世界最大規模の臨床研究施設

・  施設紹介

留学先であるDuke Clinical Research Institute(DCRI)はDuke Universityの関連の臨床研究施設です。Duke Universityは米国のNorth Carolina州(東海岸の中部〜南部)にあるDurhamという街にあります。以前はタバコ産業で栄えていたようですが、現在では近隣のRaleigh(North Carolina State University)とChapel Hill(University of North Carolina)とともにResearch Triangleと呼ばれる高等教育機関や研究施設が集中する地区となっています。North Carolinaの歴史としては、ライト兄弟が初めて飛行に成功した場所として有名です。

Duke UniversityのCardiologyというと、Palmaz-Schatz stentを開発したDr Richard Alan Schatzを輩出したり、感染性心内膜炎のDuke Criteriaを生み出したことで有名です。個人的には、聖路加国際病院、慶應義塾大学とお世話になった関係で、日野原重明先生のご子息である日野原知明先生がDuke UniversityのInterventional CardiologyでChiefをされていたことに勝手に繋がりを感じています。

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写真:Duke University Hospital(左)とDCRI(右)。歩いて5分くらいです。

DCRIは世界最大規模のAcademic Research Organization(ARO)として、多くの第1相から第4相までのClinical TrialやRegistryに携わっています。設立されて40年ほどになる施設ですが、これまで全世界65カ国37,000施設において1,000以上の臨床研究を手がけ、現在は年間1,000本ほどのpublicationがあり(そのうち約20%がImpact Factor 10点以上!!)、多くの知見がこの施設から生まれています。その約半数が循環器領域に関する研究で、最近ではPROMISE、STICHES、PLATO、TRILOGY-ACS、APPRAISE-2などの多くのClinical TrialがDCRIを中心に施行・発表され、世界の循環器診療に大きな影響を与えています。また種々のRegistry研究にも力を入れていて、全米の循環器疾患のRegistry DatabaseであるNational Cardiovascular Data Registry(NCDR)の中心施設としてNCDR CathPCI(PCIのdatabase)、TVT Registry(TAVIやMitral Clipのデータベース)をはじめ多くのDatabaseの運営、管理、解析などを手がけています。

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写真:自分のcubicle(デスク)です。こんな感じでたくさん並んでます。

Staffの数も1,300人以上になり、職種も医師(FacultyやFellow)以外にも、Clinical Research Coordinator(このなかでもProject Leader、Research Assistantなどと数段階に分かれる)、Statistician、Programmer、Administrative Managerなど、臨床研究に関わる全ての多種多様な職種が働いています。DCRIでは臨床研究を遂行する場合、Project LeaderがResearch Assistantとともに試験全体を俯瞰的に把握しコーディネート(具体的にはスポンサーとの交渉のまとめ役、仕事の割り振り、他施設のResearch Coordinatorとのやり取りなど)し、医師は科学的・医学的側面(Protocolの作成、他の研究者とのやり取り、Adjudicationなど)で試験に関与します。さらに、費用の管理は会計担当者が、データの取得・管理ならびにAdjudicationソフトの開発などはProgrammerが行い、得られたデータの解析・レポートの作成などはStatisticianが行います。こうした徹底した専門家による分業がDCRIの最大の強みであり、多くの質の高い多国籍多施設臨床研究を遂行することができる秘訣と思います。

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写真:とある会議の様子。全部で10人ほどですが、医師は自分を含め4名のみで、あとはStatistician、Programmer、Coordinatorといった職種の方です。

・同僚

DCRIではResearch Fellowship Program(原則2年間)を有していて、毎年約20名のResearch Fellowが採用されています。多くはDuke UniversityのClinical Fellowとのかけもちですが、毎年約3〜4人ほどのInternational Fellowも受け入れており、自分もInternational Research Fellowとして勤務しています。普段から循環器領域のFellowと関わることが多く、Duke UniversityのFellowをはじめ、デンマーク、カナダ、ブラジルからのFellowもいます。皆、とても優秀でmotivationも高く、年齢や臨床経験・研究経験も似通っていて、一緒にいて本当に刺激を受けます。

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写真:休日に他のFellowとそのご家族とSarah Duke Gardenでピクニック。

・上司(Mentor)

Research Fellowship ProgramはMentor制度を取り入れており、自分は2人のMentorに指導してもらっています。

1人目はDr. Sreekanth Vemulappaliです。年齢はそれほど自分と変わらない循環器内科医ですが、DCRIにてTVT Registryの取りまとめ役をしており、Discussionをしていても非常に切れ味が鋭く、家庭のことも親身になってくれる本当に良いMentorです。

2人目はDr. Matthew Roeです。循環器内科医で、DCRIのFellowship Program Directorをしています。多くのMega Trialを行ってきた人で、代表的なものとしてはTRIOLOGY-ACSがあります。最初の面接の時からお世話になっていて、自分がInternational Fellowということもあって、色々と親身になって相談にのってくれます。ただし、臨床や研究のことに関しては鬼のような人で、全てのStudyのことが頭に入っているのではないかというくらい知識の量が素晴らしく、さらにそれを臨床に活かしており、臨床研究に関しては次から次のようにアイデアが生まれてきます。

詳細は次回に紹介しますが、日々の業務において決して臨床業務があるわけではなく、手技に携わるわけでもなく、画像データの解析などをするわけでもないですが、多くのProjectに暴露する機会があり、臨床研究に関して系統的に学ぶ機会も多く、非常に刺激の多い毎日を過ごしています。あとは、この恵まれた環境を最大限に活かせるように頑張るのみです。

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猪原 拓(North Carolina, USA)