『人生とは,生き様?死に様?』

イタリアへ入国してから,10ヶ月間が経過した.仕事・生活の両面で様々な事を経験してきており,その多くがこれまでの自分の考えや物の見方を変えてくれるものだった.もちろんそれは現在進行形であり,日々刺激を受けながら過ごしている.将来の目標と言うものは,おそらく,これらの刺激により絶えず変化していくものだと思っているが,現時点での今後の目標について考えてみた.

 
1. 帰国後の目標


 現在は,臨床手技の見学・手伝いが半分,臨床研究や学会発表の手伝いが半分,という毎日を過ごしている.その中で1つ感じたことは,臨床の大切さである.実際に経験した症例や日々の臨床業務の中で生じた疑問が臨床研究につながっていくのであり,ルーチンワークとして臨床に携わっていたのでは,進歩がない.したがって帰国後は,何らかの形で『常に臨床に従事』しつつ,臨床研究を行なって行きたいと考えている.

 また,当施設で若いフェローに対して,臨床手技および学会発表の指導をする機会もあり,改めて教育の大切さを感じた.もちろん自分自身もまだまだ発展途中であり,学ぶべきことは沢山あるが,自分がこれまでに経験したことや身に付けてきたことを,他人に伝えていくことは重要な事である.やや大げさな表現になるかもしれないが,『後進の育成』を自分のライフワークの1つにしていきたいと考えている.

 EU諸国の医療事情を日本と比較した場合,異なる点は沢山あるが,やはり多くの治療デバイスが使用できる環境であるということが,ひとつ挙げられると思う.最近普及が進んでいるSHDに対するインターベンション治療だけでなく,PCIやEVT領域においても,使用できるデバイスの多さを実感する.またそれほど頻繁ではないが,新たなアイデアをもとに開発中のデバイスを紹介しにくるベンチャー企業の方々と会って話をする機会もある.いかなるインターベンション治療も道具を用いて行うものであり,技術を磨いていく努力と同時に,道具を使用する医師が,より積極的に開発に携わっていくべきであると感じる.最終完成品まで携わることが出来なくとも,自分の臨床経験をもとに,他分野の専門家と協力して『デバイスの開発』に関わっていきたいと思う.

 デバイス以外にも日本との違いを感じるのは,こちらでは医師の分業制がかなり進んでいるという点である.救急対応,病棟管理,超音波検査,インターベンション治療,研究などかなり明確に分業されている.もちろんどちらの制度が優れているかの判断は容易ではないが,良い点は参考にすべきだと思う.また自分自身の医療保険申請をする際に分かった事だが,基本的にはかかりつけ医の制度があり,また医療保険制度も大きな違いがある.このような体験をもとに,医療環境に対して『情報発信』をしていきたいと思う.

 最後に,『国際交流』を継続していきたいと考えている.私自身が多くのことを学んでいるように,彼らにとっても日本へ留学することはメリットが大きいと思う.日本のインターベンション治療に興味を持っている若い医師も多い.ビザやライセンスの問題はあるが,将来的には,イタリアを始めEU諸国から若い医師が日本の施設へ留学するような環境を作ることが出来ればと思っている.また,医師だけでなく,地元のイタリア人の方々に助けられながら,日々生活している.彼らと交流していると,日本という国および日本人に対して,様々なイメージがあることが分かる.中には全く見当違いなイメージを持っている人もいるが,彼らのフィルターを通して日本という国を再認識することも出来た.今後は,様々な面でイタリアと日本の橋渡し役になりたいと思う.

 以上をまとめると,私自身の帰国後の目標は,

          1. 『常に臨床に従事しつつ,臨床研究を行う』
          2. 『後進の育成』
          3. 『デバイスの開発』
          4. 『情報発信』
          5. 『継続的な国際交流』

ということになる.これらの目標に向かって,着実に歩んでいきたいと考えている.

2. 将来の方向性


 簡単なことではないが,常に自分の将来像を考える様に,努力している.短期的には5年先をイメージする.漠然と考えてしまうと,不確定要素が多いような気がして,5年も先のことはイメージしづらいかも知れない.ただ落ち着いて考えてみると,自分が選べる選択肢はそんなに多いわけではなく,順序立てて考えていくとうっすらでも先が見えてくる.あるいは,逆に過去5年を振り返り,どのように過ごしてきたかを見直してみることも,5年後を考える上で有用だと思う.一方で,ときには長期的な将来像を考える必要もある.長期的な将来像,それは,人生そのものであり,自分の『生き様』を考える事に繋がる.当然のことだが,人生には限りがあり,その限られた時間の中で自分らしく生きていく必要がある.『どのように生きていくのか』ではなく,より主体的に『どのように生きていきたいのか』を考えていきたいと思っている.

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梅本 朋幸(Italy)