今回は三尖弁のカテーテル治療の成績に関しての論文です。大動脈弁、僧帽弁ときたら次は三尖弁!ということで多分そのうち日本でもカテーテル治療始まるんじゃないかと勝手に期待していますが、その前に世界の現状のupdateも兼ねてReviewしてみることにしました。若干review的な要素もある論文ですが、勉強になります。
Outcomes After Current Transcatheter Tricuspid Valve Intervention: Mid-Term Results From the International TriValve Registry. Tramasso M et al. J Am Coll Cardiol Intv 2019;12:155-65.
背景:
経カテーテル的三尖弁インターベンション(TTVI: transcatheter tricuspid valve intervention) は近年他のSHDインターベンションと同様に有症候性severe TR患者かつ手術のhigh risk症例に対しての治療オプションとして発展してきた。TTVIの臨床データに関しては限定的であるが、Cardiobandなどの弁輪形成デバイス, MitraClip, 弁置換デバイスなどが用いられ始めている。多様なTTVI technicの発展に伴い、様々な臨床的、解剖学的、技術的な挑戦が行われている。
The TriValve Registryは現在使用されているTTVIデバイスの最初のinternational registryであり、多様なデバイスの使用状況や予後などを調査している。この論文はその中期成績の報告となっている。
方法:
TriValve registryはヨーロッパと北米の18施設が参加しており、2016年11月から登録を開始している。対象となっているTTVIデバイスは次のとおりである。MitraClip, FORMA spacer, Cardioband, TriCinch, Trialign, Caval Valve Implantation (CAVI), PASCAL, Navigate. (Figure 1)
(Figure 1)
ベースラインのclinical, anatomical, echocardiographic dataと術前、退院時、フォローアップ時のイベントと可能であればエコーデータが収集された。
症候性のsevere TRが対象患者となっており、治療決定は各施設の他職種チームによって行われた。Procedural successは適切にデバイスが留置されデリバリーシステムが抜去でき、残存TR grade≦2を達成することと定義された。
アウトカムの評価はMitral Valve Academic Research Consortium*のコンセンサスに準じて行われた。* Stone GW et al. J Am Coll Cardiol 2015;66:308-21.
結果:
18施設312例のTTVIを施行された有症状のsevere TR患者が登録された。(施設はスイス、ドイツ、フランス、イタリア、USA、カナダ)
Table 1にbaselineのデータが示されています。
平均年齢は76±8.5歳、56%が女性だった。EuroSCOREⅡの平均は9±8%, functional TRが92% (n=288)と大多数であった。71例(22.7%)はペースメーカーリードが挿入されていたが、pacemaker-induced TRと判断された症例はいなかった。108例(34.6%)が弁膜症インターベンションの既往を有していた。(84例がsurgical, 24例がtranscatheter, 3例がその両者)
78%が慢性心房細動を有しており、平均NT-proBNP値は2,759 pg/mlだった。
95%がNYHA3-4、28%が腹水、85%が浮腫を有していた。
(Table 1)
Table 2はbaselineのエコーのデータです。
平均LVEFは49.8±13.5%であり、29% (149例)は3度以上のMRの併存を認めた。TR重症度に関わるパラメーターはVena Contracta 1.1±0.5 cm, Effective regurgitant orifice area (EROA) 0.78±0.6 cm2, Regurgitant volume 54±34 mlとなっていた。
75% (234例)でTRは中央から発生しており、平均三尖弁輪径は46.9±9 mm、captation depthは9.4±4.1 mmであった。RV dysfunction (TAPSE <17 mm)は57%で認められた(平均TAPSEは16.2±5 mm)。平均肺動脈収縮気圧(sPAP)は41±14.8 mmHgとなっていた。
(Table 2)
1例を除き全例で全身麻酔を用い、経食道エコーとX線透視を用いてハイブリッドオペ室もしくはカテーテル室で治療が行われた。TriCinchを用いた1例のみ意識下で心腔内エコーを用いて行われた。用いられたデバイスはMitraClip 210例、Trialign 18例、TriCinch 14例、CAVI 30例、FORMA 24例、Cardioband 13例、NaviGate 6例、Pascal 1例となっていた(Figure 1)。
うち1例はMitraClipとTrialignが同時に施行された。64% (202例)がTTVIのみが行われた一方、その他では経カテーテル的僧帽弁治療(108例)、TAVR (1例)、Paravalvular leak closure (1例)と同時に行われた。平均手技時間は133±66 minであった。
Table 3ではそれぞれの手技における比較を行っている。MitraClipとCAVIはpacemaker leadを有する症例で他の手技と比較し多く行われており、MitraClipとTriCinchは術前の逆流量が多かった。また、CAVIは手技時間が有意に短かった。
(Table 3)
手技中と周術期のアウトカムは280例で使用可能であった(他の32例は他のongoing trialに登録されており、baselineのみ使用可能であった)。
術中死亡は0%であり、procedural success (定義は治療デバイス留置に成功しかつ残存逆流[residual TR]が≦2)は72.8%であり、それぞれのデバイスで有意差を認めなかった。TRの減少は84% (234例)で確認された。
