留学開始から3ヶ月が経ちました。今回のお題は、最近注目の論文という内容です。せっかくベルン大学というSHDの最前線で学ばせて頂いておりますので、ベルンの最新SHD事情という形で、こちらで経験しているSHD interventionの数々を、簡単にご紹介したいと思います。
A. TAVIの新しいValve
日本でもすっかり一般的になってきているTAVIですが、現在日本で承認されているTAVI弁は、Edwards社のSAPIEN seriesと、Medtronic社のCoreValve seriesのみです。こちらでは他にも、Lotus ValveやPorticoなど様々なValveが登場しております。今回は、現在ベルンでよく使用されている、2つのValveをご紹介します。
1. Symetis ACURATE neo (文献1)
ACURATE neoはCoreValve seriesと同様、Self-Expandable type (SEV)のValveになります。個人的にCoreValve seriesの最大の強みは、supra-annular positionによる有効弁口面積の最大化にあると思っていますが、一方でSAPIENシリーズと比較するとどうしてもpacemaker rateの高さが目に付きます。ACURATE neoはデバイスの金属量を抑えることで、このpacemaker rateを約10%程度まで下げることに成功しており、pacemakerのriskが低いとされるSAPIEN3と比較しても、このriskを下げられる可能性を示しています。23 mm以下のValveではsevere PPM (prosthesis-patient mismatch)が増えるという報告もありますので(文献2)、areaが430 mm2を切ってしまうようなsmall annulusの症例では、積極的に検討していく価値があるかと思います。留置方法は少し変わっていて、先にStabilization Archを開放し、Valveの位置を固定した上でValve自体を開放するという2段階のシステムです。留置マーカーが透視で見えづらいのと併せて、留置に十分慣れる必要がある印象ですが、一旦慣れてしまえば非常に安定した留置ができるため、とてもいいデバイスだと感じています。金属量が少ないためか、どうしても後拡張が多くなりがちであり、当施設では石灰化が強く開放が悪いような症例は避けて使用しています。
2. CENTERA (文献3)
CENTERAはEdwards社から出たSEV typeのValveです。2018年にCE Markを取得したばかりであり、ベルンでもつい先月から使用が始まりました。このValveの特徴は、SEVの中では圧倒的にFrame長が短くlow profileであり、また特徴的なFrame designにより、Pacemaker rateとPara-valvular leakを減らすように設計されているところにあります。また、Delivery systemは14 Fr.と小径であり、フレックス機能もついていることで、Aortaの形状に併せて安全にdeliveryができるようになっています。留置方法にも特徴があり、モーターを内蔵することで、ボタンひとつで留置が可能となっており、オペレーター1人で、留置からrecaptureまでを行うことができるようになっています。 実際の現場での印象としては、ValveとsystemがOne-packageになっているため、Valve loadingがほぼ不要になっており、準備が非常にすばやくスムーズであるということ。一方で、14 Fr.とはいえ、実際に弁が通過する再にかなりシースが拡張しており(実際そのために挿入前にシースを少し拡張させる必要もある)、Accessの問題を解決しているとは言いにくいのではというところ、またフレックス機能はSAPIEN 3と比べると少し弱いような印象もありました。留置の安定性も含め、Learning Curveがあると思うのでこれから見極めていく必要があると思います。個人的には、他のSEVと比較して留置後の有効弁口面積がどうなっているのかが知りたいところです。これからまさにデータを作っていく時期だと思いますので、自分も少しでもそういった仕事に関われればと思います。
B. 新しいTAVIのテクニック
デバイスもどんどん進化しますが、技術の方も向上していく必要があります。こちらに来てから、すでに興味深いテクニックを沢山経験していますので、その一部をご紹介します。
1. Trans-caval TAVI (文献4)
Trans-caval approachに関しては、すでに日本の学会でも多数出てきており、一般的になりつつある手技だと思います。大腿静脈からアプローチし、腹部で下大静脈から腹部大動脈に移行するという独特なアプローチ方法です。腹部大動脈の石灰化の状態や、下大静脈との位置関係(間に腸管がないかなど)を術前のCTで評価する必要があり、手技自体も中々煩雑に思えますが、こちらの施設では、すでに症例数を積んでいるためかとてもスムーズで、手技時間も殆ど延長なく終わっています。学会での印象よりも、慣れてしまえば簡単で、非常に有効なalternative approachだと感じました。実際、こちらに来てからtrans-apicalやtrans-axillaryなどは目にしておらず、trans-cavalが第一選択になってきている印象です。
2. SHOCK-WAVE (文献5)
Trans-cavalと同様にPoor Accessの症例に対するテクニックです。石灰化により狭小化した大腿動脈〜総腸骨動脈に対して、衝撃波を発生させる特殊なバルーン(SHOCK WAVE Medical Inc.)を、通常のバルーンと同様の手技で拡張し、そこに衝撃波を一定時間加えるという手技を繰り返すことで、石灰化を破砕して広げ、アクセス動脈を確保するというテクニックです。尿路結石の治療で使われる結石破砕術の技術を応用したテクニックで、すでにCoronaryの治療にも応用が始まっているようです。非常にシンプルで簡単なテクニックです。ただ、成功しても単純にバルーンの拡張が効いたのか、衝撃波の追加が有効だったのかがよくわからず、これからデータを蓄積していく必要がありそうです。
3. BASILICA (Bioprosthetic Aortic Scallop Intentional Laceration to prevent Iatrogenic Coronary Artery obstruction) (文献6)
Coronary obstructionはnative valveの症例では1%未満、Valve-in-Valveの症例でも約2-3%と、比較的稀ではありますが、一方でどのオペレーターも経験する可能性があり、かつ一旦発生すれば非常に危険な状況となり得る合併症です。さらに今後Bicuspid ValveやValve-in-Valveの症例が増えてくることを考えれば、実際に遭遇する可能性はさらに高まってくるかもしれません。現時点では”Chimney technique”と言われる、予めステントを冠動脈に忍ばせておき、閉塞した時点でostiumにステントを展開するという対処方法が一般的かと思います。しかし、いびつな形で留置されたステントによる長期的な問題点は無視できず、かつ現実的にre-interventionはほぼ不可能と考えられるため、今後の患者層の拡大も考えると、理想的な対策とは言えないのが現状です。BASILICAはこれに代わりうる新しいテクニックで、0.014″ wireを用いて、予めCoronaryの前にあるleafletを縦に裂いてしまい、leafletが留置されたValveで圧排されてもその裂いた部分が開くことでCoronary obstructionが予防されるというテクニックです。当施設でも、まだ始まったばかりの手技であり、現在はWindecker先生がまず集中的に習得している段階です。かなり煩雑なテクニックであり、現時点では手技時間もかなり延長されていますが、今後慣れてきた段階でどうなるのか、また実際にOutcomeへの影響がどうであるか、非常に興味深い手技です。
