刺身…から牛肉ステーキへ、食も価値観も違います

鴨川の漁港でとれた新鮮な素材を使用した寿司やなめろうは当然食べることができませんし、日本食料理店はあるものの、外食する余裕もありません。恋しくならないといったら嘘になりますが、郷に入っては郷に従えです。ナスやキュウリ、ニンジンなど日本でおなじみの野菜はアメリカのスーパーでも手に入りますが、日本のそれとは食感や味が異なり、適切な調理方法は現在模索中、そんな日々を過ごしています。自炊にいそしんでおり、このままいけば研究よりも料理のスキルがアップするでしょう。
japanese soul foodである肉じゃがをアメリカにて

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定番のサミュエルアダムズ。ビールの種類が豊富なのは、ちょっとした楽しみに。

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そんなわけで、今回は研究とは関係ない、生活環境に関するお話しです。
さて、今後海外留学を検討しており、参考にしているという方もいるかもしれません。その時に経済的なハードルとなるのが住居であるかと思います。一部の方を除き、留学生や研究者は賃貸契約を結ぶことになると思いますが、際限なく賃貸料を払えるというような方は少ないと思いますので、妥協点を探す必要があります。アパートであれば、築年数が40-50年ほどの物件も珍しいものではなく、水道や電気のトラブルも日本より多い印象です。ランドリーも賃貸料が安ければ共有になります。クリーブランドは、全米の都市の中では家賃が高いというわけではありませんが、それでも多くの家族が、$2,300-1,500/月程度を家賃として支払っています。家賃が高いことで知られるボストンやサンフランシスコでは、同様の物件を契約するのに2倍程度の賃貸料が必要になり、家賃は日本と比較して全体的に高めであると感じますが、アパートの個々の専有面積が大きく、空間を広々と使っています。実際に調べてみると、収入に対する家賃等の費用の割合はアメリカのほうが大きく、収入の30%程度をliving costsに費やすようです。これらは、家で過ごす時間を大切にする彼らの価値観も表しているのかもしれません。
ちなみに、こちらでは多くの日本人留学生はクリーブランド内ではなく、郊外のBeachwood, Mayfield, Shaker Heightsなどの限られた地域に住むことが多くなっています。そのため、クリーブランドを含むCuyahoga countyの人口は1,200万人の中で日本人はわずか0.1%にすぎません(asianは1.2%)が、クリーブランドクリニックやCase Western Universityへの留学生や駐在関係者など日本人からの情報もそれなりに得ることができます。日本では、治安というものを意識して暮らすことは多くありませんが、クリーブランドに実際住んでみると、貧しい地区との差は歴然としており、やはり安全は買うものであるということを肌で感じさせられます。これらの郊外の地区は比較的安全であるということも日本人が比較的集まっている理由の一つです。
また、小学校やpreschoolの年齢の子供のいる家庭では、学校の環境も重要です。日本でも、家族で転居する際に小学校の評判を考慮することはあると思いますが、アメリカでは10段階評価で小学校の格付けが行われており※、よりシビアな線引きが行われています(学校評価のように、様々なものを数値化・ランク付けするというのも、アメリカの文化といえるのかなと感じます)。具体的には、単純な学力の面だけでなく、ESL (English as a second language)クラスの充実度やサポートであったり、全体の雰囲気、留年者などの割合(小学校ですが!)も学校毎に異なり、また場所によっては学内での人種差別も存在すると聞きますので、重要な選択となります。評判のよい公立校の学区は当然家賃も高くなるので、アメリカでは教育費を家賃として支払うことになります(もしくは私立小学校を検討することになります)。
賃貸契約をすると、アメリカでは契約書の持つ効力の大きさに気づきます。家賃の滞納や条件の不履行があった場合には、契約書に記載されていれば、オーナーは借主を退去させることも可能ですし、途中で解約することができません。比較的容易に裁判所からの出頭命令がくるなんて、日本ではまず考えられませんが、こちらではしばしばあるようです。
これは賃貸契約に限ったことではありません。アメリカは契約社会であると言われますが、必要なことは解釈の余地がないように明文化することを求めるのが彼らの常識のようです。様々な人種や背景を持った市民が一緒に社会を形成している以上、「言われる前に空気読む」よりは、互いに主張して事前に妥協点を明確に設ける方が合理的なのかもしれません。一方で、ビジネスにおいて、業務や契約にない内容をわざわざすることはないため、店員やホテル、空港でびっくりするほど塩対応を受けたという覚えのある方もいるのではないでしょうか。手続き関係が遅いところは、もう少し何とかしていただきたいと思うこともありますが、多少言うことが違っていても許容できるような免疫は付きました。
契約社会というと、少し冷たい印象を持っていましたが、実際に生活してみるとそうでもありません。例えば、階段でベビーカーや大きな荷物を運ぼうとしている時に、周りが自然と手伝ってくれるという話をしばしば聞きますし、私の場合も、ある時、25セント硬貨がなく困っていたら、その様子を見ていた複数の方が、私に硬貨を渡してくれたのです。こうした、困っていることが相手に伝わっているような状況では、気軽に手を差し伸べるような雰囲気もあります。ざっくりとした感想になってしまいますが、契約に関しては厳しく、かといって手続き関係はテキトウであり、プライベートではおおらかというのが、アメリカなんだなと理解しました。
シンシナティまで足をのばして。フェデラーと錦織を拝んできました。

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驚くほど観光地化されたナイアガラはさすがの迫力。

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クリーブランドでは、8月も下旬になると朝晩の気温はゆっくりと下がり始め、9月はさらに涼しくなっており、外で運動するのには最適な気温です。ただ、この気候は長くは続かず、10月の終わりには雪が降ることも珍しいことではないようで、文字通り長い冬に着々と向かっています。厳しい寒さのため、冬の期間は屋内で過ごす時間がさらに増えそうですが、この時間を利用して仕事も進めたいと思います。
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黒田 俊介(Ohio, USA)