Bern TAVI registry

留学開始から、ちょうど1ヶ月が経ちました。ようやく自分の置かれている環境を理解し、仕事の進め方も少しずつ覚えてきました。当然ながら、まだ信頼されていないということを日々感じています。言語の壁はやはり避けて通れないですし、今はとにかく自分のできることをしっかりこなしていこうと思います。
さて、今回は留学先の業績と、領域のトレンドというお題でreportさせていただきます。
1. 留学先の業績
前回のreportでも書かせていただいた通り、当施設はこれまでに非常に数多くの研究業績を挙げられています。今回私は、structure heart teamに所属しておりますので、それに関する研究業績のお話をさせていただきます。
なによりも特筆すべきはBern TAVI registryだと思います。これはSwiss TAVI registry (NCT01368250)にも含まれており、当施設でのTAVI患者が前向きに全例登録されるregistryです。これまでに、すでに1,000例以上の症例が登録されており、すべてのeventはValve Academic Research Consortium-2の基準に従い、independent adjudicationされています。この信頼性の高いデータベースを背景に、当施設からはTAVI関連の論文が多数報告されています。(もちろん他施設共同や、メタ解析など、これ以外の研究もあります。)
以下に、このregistry dataを用いた研究のうち、直近の代表的なpublicationを載せます。これはほんの一部に過ぎず、ざっと見てもこれまでに30以上のpublicationがこのregistry dataから出されています。
 
1. Franzone A et al. Transcatheter aortic valve thrombosis: incidence, clinical presentation and long-term outcomes. Eur Heart J Cardiovasc Imaging 2018;19:398-404.
2. Asami M et al. Prognostic Value of Right Ventricular Dysfunction on Clinical Outcomes After Transcatheter Aortic Valve Replacement. JACC Cardiovasc Imaging 2018. pii: S1936-878X(18)30012-30013.
3. Asami M et al. The Impact of Left Ventricular Diastolic Dysfunction on Clinical Outcomes After Transcatheter Aortic Valve Replacement. JACC Cardiovasc Interv 2018;11:593-601.
4. Pilgrim T et al. Predicting Mortality After Transcatheter Aortic Valve Replacement: External Validation of the Transcatheter Valve Therapy Registry Model. Circ Cardiovasc Interv 2017; 10. pie: e005481.
5. Piccolo R et al. Frequency, Timing, and Impact of Access-Site and Non-Access-Site Bleeding on Mortality Among Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Replacement. JACC Cardiovasc Interv 2017;10:1436-1446.
6. Franzone A et al. Rates and predictors of hospital readmission after transcatheter aortic valve implantation. Eur Heart J 2017;38:2211-2217.
 
MitraClipやLAA closure、その他のnew deviceに関しては、まだ単施設でのpublicationはありませんが、現在、徐々に症例とfollow-upデータが揃い始めており、今後様々なpublicationが期待されます。
 
2. Structure領域の現在のトレンド 
Structure領域の現在のトレンドというと、やはりMitraClipの話題になると思います。日本でも今年ついに導入され、私がいた三井記念病院でもそろそろ始まるころだと思います。今年の夏を思い出すと、MITRA-FR試験(1)とCOAPT試験(2)の話題があらゆるところで出ていたように思います。その他にも、色々なNew deviceが登場していますが、これらがデータとして揃ってくるのはもう少し先の話になりそうです。
TAVIに関しては、この数年で非常に多くのデータが蓄積されました。当初、外科治療が適応とならないような高リスク患者に対して開発された治療でしたが、現在は中等度リスクの患者まで適応が広がり、今後低リスク患者への適応拡大が検討されています。私が医師になった当初は、まさに最先端の革新的な治療法だったように思いますが、今やわずかこの数年の間に、安全な標準治療としての地位を確立しました。治療の安全性や有効性に関してはすでに十分なデータが得られており、低リスク患者でも十分に有効な治療になると思いますし、すでにデータもいくつか出てきています。(3)今後は長期的な弁の耐久性が最後の焦点になってくると思いますが、もはや外科手術のリスクが高いからTAVI、低いからAVR、高齢だからTAVI、若いからAVRという時代は終わろうとしていると思います。今後は、PCIとCABGがそうであったように、それぞれの治療の強みと弱みを、外科リスクや年齢といった単純な議論からは離れて検討していく必要があると思いますし、それと同時にTAVIの有効性と安全性をさらに高めるべく、デバイスの改良だけでなく、手技やデバイス選択、リスク評価のストラテジーを洗練させていかなければなりません。また、TAVIの適応が拡大される中、医療経済への配慮も忘れては行けない課題だと思います。これまで、せっかく頑張ってTAVIを受けたのに心臓とは別の理由で早期に亡くなられる患者さんを実際に目にしてきました。こういった患者さんに対しては、医療経済的な側面だけでなく、患者さんの負担を考えてもTAVIは実施すべきでないと思いますが、一方でそういった患者さんを術前に層別化することは想像よりもずっと難しいということも実際に感じています。
これまでに多くのデータが蓄積されてきたTAVIの領域ですが、実臨床の現場ではまだまだわからないこと、知りたいことが沢山あります。新しいdeviceや手技もどんどん開発されています。最近はこれらの疑問を、現在のregistry dataの中でどれだけ解決できるのか、どういった方法で明らかにできるのかということを考える日々です。すでにproposalが通って解析に進めて頂いたものもありますが、まだまだ始まったばかりで、今後どうなっていくのかはわかりません。せっかくの機会なのでTAVIだけでなく、MitraClipやLAA closureなどの領域の研究にも関わっていきたいですし、手技も関わっていきたいです。一方でせっかくのヨーロッパ留学ですし、旅行など、家族と貴重な経験を沢山共有したいとも思います。慣れない環境で、言語のことも含め、やはり多少のストレスはありますが、引き続き忙しく、刺激的で充実した日々に感謝しています。
 
(1) Obadia JF et al. Percutaneous Repair or Medical Treatment for Secondary Mitral Regurgitation. N Engl J Med 2018. 27. doi: 10.1056/NEJMoa1805374. 
(2) Stone GW et al. Transcatheter Mitral-Valve Repair in Patients with Heart Failure. N Engl J Med 2018. doi: 10.1056/NEJMoa1806640.
(3) Waksman R et al. Transcatheter Aortic Valve Replacement in Low-Risk Patients With Symptomatic Severe Aortic Stenosis. J Am Coll Cardiol 2018;72:2095-2105.

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奥野 泰史(Bern, Switzerland)