的な職業教育を受け15-16歳で就職することになりますが、実際彼らはここモノづくり大国ドイツにおいて、Made in Germanyの高品質を支える重要な人材となっています。以前この話題をボスと話したときに、ボスが実例となる国名を挙げて、均質で標準的な教育の結果として産業がサービスに傾倒すると本来の強みであるモノづくりがおろそかになってしまう、ということを言っていたのが印象に残っています。もっとも、時代の変化に伴い、ドイツのこの教育制度にも賛否様々な議論があるようです。
4.
趣味編 〜生活の近くに在る音楽〜
私は、日本では本業と並行してジャズピアニストの端くれとして活動していたこともあり、ここドイツでの音楽体験は貴重な財産になっています。
クラッシックやジャズなど日本では余所行きな音楽でも、こちらではその敷居が低く、人々が生活の中で当たり前のように音楽を楽しんでいる、ということをよく思います。平日でもオーケストラのコンサートは満席、ジャズバーには溢れるほど人がいます(写真3)。ドイツに来てからハンブルクバレエ団に所属する日本人ピアニストの方と知り合う機会があり、ドイツには待遇を含め音楽家にとって恵まれた環境があること、そして政府による補助や寄付団体の存在など社会に音楽・芸術をバックアップするムードがあることなどを教えてもらいました。彼女のほかにも、例えば世界最高峰と言われるベルリンフィルハーモニー管弦楽団に日本人が何名か在籍していたりと、同じ日本人が本場の国の第一線で活躍している事実には、異業種ながら勇気をもらっています。
写真3. ベルリンフィルハーモニー(左)とベルリンのジャズバー b-flat (右)