人は本当に一人では生きていない

1)留学までの国内での書類の流れ
ライマース医師の許可も得られ、無給ではあるがフェローとして受け入れてくれることになった。日本と異なり、現地での年度開始が夏休み明けから、ということもあって、すぐにでもフェローシップを開始しろと言われた。しかしながら、職場での人事異動時期も考慮して、留学開始は4月からと予定させてもらった。受け入れ先が決定したのが10月過ぎであったため、この時点で4月まで約半年間の猶予があり、比較的ゆっくり準備ができるだろうと考えていた。見学から帰国後、まずは職場の上司に見学の報告と留学の相談を行なった。その後、所属医局へ事情を説明し、留学の許可を頂いた。留学に必要な書類は留学形態および留学先により様々であるとは思うが、私のケースでは、基本的にVISAがあれば良いということであった。VISA申請は、在日イタリア大使館のホームページを確認すると『VISA申請は出発の90日前より受け付けています』ということだったので、1月過ぎに申請を行うこととした。年明けまでは、過去にイタリアへ留学された先生方を紹介していただき、VISA申請方法および取得までの経過や、イタリア留学中に苦労した事など教えて頂いた。VISAに関しては、多くの方が『何度か大使館に行く必要があったけれど、最終的には取得できた』とのことであったため、不安はあったが、最終的には多分取得できるだろうと高をくくっていた。そのため、実際にVISA申請を行ったのが2月を過ぎてからになってしまった。はじめに窓口に申請書類を持っていくと、様々な書類の不備を指摘された。自分で作成できる書類の不備はすぐに訂正することが出来るのだが、留学先からの招聘状や推薦状などはその都度書き直しを依頼する必要があり、予想以上に時間のかかる作業であった。また、人づてにいろいろな方を紹介していただき助言を頂いた。なお私自身は、在日イタリア大使館まで比較的近い場所に住んでいたため何度も通うことが出来たが、遠方に住んでいた場合にはもっと時間がかかったと思われる。イタリア大使館の窓口の方をはじめ、本当にたくさんの方おかげでなんとかVISA取得まで辿り着くことが出来た。しかし最終的にVISAを手にしたのは、なんと日本を出国する3日前だった。
今思い返すと、やはりVISA申請は出来るだけ早い時期に開始すべきであったと思う。公式には90日前からの申請が可能、となっているが、それ以前に大使館へ相談することも出来ただろう。また、他にもっと早くから出来たことは、各所属学会への連絡や現地語(イタリア語)の学習だった。学会によっては、休会届や連絡先変更など、インターネットを利用しての届出が可能であるが、留学先の通信環境が整うまでに予想以上に時間がかかるため、できたら国内にいる段階で全て済ませておけば、学会事務局にも迷惑をかけずにすんだと反省している。また現地語については、最低限の日常会話程度はできるようになっておけば、入国直後の様々な手続きがもう少し楽になったと思う。