Coaptation depth (弁接合の深さ)、弁輪径、sPAPは単変量解析においてprocedural failureと有意な予測因子であり、Coaptation depthは多変量解析において独立した予測因子となっていた(Table 4)。 手技前のCoaptation depthのcut offは>1cmであり、感度は73.9%, 特異度は60%であった(ROCのAUC 0.66)。
(Table 4)
治療後入院期間は手技成功が得られなかった患者において有意に長かった(8.3 vs. 4.3 days, P=0.004)。 30日死亡率は3.6% (10例, 敗血症2, 呼吸不全2, 右心不全6)であり、手技成功が達成された患者で有意に低かった(1.9% vs. 6.9%, P=0.04)。
30日Major adverse eventsは10.3% (29例)で、内訳は死亡10 (3.6%), 大出血5 (1.7%), 脳卒中3 (1%), 急性心筋梗塞2 (0.7%), 手術への移行4 (1.4%), 呼吸不全2 (0.7%), Device detachment 1 (0.3%), 心室性不整脈1 (0.3%), 大動脈弁位人工弁血栓1 (0.3%)となっていた。
30日時点でのエコーでは62%でresidual TR≦2が達成されており、右心機能の有意な変化は認められなかった(Figure 2, 3) 。また、61%の患者でNYHA Ⅰ/Ⅱとなっていた。
(Figure 2)(Figure 3)
6ヶ月時点では、54%の患者でNYHAⅠからⅡが達成できており(Figure 4A)、腹水貯留の率は14%に減少(P=0.006)、末梢浮腫の率も39%に減少していた(P=0.001)。Baselineと比較しTRを1段階以上制御できた患者ではNYHA Ⅰ/Ⅱの患者が多かった(Figure 4B)。
(Figure 4)
フォロー期間の中央値は6.2ヶ月であり、全生存率は1.5年の時点で77.2±5.9%となっていた(Figure 5)。
(Figure 5)
急性期の手技成功が達成できた患者では生存率が高く、TTVIのみを行った患者のみで解析しても同様であった。
(Figure 6A,B)
手技成功と達成とsPAP高値は死亡率の上昇と関連していた。(Table 5)
(Table 5)
考察:
この研究はTTVI治療の最も大きなデータベースを用いて行われた。本研究の主な結果として手技成功が中間期の生存率に強く関わっており、その主要な予測因子はCoaptation depthであったことが示された。
今回の報告において、初期のTriValve Registryの報告と比較しTTVIがhigh-riskかつ重度のTR患者に行われるようになっていることが示されている。Euro scoreⅡは初期の100例から7.6%→9.0%に、NTpro-BNPは2,500 pg/ml→2,800 pg/ml、登録以前の右心不全入院は3割増加している。これは前段階の研究で報告されたfeasibilityからより重症患者に行われるようになったことや現在行われている他の試験から除外された患者に行われることが多くなったことなどが影響していると考えられる。今回のTriValve Registryはより“Real world”なデータを表していると考えられる。より重症な患者が登録されているにも関わらず、本研究ではTTVIの安全性や有効性が示された。
Coaptation depth、弁輪径、肺動脈圧が手技成功と関連していることは以前の外科的三尖弁形成でも同様の結果が出ており、予想できた結果であった。これらは三尖弁逆流の病態の進行を示し、治療の限界を表していると考えられる。そのため、良好な手技成功率を達成すべくTTVIによる早期の治療介入の必要性を示唆している。
本研究ではTRの制御(≦2+)が併存症や症状、右心機能と独立して中間期の生存率の改善に強く関連していた。観察研究ではあるものの、TRのインターベンションによる制御が生存率を改善させた報告は本研究が初めてである。また、周術期以降も急性期の残存TRが予後に影響を与えることが示されたことは大変興味深い。
手技成功の生存率への影響は次の2点の重要性を示唆している。
Limitationとして下記の点が挙げられている。
結論:
TTVIは多数の異なるデバイスで行うことができ、手技の修練度の上昇やより成熟した患者選択により手技成功率は改善してきている。TTVIによる生存率改善効果が認められており、中間成績はハイリスク群を対象としているにも関わらず良好であった。Coaptation depth (>1 cm)は手技不成功の独立したリスク因子であった。また、手技不成功は中間期死亡率の予測因子であった。
私見:
TRに対する経皮的三尖弁治療はもしかしたら僧帽弁治療よりも効果的かもしれません。三尖弁逆流のみで開胸手術に踏み切るのは内科医としてなかなか決断が難しく、低リスクで可能ならば臨床的に非常に有用だと思います。中間成績の時点ではかなり期待できる治療なのではないでしょうか。インターベンション医で留学を考えている方は狙い目かもしれませんが、デバイスがたくさんあるので、留学先の選定は慎重にした方が良さそうです。どのデバイスでもいいならたくさんやっているMitraClipがいいのかな?
今回の論文ではCoaptation depthが手技成功に有意に関わっていたとのことですが、1 cmというカットオフに関してはどこまで信用していいか疑問な部分もあります。理由は、この研究のエコーやその他の画像診断が様々な施設で行われており、測定手技などがvalidationされていないからです。どうしてもImaging医はそういうところが気になってしまいます。また、残存逆流も定性評価の記述しかないため詳細な評価法などについては今後の研究が待たれるところかと思います。次の世代ではこの辺りがImagingのトピックになるかも。
治療前後で右心機能の変化が認められなかった(Figure 3)ことは治療において好意的に解釈できると思います。三尖弁逆流を制御しても右心室はそれを代償できていたということだからです。
まだ日本への導入は時間を要すると思いますが、今後の展開を期待して待ちたいと思います。