C. MitraClipの選択肢
1. MitraClip XTR (文献7)
日本でも昨年ついに導入されたMitraClipですが、現在当施設では大体週2-3例のペースで行われています。日本での導入がどのような状況になっているのかはあまり知りませんが、こちらでは現在MitraClip NTRに加え、XTRという別のサイズが用意されており、症例によって使い分けを行っています。単純にNTRのクリップが5 mm長くなることで、弁尖が長い症例や、A2-P2の症例などでより効果的にクリップができるようになっています。一方でCommissuresの症例や、弁口面積の小さい症例などでは従来のNTRにメリットがあり、現状のイメージだと、全体の2-3割の症例でNTRが選択されている印象です。実際には、まだ使い分けの基準や、それぞれの有効性と安全性に関する比較の十分なデータがなく、これから色々な情報が出されていくことが予測されます。
D. 三尖弁のインターベンション (文献8)
1. TriClip
2. CardioBand
最後に、三尖弁のインターベンションにも少し触れていきたいと思います。こちらは、当施設でもまだ週1例あるかないかという程度ですが、徐々に症例を増やしていく方向にあります。昨年末に、CardioBandが当施設でも導入され、1例見学することができました。それまではMitraClipのシステムで、同様に三尖弁をクリップするTriClipが行われていました。いずれも共通して言えることは、僧帽弁と異なり、TEEでの弁の十分な描出が難しく、それにより手技時間が長くなりがちであるということです。数例のみの経験ですが、TriClipは約3-4時間程度、CardioBandは約4-6時間という印象です。有効性の点においては、劇的に逆流が減少している症例もあるため、十分に期待ができると思いますが、MitraClip以上にエコー医、インターベンション医双方の経験と技術、連携が必要とされる手技という印象です。こちらもこれから色々と研究が進められる段階だと思いますので、積極的に関わっていきたいと思います。
以上、少し長くなってしまいましたが、ベルンの最新SHD事情でした。今まで論文の上から眺めることしかできなかった医療の最先端が常に目の前にあるような感覚です。これぞまさに留学の醍醐味といったところでしょうか。研究の方も順調に進んでいます。引き続き感謝の気持ちを忘れず、頑張っていきます。
引用文献
1. Kim WK, Hengstenberg C, Hilker M et al. The SAVI-TF Registry: 1-Year Outcomes of the European Post-Market Registry Using the ACURATE neo Transcatheter Heart Valve Under Real-World Conditions in 1,000 Patients. JACC Cardiovascular interventions 2018;11:1368-1374.
2. Herrmann HC, Daneshvar SA, Fonarow GC et al. Prosthesis-Patient Mismatch in 62,125 Patients Following Transcatheter Aortic Valve Replacement: From the STS/ACC TVT Registry. J Am Coll Cardiol 2018.
3. Ribeiro HB, Urena M, Kuck K-H, Webb JG, Rodés-Cabau J. Edwards CENTERA valve. EuroIntervention : journal of EuroPCR in collaboration with the Working Group on Interventional Cardiology of the European Society of Cardiology 2012;8.
4. Greenbaum AB, O’Neill WW, Paone G et al. Caval-aortic access to allow transcatheter aortic valve replacement in otherwise ineligible patients: initial human experience. J Am Coll Cardiol 2014;63:2795-804.
5. Di Mario C, Chiriatti N, Stolcova M, Meucci F, Squillantini G. Lithotripsy-assisted transfemoral aortic valve implantation. European Heart Journal 2018;39:2655-2655.
6. Lanz J, Pilgrim T, Greenbaum AB, Windecker S. Bioprosthetic Aortic Scallop Intentional Laceration to prevent Iatrogenic Coronary Artery obstruction (BASILICA) during transcatheter aortic valve-in-valve implantation with bioprosthetic valve fracturing via the transcaval access. EuroIntervention : journal of EuroPCR in collaboration with the Working Group on Interventional Cardiology of the European Society of Cardiology 2018;14:884-885.
7. Jorbenadze R, Schreieck J, Barthel C et al. Percutaneous Edge-to-Edge Mitral Valve Repair Using the New MitraClip XTR System. JACC: Cardiovascular Interventions 2018;11:e93-e95.
8. Latib A, Mangieri A. Transcatheter Tricuspid Valve Repair: New Valve, New Opportunities, New Challenges. J Am Coll Cardiol 2017;69:1807-1810.