写真1:何度も通った思い出のイタリア大使館

写真1:何度も通った思い出のイタリア大使館


写真2:実際に提出したVISA申請書

写真2:実際に提出したVISA申請書


写真3:取得できたVISA

写真3:取得できたVISA


写真4:イタリア語教材

写真4:イタリア語教材


2)引っ越しについて
まずは、どのように住居を探すかというところから始まった。結論から言ってしまうと、私のケースはあまり参考にならないかもしれない。というのも、地元の方に探してもらい、ある程度の契約までして頂けたからである。実は昨年の9月、見学のため1週間ほど滞在していた間に、たまたまではあるが、病院近くのお店に務めている日本人の方と知り合うことが出来たのだ。イタリア人フェローからお勧めされたピッツェリアの場所が分からず、道を尋ねるために入った洋服店で出会った。まさに偶然である。もともと日本人はほとんどいない街ということもあってか、非常に親切にピッツェリアまで案内して頂けた。この時は、大袈裟でなく、運命を感じた。初対面ということで気が引けたが、事情をお話して連絡先を教えて頂いた(この時に思い切って聞いておいて、本当に良かったと思っている)。その後正式に留学することになり、あらためてメールで報告をしたところ、知り合いの不動産屋さんに相談してくれて、物件探しを手伝って頂いた。物件の写真をメールで送ってくれたり、実際に物件を見に行って感想を教えてくれたりと、非常にお世話になった。この方に出会うことが出来なかったら、どのように物件を探していたか?留学経験者の方の話を参考にして、インターネットのサイトから予約するつもりでいた。実際、見学に行く前に、少しチェックをしていた。いくつかのサイトはイタリア語だけでなく英語での表示もあったため、ある程度絞り込むことは出来た。しかしながら、どの辺りが安全なのか、地元でのだいたいの相場がどれくないなのか、などはインターネットからの情報だけでは不十分であった。ネットで探す場合には、受け入れ先の施設の医師や秘書さんに対して、このような情報を繰り返しお願いするのが良いと思う。特にこれまでフェローを受け入れている施設であれば、以前のフェローがどのような場所に住んでいたかが、非常に参考になると思われる。留学前に見学に行く機会がある場合には、この辺りも同僚や秘書さんに聞いておくべきポイントになると思う。
アパートに入居できるのが入国してから5日後の予定であったので、1週間ほどホテルの予約をしておいた。実際の引っ越しについては、宅急便や国際郵便など検討したが、予想していた以上に費用がかかるため、必要最小限のものだけを、スーツケースに詰め込んでイタリアへ入国することとした。約1週間分の着替え、書籍、筆記用具、薬、フライパン・やかんなどの調理器具、そして醤油。今思うと、何故そんなものを入れたのか?と笑ってしまうが・・・。実際にアパートへ入居してみると、フライパンはもちろんのこと、パスタ用の鍋や包丁、そして食器一式まで揃っていた。電子レンジも備え付けてあり、寝具(ベッドおよび掛ふとん)まで用意されていた。この辺りは、入居するアパートによっても異なるとは思うが、事前にもっと詳しく不動産屋さんに聞いておくべきであった。ちなみに、醤油も近くのスーパーでたくさん売られていた。
写真5:アパートの賃貸契約書

写真5:アパートの賃貸契約書


写真6:たくさん売られていた醤油・・・

写真6:たくさん売られていた醤油・・・


3)入国後の書類の流れ
イタリア入国後にまず行うべき手続きは、滞在許可証(permesso di soggiorno)の申請である。正式なVISAを取得していてもこれがないと不法滞在となってしまうということである。しかも、基本的にイタリア入国から8日以内に申請する必要がある。申請方法は、郵便局で『Kit』と呼ばれる申請書を入手し、必要事項を記入して、郵便局の窓口に提出する必要がある。これらの情報を事前に調べていたため、ホテルにチェックインしたあと、支配人に最寄りの郵便局を教えてもらい早速立ち寄った。英語が通じないと困るので、予め紙にイタリア語で『滞在許可証を申請したい』と書いて持って行った。案の定、英語はほとんど通じなかったため、カンペがあって助かった。ちなみに、この『Kit』の中には、複数の申請書が入っていて、留学用のものは『Modulo1』という書式である。また、申請時には以下の書類が必要になる。

  • 記載済みの申請書(Modulo1)
  • パスポート全ページのコピー
  • € 14,62の収入印紙
  • 入学許可証(留学先からの招聘状)のコピー
  • 保険証(海外医療保険証)のコピー
  • 財産証明(英文の残高証明など)のコピー
  • 滞在許可証申請料として、3ヶ月以上1年以内のものは€ 107,50(郵便局で支払った)

パスポート全ページのコピーはしていなかったため、収入印紙を購入したタバッキーでコピーした。その日の夕方までに全て揃えて、再び郵便局の窓口へ行き、無事に申請することが出来た。この申請時に、控えとして渡される書類の中に、次回、警察署(クエストゥーラ)に出頭する日時が書かれていた。私のケースでは、4月15日に申請したところ、出頭日時は、5月5日の10時33分と記載されていた。『33分』と細かい時刻まで指定されているのに、驚いた。同僚たちから、警察署はいつも混んでいるから早めに行ったほうが良いよと言われ、当日は8時半頃には到着したのだが、すでに50人以上が並んで待っていた。入り口で当日の整理券を配布しており、実は、事前に指定された時間はほぼ関係なく、当日の整理券の順番が来るまで手続きができなかった。噂には聞いていたが、申請手続きが終わったのは13時過ぎであった・・・。実際の手続きは、必要書類を提出して、指紋を採取するだけであったが、いつ呼ばれるか分からないため、ずっと待っている必要があり、非常に疲れたことを覚えている。ちなみに、この時に必要な書類は以下のものである。

