海外に出て見つめなおす日本

1. 日本人はどう見られているか

日本人やアジア人のイメージとして、“時間を守り、頼まれた仕事をしっかりと仕上げる”などといった、真面目なイメージは今でもあると思います。一方で、“英語が下手、積極性に欠ける、発言が少ない“といったネガティブなイメージもあるように思います。
米国に最も多いアジア人留学生はインド人や中国人で、彼らもいわゆる古典的な日本人/アジア人のイメージである、“真面目できちんと”というイメージを持ち合わせ、押しなべて英語ができ、さらに積極性があります。その上、海外に出る留学生が優れているのか、コミュニケーション能力に優れ、キャラクターの面でも上司からの信頼の厚いアジア人は私の周りに多くいます。ゆえに、(個人的な感想ですが)“日本人”だからというイメージで得をすることは少なくなっていると思います。
 

2. 日本から何を発信するか

  (1)日本の特性
医師7年目に、タイ王国で米国含む8か国の多国籍軍で行う人道支援共同訓練に参加したことがあります。東南アジア地域で地震や津波などの災害があった際に、軍が人道支援を国家間で協力して行う方法を議論することを目的としています。訓練の中でグループワーク討論があり、4グループに分かれ、グループ討論後、グループ代表者が内容を発表します。2つのテーマが与えられ、4グループから8人の発表者がプレゼンを行い、最も素晴らしいプレゼンをしたチームに賞が与えられるというものです。面白いことに、前段の発表者は各グループすべての発表者がインド人でした。後段の発表者の4人のうち2人は日本人でした。インド人の堂々としたプレゼンには学ぶところが多くありましたが、日本人の人道支援や災害を経験したことのある2人のプレゼンも内容に引きつけられ、プレゼンスキルや言語能力、積極性などの重要性と共に、深い専門性を背景にした内容の充実度が非常に重要であることを感じました。
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写真1. https://www.dvidshub.net/より引用
私がサンライズYIAで発表した際、審査員の原先生より、もっと災害支援や災害医療に特化したことを考えれば、日本の特色が生かせるのではないかというアドバイスがありました。実はこのグループ討論をしている際にも、地震が起きたあとや津波が起こった際にどのような医療が必要とされ、どのような問題点が生じるのか日本人に聞けよ、という声がよくありました。現在も台風や豪雨災害などのニュースを聞くと、とても心が痛みますが、地震や台風から何度も立ち直ることを経験している日本の災害医療は海外からも一目置かれており、発信する価値があると思います。
米国では、人種のるつぼであることを生かして、人種の違いが予後に与える影響を研究することが一つのトピックですが、人種の違いがほとんどない日本が同じアジアの他国と共同で研究して、韓国や中国とどのような類似点と相違点があるのかなども調べることも重要だと思います。こちらに来て、日本人として見られるというより、アジア人として見られることが多いように感じます。日本在住時と比べても、アジアの人々に感じる親近感は増しています。アジア共同多民族コホートの実現性は高いのではないでしょうか。
また、ヘルスプロバイダー教育の観点から、非常に興味を持っている”Resolve to Save Life”というプロジェクト(https://www.resolvetosavelives.org/)があります。私の所属するジョンズホプキンスウェルチセンターが一つの参画施設として関わっています。途上国のヘルスケアプロバイターを訓練し、多様な方法でそれを評価し、各国のヘルスケアの質を向上させることを目標としています。その具体的な取り組みの一つして、年間630万人といわれる世界中の心疾患死亡患者の予防を挙げています。ヘルスケアプロバイダーの教育と、疫学者の育成により、血圧のコントロール、塩分摂取の低減、トランス脂肪酸摂取の削減を達成し、ひいては、”100万人の心疾患死亡を救おう”とするものです。
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https://www.resolvetosavelives.org/ より引用
同様のアプローチで、日本の自衛隊衛生も国連平和維持活動(PKO)に協力する形で、PKO部隊の隊員に対して救命活動の教育訓練を行っています。適切な救護措置がとられないことによる年間100人前後の防ぎ得た死亡を減らすことを目的とし、アフリカ、アジア諸国の要員の育成を目指しています(https://www.facebook.com/jgsdf.fp/videos/386188935591676/)。
いずれの試みも、各国のヘルスケアプロバイダーを教育し、大多数の生命を救うことを目的とした意義のあるプロジェクトだと思います。高い医療水準を持ち、予防医学や救命医療の教育システムを持つ日本が発信できる領域だと思います。
 
