今回のテーマは「最近注目の論文」ということですので、弁膜症関係で注目の論文についてまとめたいと思います。
一般的に僧帽弁・三尖弁ともに弁自体の異常から逆流を来す一次性、心室や心房の形態異常から逆流を来す二次性に分類されます。僧帽弁逆流(MR)における器質性、機能性の分類はすでに市民権を得ているかと思いますが、機能性MRの中で、さらに左房拡大によるAtrial functional MR、左室拡大/左室機能不全によるventricular functional MR、といった分類が日本を中心に広まってきています。2020年の日本循環器学会の弁膜症ガイドラインでは世界に先駆けてAtrial functional MRについての記載がされ、注目を集めています。ただ、その定義が論文毎に微妙に異なっていて、さらなる検討を要する分野であると思います。また、機会があればレポートで触れたいと思います。
一方で、三尖弁逆流(TR)に関しても同様に器質性、機能性の分類がされています。MRと比較すると器質性TRの頻度は低く、多くが機能性TRに分類されます。カテーテル治療を受ける患者群を見ている限りではほとんどが機能性TRであるような印象を持ちます。その機能性TRの原因としては左心機能不全、肺高血圧、右室機能不全、右房拡大などが挙げられています。そうしたTRのetiologyに関する文献はそこまで多くはないですが、その中から広島大学の宇都宮先生の論文を紹介したいと思います。
2017年にCirculation CV imagingに掲載された論文です[1]。
437名の中等度から高度のTRをもつ患者の経食道心エコー画像の解析を行い、三尖弁の解剖学的特徴をTRのetiology毎に分類しています。
臨床所見やエコー初見を元に、機能性TRのetiology を 1. 左室機能不全・弁膜症, 2. 肺高血圧症, 3. 右室機能不全, 4. 心房細動にそれぞれ分類しています。その中から、左心機能不全によるもの(LH-TR)と心房細動によるもの(AF-TR)の特徴を比較しています。
機能性TRが増悪するメインのメカニズムはMRと同様に弁輪拡大と乳頭筋の偏位に伴うtenting とされていますが、etiology 毎のそれらのリモデリングの程度はあまりわかっていませんでした。今回の結果はAF-TRは弁輪拡大と三尖弁扁平化が強く、一方でLH-TRにも弁輪拡大は起こるものの、tenting がより強く関係しているというものでした。さらにそうした解剖学的特徴はTRの重症度とも相関していました。
さらに2020年のEHJ imaging に掲載された別の論文[2]では、51名の高度のTR患者における三尖弁の乳頭筋の局在を三次元的に評価され、心房性TRと心室性TRでは乳頭筋の偏在などの右室のリモデリングの違いを評価され、両者のTRのメカニズムの違いを示されています。
三尖弁に対するカテーテル治療は様々なデバイスがありますが、いずれも弁の修復をコンセプトにしているため、人工弁置換と異なり、弁や弁尖の解剖学的特徴を詳細に評価する必要があります。そのために、これらの解剖学的特徴は重要となります。例えばクリップ治療であれば、3つの弁尖のいずれを、また弁尖のどの部分を把持するのかなどが議論になります。初期の治療成績のみを考慮するのであれば、その時点での解剖学的評価のみで事足りることもあるかと思います。しかし、原疾患となりうる病態の進行などを含めた中長期的なり成績を考慮すると、それらのetiology自体の理解が必要になるかと思います。
今回のTRのEtiology分類などのような新しい定義を作り、それを証明することは非常に難しいことだと思います。また、少ない患者数でも非常に詳細な計測をされている一方で、変に凝った統計手法を用いずに簡易なもののみで解析をされていることにも、強いインパクトを受けました。また、論文自体からも強い熱意を感じ、自分も将来こうした論文を書きたいなと刺激をもらった論文でした。
ドイツでは2021年12月中旬からロックダウンが強化され、レストランに加えスーパー・薬局などを除く小売店の営業も制限されました。年明けにはさらに強化され、都市間の移動も制限されるようになりました。ロックダウンの効果なのか、同時にワクチンの接種も開始されたこともあってか、増多傾向であった患者数は減少に転じました。3月からは段階的にロックダウンが緩和されることになりそうです。気候も2月中旬頃からだいぶ暖かくなって、晴れる日も多くなりました。これまでのロックダウン下の冬の鬱憤をはらすかのように広場で日向ぼっこをしている人を多く見かけます。個人的には、ロックダウンが終わって早く髪を切りに行きたくてしょうがありません。
(写真: ロックダウン下で閑散としている中央広場)
[1] Utsunomiya H, Itabashi Y, Mihara H, Berdejo J, Kobayashi S, Siegel RJ, et al. Functional Tricuspid Regurgitation Caused by Chronic Atrial Fibrillation: A Real-Time 3-Dimensional Transesophageal Echocardiography Study. Circ Cardiovasc Imaging. 2017;10.
[2] Utsunomiya H, Harada Y, Susawa H, Ueda Y, Izumi K, Itakura K, et al. Tricuspid valve geometry and right heart remodelling: insights into the mechanism of atrial functional tricuspid regurgitation. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2020;21:1068-78.