  • パスポート原本
  • 最初の申請時にコピーで提出している書類の原本
  • 住居の賃貸契約書コピー
  • 証明写真4枚

この時に、『滞在許可証を申請しています』という事を証明できる控えを受け取れる。入国後3ヶ月が過ぎてしまった場合には、この控えが重要となる。正式な滞在許可証は地域によるが早いところで2ヶ月程、遅いところでは10ヶ月近くかかるところもあるようだ。私の場合、8月13日に受け取ることが出来た(最初に申請から約4ヶ月、警察署での指紋採取から約3ヶ月かかった。)。なお、控えに記載されている番号を、警察署のホームページに入力すると、出来ているかが確認できるシステムになっている。また携帯電話番号を伝えておくと、SMS(いわゆるショートメッセージ)で受け取りの日時を知らせてくれる。したがって、はじめに警察署へ出頭する日までに、現地の携帯電話番号を手に入れておくと非常にスムーズである。正式な滞在許可証を手に入れた後は、役場(Comune)に出向いて、住民登録を行う。私も早速申請をしに行ったところ、

  • パスポートの原本
  • 滞在許可証の原本
  • アパートの賃貸契約書

が必要であった。この後、自宅へ係員が実際に住んでいることを確認しに来るようだ。その後あらためて、役場へ申請に行く必要があるとのことであった。現在のところ、自宅へ係員が確認しに来るのを待っている段階である。
(入国後、いろいろな方に聞いた話ですが、イタリアでは頻繁に法律が変わる為、ここに記した流れも、変わる可能性があるとのことです。今後、イタリア入国を予定している方は、その時点での最新情報を確認して下さい。)

写真7:滞在許可証を申請するための“Kit”

写真7: 滞在許可証を申請するための“Kit”


写真8:イタリアの郵便局

写真8: イタリアの郵便局


写真9:ついに手に入れた滞在許可証

写真9: ついに手に入れた滞在許可証


4) 生活のセットアップ(ユーティリティなど)

生活のセットアップに関しては、滞在許可証の件もあり、また緊急時にいろいろなところへ連絡ができるようにと考え、はじめに携帯電話の契約をすると決めていた。入国した当日、郵便局で滞在許可証を提出したその足で、近くの携帯ショップへ向かった。前もって、日本でSIMフリータイプのスマートフォンを購入しておいたので、窓口でその旨を伝え、SIMカードだけ契約することにした。パスポートを提示するだけで、年間契約をすることが出来た。その場で、SIMカードを挿入してくれ、接続の設定までしてくれた。かかった時間は全部で15分位だろうか。想像していたよりも非常に簡単に携帯電話を手に入れることができた。機種にこだわらなければ、現地でSIMカードとスマートフォンを手に入れることも簡単であると思われる。その後数日は気楽なホテル暮らしであった。アパートに関しては、寝る場所と食料があればなんとかなるだろう、と考えていた。しかしながら、いざホテルからアパートへ移動する段になって、具体的にいろいろと考えてみると、急に不安になってきた。日本で生活していた時には当たり前と感じていた電気・ガス・水道などのライフラインがなければ、現代生活に慣れきった体にとって、相当キツイものになることが想像できたからである。アパートに入って恐る恐る確認すると、幸いにして、電気は既に通じていて、蛇口をひねると水も出てきた。片言のイタリア語で大家さんと会話をしながら、契約書にサインした。大家さんが帰った後、簡単に部屋の掃除をし、トランクから荷物を出して整理をし終わってシャワーを浴びることにした。ところが、いつまでたってもお湯が出てこない。慌てて、大家さんに電話をしたが、なかなか話が伝わらず苦労した。言葉が通じないことが、こんなに大変なんだということを初めて痛感した。結局、ガスが開通するまで3日間かかり、その間水風呂で我慢することになった。

写真10: SIMカードとスマートフォン

写真10: SIMカードとスマートフォン


写真11: しばらく水しか出してくれなかったシャワー

写真11: しばらく水しか出なかったシャワー

t_umemoto
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梅本 朋幸(Italy)