  (2) 日本の医療知識、経験は役立つか
臨床から離れると、患者さんや他科の医師から相談されることが減り、統計、疫学、英語のスピーチについて、人に相談することが増えました。それでも、ラボで相談を受ける(話を振られる)ことといえば、日本での医療のことです。特に専門医をもって、他国と比較し医療水準の高い日本で医療をしていた経験は、きちんとした知識と伝える能力があれば、かなり役に立つことは間違いないと思います。特に、循環器領域の中でも、さらに専門に臨床/研究していた領域に関しては、海外の専門医と詳しいレベルで話ができるのではないかと思います。プレゼンやディスカッションを考える際に、内容の充実度を考えると同時に、言語能力を含むプレゼンスキルを考える必要があると思いますが、私が今現在感じている問題はどちらかというとこの伝える能力にあります。
 

3. どのように発信するか

プレゼンテーションの機会
私の所属するジョンズホプキンス大学ウェルチセンターでは、隔週で教授や准教授などのファカルティが自分の研究に関してプレゼンし、質疑応答をするMethods and Ideas in Cardiovascular Epidemiology Interest Group (MICE)という会と、博士課程や修士課程の学生およびポスドクが自分の研究の進歩状況をプレゼンし、15名ほどのファカルティ陣と20名ほどの学生からコメントをもらうResearch In Progress (RIP)という会があります。MICEが40分プレゼンで20分の質疑応答に対して、RIPは20分のプレゼンと10分の質疑応答を二人の研究者が行います。
10月第2回RIPが10月末に行われ、その発表者のうちの一人が私でした。
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写真2. RIPでの発表
7月に始めたプロジェクトの結果がそろい始め、上司やチームメンバーからの指導がまとまったため、論文化に向けて、さらに改善できる点がないかどうか指摘してもらうことを目的に同研究センター内で発表します。
私自身は国立循環器病センターで研修をしていたころ、現在北海道大学におられる永井利幸先生をはじめとする指導者に恵まれ、国際学会や、日本循環器学会総会での発表の機会を得ました。しかしながら国際学会での発表であっても、私の能力が足りず深いディスカッションをする機会は非常に限られていると感じていました。
言語能力には日常の社会生活を行うための“Basic Interpersonal Skills (BICS)”と、アカデミック討論をするための“Cognitive Academic Language Proficiency (CALP)”という二つのレベルのスキルがあるそうですが、BICSが習得に2-3年かかるのに対して、CALPは習得に6-7年かかるといわれるそうです(Met 1994; Cummins 1984; Ramirez 1992)。英会話レッスンなどでは、BICSの練習はできても、CALPの練習はなかなかできません。思い返すと、日本で経験できる英語でのオーラルプレゼンテーションは、SUNRISE YIAと日本循環器学会総会での経験しかなく、CALPの経験を積むという観点から非常に貴重であったと思います。少しでも発表を迷われている方がおられましたら、参加されることを強くお勧めいたします!!
こちらにきて最も驚いたことの一つは、博士課程の学生のプレゼン能力の高さでした。並み居るプレゼン上手な学生に交じりプレゼンすることは、私にとってはかなりのプレッシャーですが、温かいチームメートや上司の松下邦洋先生の支えがあり、無事にこちらでの初回オーラルプレゼンテーションを終えました。プレゼンの上手な学生に相談すると、米国では、大学時代にアカデミックライティングの講義があったりするようですが、アカデミックスピーキングについては実際に経験を積む過程で、独学で勉強しているようです。この半年を振り返ると、毎週のチームミーティングで自分の研究の進捗状況の簡易プレゼンを行うことが、着実に経験として役に立っていると自覚しますし、論文を作成しプロジェクトを進める過程でアカデミックライティングもアカデミックスピーキングも経験が増えていくと思います。論文を書くことを一つの目標として進めていく中で、英語でのプレゼンやディスカッションの機会があり、技術を磨けることは素晴らしいことだと思います。
何をどのように発信するかのまとめになりますが、2017-2018シーズンYIA受賞者の堀内優先生が述べられているように、日本人と米国人のディベート/プレゼンテーション能力の差は多くが英語による差のように感じます。しかしながら、国際学会等でのディベートが英語であることを考えると、英語能力の差がプレゼンターのアカデミアの能力の評価に多少なりとも影響してしまうのは避けようがありません。自分の臨床および研究に関する専門領域を、日本と海外のガイドラインを踏まえて英語で説明しディスカッションできる。それが、留学に来た際に大きな武器となるのではないかと思います。

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本田 泰之(Baltimore, USA)