初回で書いたように、私のレポーターとしての役割である、普通の循環器内科医が、海外留学を経てどうなるのかという、人生をかけた壮大なテーマに対しての中間発表になります。
なんだかんだで、もう8か月経過し、気づけばもう少しで2年間の折り返しも近づいてきましたが、今振り返ってみても、楽しかったことや出来たことよりも、大変だったことや出来なかったことばかりが思い出されます。
<これまでの振り返り>
初回にも書きましたが、私は、正直、語学も得意ではないし、文章を書く力も高くありません(というか平均的な医師と比較して低いとさえ思います)。自分に留学が必要だと思ったのは、研究の内容自体もそうですが、情報を形にして、伝える力を身に着けたいと思ったこと(しかも、できれば英語で)が一つの理由ですが、その点でいえば、語学の向上は私の研究の大きなテーマではあり、ベースラインでは伸びしろしかなかった分、明らかに向上していると言えます。スタバの注文にたじろいでいたのも今は昔、車ではカーラジオでニュースを聞き流しているのですが、概ね聞けるようになったし、電話対応では、「早くて聞き取れないからゆっくり話せ」とどや顔で言えるようになったのは大きな成長です。とはいえ、論理的な順序で話したり、書いたりということを英語でするとなるとまた話は違って、研究者として十分に言葉を使いこなすというレベルには、まだまだ遠いと感じます。
研究面では、この原稿の執筆時点では満足する成果を上げられているとは言えません。書きあがった原稿が一つありますが、その他に取り組んでいるいくつかの課題に関しては、このまま永久にお蔵入りしてしまうんではないかと心配になることも一度や二度ではありません。アイデアを練り、実際調べてみると、意外にデータが手に入らなかったりで、そこから修正を行いという、トライアンドエラーの経験は日本でもしましたが、こちらにきても、それほど大きくは変わらないことが分かりました。まあ、いきなり自分が成長するわけではないので仕方ないですね。「これは面白いアイデアだと思うよ」というボスの何気ない一言で勇気づけられたりもしますが、正直なところ、本当に自分にやりきれるのかという不安との闘いが日々続いています。
日々、今の自分に足りないものが多すぎて、歯がゆい思いをすることもありますが、ここで挫けるわけにはいきません。ボスに紹介してくれた先生や、正直、実績もない何者かわからないようなリサーチフェローを信用して採用してくれたボスに対して報いなければいけません。そして、最近では仲間も増えました。境遇を同じくする留学生や、研究職のエンジニア、施設所属の統計家やリサーチナース、困っているときに力を貸してくれる人も少しずつ増えました。家族の存在も忘れてはなりません。私と数か月遅れで合流した家族は生活の適応に時間も必要でしたし、辛い思いをさせた時期も少なからずありました。最近やっと落ち着きつつありますが、妻や息子の心理的な負担は相当なものだったと思います。家に帰って家族の時間を持てるって素晴らしいことですし、息子が見せるであろう凄まじい成長曲線を間近でみることができることのは、研究では得られない貴重な体験です。
こんな出来ていなかったことだらけの8か月ですが、絶望したりはしていません。そもそも、自分に足りないことが多いことを自覚しているから留学したんですし、楽じゃないことは最初からわかっていたことです。臨床研究も誰かに強制されたわけではなく、ただ自分が好きだからやっているんですよね。
<自分の何が変わったのか>
上記のような、できなかったことだらけの期間を過ごして、これはある意味想定内ですが、自分に大して秀でた能力がないことは、良く分かりました。では、一体自分の何が変わったといえるのか考えてみると、マインドセットは少しずつ変わっているような気がします。仮に留学していなかった自分を想像してみると、当時の自分は、何かにつけてできない理由を探して、失敗のリスクを回避していたような気がします。この留学期間を経て、当初の「普通の循環器内科医がアメリカ留学を経てどう変わるのか」の結末はまだわかりませんが、「結果がどうあれ、とりあえずやってみよう。そこから、何とか頑張って考えよう。」と、少しずつですが発想が変わっているような気がします。
失敗を恐れず、打席に立ち続ければ、きっと研究を通じて、誰かの人生に貢献できるのかなと考えています。今後の展望というにはちょっと弱いですが、この8か月の感想です。
まだまだ、冷え込む日の多いクリーブランドですが、自然公園で散策すると気分が晴れます。
<将来に思い悩む若い先生方に>
これを読む方の中には、海外留学を考えていて、人によっては、かなり具体的に行き先まで決まっている人もいるかもしれませんし、ある人は、将来なんとなく考えているけど、どうすればいいのか悩んでいる人もいるかもしれません。また、海外留学以外でも何か挑戦したいことを持っている人がいるかもしれません。もし悩んでいる人がいて、私に何か伝えられることがあるとすれば、「やりたいようにやればいい」と言いたいと思います。「自分は、その水準にないかもしれない」とか「だめだったらどうしよう」という思いが頭をもたげるかもしれませんが、人生は一度きり。当施設のあるPIの言葉を借りれば、「人生にリハーサルはない」のだそうです。
人の価値観は、十人十色で、これが正しいと言い切るつもりはありませんが、私は、自分の人生を誰かに委ねるのではなく、自分で選択して挑戦し続けることが豊かな人生を送るために必要だと思うようになりました。時には自分の無力さに打ちひしがれ、将来に不安を抱えることもあるかもしれませんが、それも含めて挑戦ですから、私は残りの期間を存分に楽しもうと思います。
最後に、何者でもない私に、貴重な機会を与えて下さったSUNRISE研究会の皆様、ありがとうございました。今まで回を重ねてきて、自分が伝えたいことを正確に伝えられたか、力不足な点もあったかもしれませんが、こんな感じで、過去の自分のように、進むべき道に迷っている若い医師に対する需要は、あったのではないかと勝手に評価しています。これを読んでくれる皆さまが、このレポートを少しでも自分のキャリアの参考にしてくれたら、こんなに素晴らしいことはありません。
最後まで、読んでいただいてありがとうございました。もし、海外生活等で不安があり聞きたいことがあるという方がいましたら、shunsukekuroda113@hotmail.comに連絡をいただければ、返信には少し時間がかかるかもしれませんが、対応したいと思います。